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閑話 まだ間に合うよね?

「そっか、昨日でクリスマス終わったんだ...」


 ショッピングモールに置かれていたクリスマスツリーのオブジェを片付ける作業員達の姿。

 去年は凌空と来たんだ、姉さんが右側、私が左側に寄り添って、

『綺麗だね』って凌空は言ったんだ...


『今年のクリスマスはホテルのスイートルームを予約してあげる。お泊まりだよ』


『『やった!!』』


「ゲエ...」


 ...まただ、凌空との想い出を思い出せば、次にあのクズ野郎と過ごした悪夢が甦る。

 込み上げる胃液を堪え、急ぎ足でショッピングモールを後にする。

 気分転換が出来たらと少し遠回りして寄ったのに。


「...ただいま」


「おかえり彩也香」


 予備校から帰った私に玄関から聞こえて来たお母さんの声、以前の様な暖かさは無い。

 ただ返事をしただけ。


 仕方ない、あれだけの事をした私達を追い出さなかっただけ恵まれている。

 変わらず高校に通わせてくれるし、こうして予備校まで行かせて貰えてるのだ。


「姉さんは?」


 一緒の予備校に通っていた姉さんはあれ以来全く勉強をしなくなった。

 今日も予備校を誘ったが来なかった。


「由美香なら帰ってるわよ」


 夜の8時を回っているが、食事の用意はされておらず、お母さんはリビングでテレビを見ていた。


 あの日以来、ずっとこうだ。

 お父さんも夕飯は会社の帰りに食べて来る様になった。

 もう以前の様に家族で食卓を囲む事は無いのだろう。

 私達の食事は自分で作るのが習慣となった。

 もっとも、食欲が無いので食べない日が多いけど。


「ただいま」


 共同で使っている部屋に入ると姉さんはベッドの上で膝を抱えボーとしていた。

 高校から真っ直ぐ帰った筈なのに制服姿のままで...


「凌空...帰ってきてた?」


「そんな訳ないでしょ」


 予備校の帰りに凌空の家の前を通るが、そんなの聞ける訳が無い。

 毎回そう言っても姉さんに私の言葉は届かない。


 あの日、凌空の家族から拒絶された。

 姉さんは謝りもせず、ただ立ち尽くすだけだった。

 もう少し謝れば私だけでも許して貰えたかもしれないのに、私達は両親に連れ戻されてしまった。


 もう凌空の家には行けない。

 両親からキツく言われてしまったのだ。

『これ以上恥をさらすな』と。


 こんな事なら中学の時に私が凌空に告白すれば良かった。

 姉さんと違って私は凌空を裏切ったりしなかった!


 そうよ、凌空を姉さんに譲った寂しさからあんなクズジジイに騙されたんだ!


「凌空どうして連絡をくれないの...」


 姉さ...由美香は泣きながら携帯を握りしめている。

 凌空の携帯は繋がらないのは、私だけじゃ無い。

 共通の知り合いも結果は同じだったからだ。


 更に凌空のSNSは全てアカウントが消されていた。

 得られる情報が少なすぎる、華にも当然聞けない。


 最近になって分かっているのは凌空が姿を消して2ヶ月だという事くらいだ。

 他には私がクズに騙されだした頃から塞ぎ込む様になったとも聞いた。

 その間に凌空や華から何度か連絡があったのも思い出した。


『一体どうしたの?』って。

 煩わしく思えて無視して消去したんだっけ...


「由美香はどうなの、何か分かった事ある?」


 名前を呼び捨てした私に少し驚いた様だ。

 そんな事はどうでもいいだろ?


「凌空と同じ高校の知り合いに聞いたけど

『ふざけるな、凌空を返せっ』て怒鳴られちゃった」


『だろうな』

 私は言葉を飲み込む。

 私達は高校を1ヶ月の停学になった。

 表向きはバイト先で飲酒をしたから。

 店長とのセックスが伏せられたのは両親が必死で嘆願したからだろう。


 しかし結局は友人達にバレてしまった。

 クズ野郎の車に乗っている所を見られていたからだ。

 しかし学校は追加の処分を私達に下さなかった。

 外聞を気にしたのだ。


 私はクズの大人に騙された女の子として何とか立場を守れたが、由美香は悲惨だった。

 凌空と高校は違ったが学校には共通の友人も居る。

 由美香と凌空が恋人同士だった事も知られていた。


『恋人が居ながら中年ジジイに抱かれたビッチ』

 由美香の評判は地に落ちた。

 私に出来る事は何もない。

 だって被害者なんだから。


「そうだ、凌空は高校を休学してるって聞いた」


「休学?」


「うんさっきの子がね『被害者の凌空は休学したのに、どうしてあんたがっ』て」


「そっか」


 休学か、つまり凌空は今の高校を辞めた訳じゃない。

 転校したのでは無いのに行方が分からない、つまり...


「知り合いの居る所に凌空は姿を隠した可能性が高いわね」


「それはどこ?」


 由美香は私を見るが、少しは自分で考えたらどうなんだ。


「そんなの分からないわ」


「そうか...」


 由美香の態度にムカつく。

 私だけ考えて思い当たる訳ないじゃない。

 あんたは一応凌空の恋人だったんだろ?


