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フリー台本声劇|読めば終わる、でも残る  作者: 沼波まろな


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無条件の愛が私を迷わせる。

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※利用規約は本文の冒頭に記載しております。

    【無条件の愛が私を迷わせる。】


■人数:1人

■形式:独白

■登場人物:娘(27)


________


私は、おかしいのでしょうか。

「命の重さに違いはない」

誰の命も同じだけ大切だと、頭では分かっています。

そういうふうに教わってきました。

でも…正直に言うと、私の中には命の「優先順位」があります。

考えたくないことなのに、どうしてもそう思ってしまうんです。


一番は、母です。


母は今、54歳。

「特別な人」なんて言葉じゃ足りないくらい、私にとっての「当たり前」をすべて形作ってきた人です。


朝起きたときのご飯の匂い。


体調が悪いとき、何も言わなくても気づいてくれる眼差し。


失敗しても「大丈夫だよ」と言ってくれる…あの声。


そういう小さな積み重ねの地層の上で、私は27年間生きてきました。私が重い病気になったときのことを、今でもはっきり覚えています。

母は私の前では平気な顔をしていましたが、夜、隠れるようにして泣いていました。

そしてある日、絞り出すように言ったんです。


「代われるなら、代わってあげたい」


あの言葉を聞いたとき、嬉しいとか悲しいとか、そんな単純な言葉にはできない感情が胸に溢れました。


ああ、この人は…。

本当に自分の命より、私の命を愛しているんだ。

そんなふうに思ってくれる人が、この世界にあと何人いるだろう。

きっと、他にはいない。

だから私は、思ってしまうんです。

自分の命よりも、母の命のほうが大切だと。

大きな災害が起きたとき、ニュースで誰かの死を知るより先に、私は母に連絡をする。

「大丈夫?」と。

それが私にとっての、血の通った自然な順番なのです。


ここまでは、少しは分かってもらえると思っていました。

でも、この話を友人や知り合いにすると、みんな困ったような顔をします。

そして私がさらに言葉を重ねると、場の空気が凍りつくのが分かります。



「もし将来、私に子供ができて…その子と母が、同時に命の危険にさらされたら……私は、母を選ぶと思う」


「親なら子供を選ぶべきだ」



まるで最初から正解が決まっているかのように、誰もが口を揃えます。

その言葉を聞くたびに、私は少しだけ世界の隅っこに取り残されるような気持ちになります。

ああ、私はみんなと「違う」のかもしれない、と。

もちろん、分かります。


子供には未来がある。

これから長く生きていく可能性がある。

守るべき弱き存在。


その考え方は、あまりにも正しくて、自然です。

でも_____じゃあ、母は?

母の命は、「未来が短いから」という理由で、後回しにされていいものなのでしょうか。

平等だと言いながら、年齢や可能性で天秤にかけることのほうが、私には残酷に思えてしまう。


母にも、この話をしました。

少し怖かったけれど、聞いてほしかった。

すると母は、少しも迷わず言いました。


「その時がきたら、子供を優先しなさい。お母さんの人生はもう十分だけど、その子には未来がある。何よりその子は、お母さんにとっても大切なんだから」


あまりにもあっさりと。

優しいな…と思いました。

同時に、たまらなく寂しくもなりました。

この人は最後まで、自分を捨てて私を愛そうとする。


「あなたに子供ができたらわかるわよ」


わかっているよ、お母さん。

でもね。


私は…まだ見ぬ未来の命より、27年間私の中に積み重なってきた「あなた」を選んでしまう。

「母」という存在の代わりは、この世界のどこを探しても、あなた一人しかいないんだよ。


…子供はまだ存在していません。


もし産まれたら愛すると思います。

そのとき、気持ちが変わる可能性もあると思います。

それでも今の私は、こう考えてしまいます。


これは、若いからなのでしょうか。

子を持った経験がないからなのでしょうか。

間違っていると、断罪されるべきことなのでしょうか。

私は、正解を決めたいわけじゃない。


ただ、この「理屈じゃない愛」のやり場を、どうすればいいのか分からないのです。

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