6話 とある貴族のご令嬢③
「まあそんなこんなでね、王都は今みんなオーラン様と婚約者殿の恋物語に夢中なんだ。僕たちは後処理で大忙しだったけどね」
「それは大変でしたね……でも、魔法医であるマシュー様もお忙しかったのですか?」
「うん……ちょっとその男爵令嬢に関して僕たちの管轄だったから。ごめんね、詳細は言えないんだけど」
「いえ、そんな中ここまで来て下さってありがとうございます」
「いいんだ。マリーの元気な姿はこの目で確認したいから。……王都に戻る気はまだ無い?」
「――……はい。仕事も軌道に乗ってますし、ここが気に入っているんです」
「そう……いや、それならいいんだ。君が幸せに暮らせる場所が1番大切だから。それにね、今王都は少し物騒かもしれない」
「……物騒?」
「少し……異様なんだよ。件の男爵令嬢は今や稀代の大悪女扱いだ。だけどね、彼女は少し前まで聖女と持て囃す団体までいた程なのに。みんな一斉にオーラン様と婚約者殿を持ち上げつつある」
「……でも、そのご令嬢はそれほど酷い事をなさったのでしょう?」
「うん……そうなんだけどね―――それは、そうなんだけども。誰も残りもしないのが余りに……本当に彼女1人だけの罪だったのかな……」
ぽつりとマシューが溢した言葉はやけにマリーの耳に残った。
『まったく見まして!?マシューの隈が一層酷くなってましたわ!!その男爵令嬢とやら、許せませんわ!!』
『……でも確かに、そんなに慕われていたなら1人くらい寄り添う人が居てもよさそうだよね。マシューさんの話を聞く限り誰もそばに居ないんでしょ?イブは王都の事全然分からないけどそんな冷たい人ばっかなの?』
『まあ、しでかした事が大きいから人が引いていくのはわかるけど……確かにあいつが気にするのも分かるな』
『……オレは貴族社会に疎いんだが、そもそも令嬢1人に暴漢を用意できるものなのか?』
「それは……」
到底無理だというのは誰もが分かる事だった。
『まあ、さ!マリーは今王都から離れたこの地に居る。巻き込まれなかった事をありがたく思いましょ!』
ジェシカの明るい声に、マリーはひとつ頷いた。




