三十六話
ヤンデレもいいよね~。リアルヤンデレは怖いけど。
大男二人組をどうやって裁くか思案している間に、相方がどうやら勝利したようだ。
周囲を見渡している。
意外に強い?
最初にオレを視認した相方も、オレを見てそんな顔をしている。
だがすぐに視線をそらし…今や立っている四人の内、残った敵二人に突っ込んでいく。
アイツは突撃バカか?
またもやオレはそんな相方に合わせる為に、相方とは別の敵を受け持つ。
全身を赤い血で染めた大男がオレを見下ろす。
間近で見ると二メートルはあるな、コイツ。
その目に宿るは狂気。
どうやらすでに血に酔っているらしい。
大男…狂剣使はその体格に合わせたようなデカイ大剣を躊躇いもせず振り下ろす!
剣先は石畳の地面を叩き割り、石の欠片が飛び散る!
殺す気満々だな、おい。
おそらく幻惑剣技の『狂化』を自身に使い、最低限…敵か味方かを区別する理性以外は全て殺戮衝動に注ぎこんでいるのだろう。
そうやって肉体のリミッターを外し、暴れている……多分もう一人の方も。
これはオレ一人で二人を相手にするのを覚悟しておいた方がいいかな?
狂剣使の強さは『狂化』の効果で限界突破もあいまって、実力的にA級剣使に匹敵すると分析。
本気出さないと死ぬかも!
狂剣使が吠える!
先の一撃を避けられてご立腹か!?
ひたすらに狂剣使が大剣を振り回す!
その攻めは苛烈の一言!!
吠え、叫びながら振るう一撃一撃が風を切り、大地を削る!その全てが必殺!
狂剣使は疲れもみせず、猛攻は続く!
その異常さは誰の目から見ても明らかなのだが……コロシアム内にいる観客も正常ではなかった。
興奮している観客のほとんどが、殺せ、殺せと醜悪に喚き散らしている。
老若男女に関係なく、その歓声は狂剣使を更に狂わせていく。
少なくとも、対峙しているオレにはそう感じずにはいられない程に、狂剣使の威圧感が増している!
再度、大剣が地を削るがこの程度なら…油断していたわけじゃない。
だが回避に専念していたオレを予想外な動きで狂剣使が捕まえた!
剣を投げ捨て、狂剣使の右手がオレの首を掴む!
咄嗟の事に反応が遅れたオレを片手で持ち上げる狂剣使。
その怪力さに驚きを隠せない。
オレは決して体格的に大柄ではない。
だが間違っても片手で持ち上げられる程小柄でもない。
装備を含めれば尚の事。
だが現状、オレの体は軽々と持ち上げられている。
すごいな『狂化』は。使う気にはならんが。
オレの明らかなピンチに観客が総立ちになる。
勝敗が決する。
観客もそれを理解し、期待している。
狂剣使はそれに応えんと腕を限界まで上に突き出す。
その行為はオレの首を更に圧迫し、呼吸を阻害する。
やべぇ、この状態はシャレにならん。
困った。
ピンチだ。
あまりに困ったので頭をかきたくなる。
いや実際にオレは体を持ち上げられている状態なのに、のんきに右手で頭をかいた。
そんな所作に、興奮気味の歓声がザワついた。
それに感応したのか、狂剣使の力がほんの少しだけ弛む。
コイツは場の雰囲気で酔うタイプかと勝手に分析し…
ちょうどいい位置にアゴがあったので、全力のヒザ蹴りをみまう。
意識がトランス状態の狂剣使はのけぞるだけの効果…には終わらない。
精神が耐えても肉体は耐えられない。
狂剣使のヒザが崩れ、オレの足裏はようやく石畳に着地。
だが敵ながら天晴れと褒めるべきか、狂剣使はまだその手を離していない。
オレの首を掴んだままだ。
だがいつまでも野郎に首を絞められいるのも何かヤダよな。オレは左腕のスイッチを切り替えるように意識する。
そして左手で狂剣使の腕を掴み、握り潰す。
「ウガアアアア!」
『狂化』は痛覚に鈍くなるとはいえ、完全に遮断するわけではない。
だから痛みは感じる。
人外の握力で握り潰したので骨は折れるどころか砕けただろう。
オレを拘束する役目を放棄せざるを得ない腕を引き剥がし、速やかに狂剣使の顔面に左のストレート。
顔面は潰れ、血を撒き散らし倒れ伏す。
これで一人。
視界の隅でまだ倒れていないのは知ってるが、直に相方を目視。
まだ粘っている事よりもその強さに驚く。
ただの突撃バカではなかったらしい。
C級だと勝手に自己判断したが高位剣使なみだ。
そして何故オレはあの相方に違和感を覚えたのか、その戦闘スタイルでようやく分かった。
あの刀に鞘があったからだ。
剣使が剣を具現化するのは当然。
わざわざ持ち歩く面倒は避ける。ならいつでも抜き身でいいはず。
なのに鞘まである。
その理由は居合い術にあった。
稀少なその戦闘スタイルの使い手とは考えもしなかったなぁ。
そんな相方に襲いかかるもう一人の狂剣使だが、愚かにも自分が死の間合いに入った事に気が付いていない。
直後に神速の居合いが首をはねる。
ビーーーーーー!
終了の合図。
チーム戦は二名の勝者だけを残して終わりを告げた。
リアル女子の「ダメ」は本当にダメなんだと改めて知った今日この頃。




