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つぎはぎマリーの子守唄  作者: 宮澤


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7話 招待状

「……これ、あんたに預かってきた」


 普段通り茶葉を預かりにきたニケが眉をいつも以上に顰めながら一枚の手紙を差し出してきた。


「……?あり、がとうございます」


 手紙を受け取ったマリーは裏返し差出人を確認する。


「―――フレア・ハヴォール、侯爵令嬢」


『それって……ねえ、マリー。それ突き返したらやっぱ駄目?』


『あのねえ!ジェシカ貴女一応伯爵令嬢だったのでしょう?無かったことに出来るわけないじゃ無いの』


『分かってるよエバ。言ってみただけだって』


「………」


 封を切って中身に目を通すと、そこにはこう書かれていた。


“偉大なる占い師様

 先日は誠にありがとうございました。

 おかげで私は愛を信じる事ができました。

 つきましてはそのお礼がしたく。

 ぜひ我が家にお越しいただけませんでしょうか?

 日時に関しては占い師様のご都合に合わせたいと思っています。

 色良いお返事をお待ちしております。



 フレア・ハヴォール”


「………」


「……今、返事を書いてもらえると助かるのだが」


「――ニケさん、内容をご存知で?」


「いや。だが、あんたの返信を届けることと、返答によっては王都までの護衛を依頼されている」


「護衛、ですか?」


「ああ。それなりにだが腕は立つ」


 ニケの言葉にマリーはまじまじと目の前の男を眺める。

 確かにその隅々まで鍛えられた身体はとても一介の商人とは思えないものだった。


「―――……なんだ」


「あ、いえ!すみません……すぐお返事を書きますね!」


(大変不躾な視線を送ってしまったわ……)


『あーどうしよう。俺、嫉妬でどうにかなりそう』


『押さえて、アーシュ。ほら、今月の売り上げの事でも考えて』


『それで喜ぶのはオレとキミだけだと思うぞ、ジェシカ』


『ねえ、マリー多分何にも聞こえてないよ?お手紙書くのに集中してる』


『当然ですわ。お相手は侯爵令嬢ですもの。失礼があってはいけませんからね』




「……これを、お願いします」


 暫くしてマリーは出来るだけ丁寧に書いた手紙をニケへと託した。


「護衛も、よろしくお願いします」


「……承知した。――……その、マントは着けていくのか?」


「そのつもりです」


「そうか……」


「やはり、駄目でしょうか?」


「いや、呼び出したのは向こうだ。俺から事前に伝えておこう」


「……!ありがとうございます」


 マリーの喜色ばんだ声色に、ニケは常ならば顰めているように見えるその顔を少しだけ緩めた。


(ニケさんは眉間の皺が無くなると、少しタレ目で幼く見えるわ)


 フードの下でマリーも目元を緩めた。

 取引を始めて、6年。

 全く顔を見せないマリーの事を、ニケがぞんざいに扱う事はたった一度も無い。

 そんな彼をマリーは心から信頼しているのだ。






 そうして驚くほど早く、フレアからの返事は来た。

 マリーの指定した日時に、是非我が家に来て欲しいと。

 こうしてマリーは実に6年ぶりに王都へと向かう事になった。

 



『ねえ、マリー。子守唄歌って?』


「眠れませんか?イブ」


『うん。あのね、マリー。イブは……マリーが傷つくのが嫌なの。マリーがね、周りの声をそれほど気にしてないのは分かってる……だけど、イブは嫌なの』


「イブ……」


『俺もだよ、マリー。今回は行かなきゃいけないのは分かってる。格上相手の誘いだからね。……マントで顔を隠して、それでも君が君だと気づかれないとは限らない。……こういう時もどかしいよ。俺は何にも役に立たない』


『……そうだね。わたし達の事が分かるのはマリーだけ。矢面に立つのはマリーになっちゃうから』


『――さっさと終わらせて帰ってきましょう。マリーも、もし何か言われてもすべてに耳を傾ける必要などありませんわ』


『――まあ最悪、全部嫌になったらオレの祖国に拠点を移すって手もあるぞ!色んな人種が住んでるから、マリーの事も気にしないと思う!』



「……ありがとうございます。みんなが一緒に居てくれるから、だから私は大丈夫。――さ、なんの歌にしましょうか?」


『最初に歌ってと言ったのはイブだから、今日はイブが決めて?』


『ありがと、ジェシカ。……じゃあねぇ……』


 森の中で、小さな家の中でマリーの歌声が静かに響く。

 優しく、穏やかなその声は、夜の星々の間をゆったりと通り抜けていった。





 

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