「...留学したかも」


「留学?」


「うん、前に聞いた事がある。

 『お父さんの知り合いがカナダのバンクーバーに住んでる』って」


「カナダ?」


 そんな話聞いた事が無い。


「なんで言わないの?」


「だって、その人の娘が初恋だったなんて面白くない話じゃない」


「初恋?」


 それは面白くない。

 その人は日本人なんだろうか?


「4歳の時に会ったきりだって言ってた。

 綺麗なブロンドの髪をした3歳の女の子で、日本語は全く通じなかったけど楽しかったって」


 ブロンドの髪、つまり外国の人って事か。

 それに4歳の時なら大丈夫だ。

 向こうは3歳だったなら、凌空の事なんか覚えてないだろう。


 タブレットの検索で[カナダ 留学]のキーワードを打ち込んだ。


「へえ...一杯あるのね」


 沢山の検索結果が画面に出る。

 高校留学に大学留学、そして編入は無視して良いだろう。

 後は...


「ワーキングホリデー?」


「どこかで聞いたわね」


 後ろで私のタブレットを覗いていた由美香が呟く。

 確かに聞いた事がある。


「[滞在期間は一年、語学学校で半年間英語の勉強が出来、簡単な仕事なら働ける制度]か」


 たった半年間で英語が身に付くのかな?


「思い出した!アイツがワーキングホリデーでカナダに行ってたんだ!」


 由美香が突然大きな声を出した。


「アイツ?」


「笠井よ、バイトで一緒だった」


「ああ、アイツか」


 その名前に一人の顔が浮かぶ。

 『笠井翔馬』

 21歳の大学生で、大学を休学して1年間カナダにワーキングホリデーで留学していたと自慢していた。


 キザでイヤミな奴だった。

 大学生といっても聞いたことのない大学で、平たく言えば馬鹿。

 二言目には『俺はカナダ帰りだ』と周りに触れ回っていたな。


 ある日、店に外国人が来て、笠井が応対したんだ。

 全く奴の英語は通じなかった。

 そして、向こうの英語も理解出来ず、奴の評判は地に落ちたんだ。


『いやーブランクだ、すっかり英語耳じゃなくなっちまった』

 真っ赤な顔で必死に言い訳を口にしてた。

 その直後奴は店を辞めた。

 自分から辞めたんじゃない、警察に捕まったのだ。


 大麻取締違反。

 カナダで覚えたマリファナを日本でも止められなかった、奴と親しかったバイト仲間から聞いた。

 更に奴はカナダで日本人としかつるまず、ルームシェアをしていたのも日本人。

 カナダでしたバイトも日本人が経営するラーメン屋だったそうだ。


「...そんな制度で凌空は」


 不安そうな表情をする由美香だが、凌空をそんな馬鹿と一緒にしないで欲しい。

 きっと頭の良い凌空の事だ、真面目に英語の勉強をしているだろう。

 それに凌空が大麻に手を出すとは思えない。


「これはチャンスね」


「彩也香、チャンスって?」


「きっと凌空はカナダで孤独な生活を送っているわよ」


「...そうかな?」


 由美香は納得出来ないか。

 まだまだ凌空の事を分かっちゃいないな。


「良い?凌空がいくら可愛いっていっても外国の人から見たら160センチに満たない小柄な東洋人よ?

 そんな人を外国人が相手にすると思う?」


「でも、語学学校には日本人だって居るし」


「あのね[留学を成功させるには頑張って現地の人と交流を持つ事]ってここに書いてるわよ?」


 タブレットに映る留学を成功させるコツのページを由美香に見せた。


「だから真面目な凌空は日本人と距離を置く筈よ、それに内気な凌空が自分から周りに溶け込める?」


「そうよね、ずっと私にベッタリだったし」


 何が私にベッタリだ。

 三年も凌空と付き合いながらキスしか許さなかったのに。

 私ならキスどころか、全て許してたわ。


「今きっと凌空は孤独よ、堪えきれず帰って来るかも」


「本当?」


 由美香は瞳を輝かせる。

 姉ながら、単純な奴だ。


「凌空の事だから必死で1年間頑張るかもしれない。

 でも、それはそれで良いの、孤独を深めるだけだから」


「...成る程」


 ここまで言ってやっと由美香は理解したか。


「復縁出来るかな?」


「分からない、でも真っ先に謝れば」


「そうよね!」


 由美香は満面の笑みで喜びを爆発させた。


「私頑張る、凌空が帰って来た時の為にしっかり勉強するわ。

 よし、先ずはご飯を食べなきゃ、彩也香も何か食べる?」


「うん」


「待ってて、直ぐ作るから」


 足取り軽く由美香は部屋を出ていく。

 こんなに馬鹿とは思わなかったよ。

 凌空は由美香を許しはしないだろう。

 きっと凌空は由美香を受け入れない。


 その直後が私にとって最大のチャンスだ。

 孤独だったであろうカナダでの生活。

 現れた昔の恋人。

 受け入れきれない凌空の心、そこで私が言うのだ。


『凌空ごめんなさい、昔みたいに友達からお願い』

 これなら大丈夫だ。

 凌空も受け入れてくれるよ、後は時間を掛けて落として見せる。


「凌空...全部私に任せて」


 その日を思い浮かべたら笑いが止まらなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 冷静に相手の立場になってみればわかることだけど彼女の浮気に協力してたやつとまた友達にとか普通嫌だよね? ましてや一緒になって抱かれてたとかもうそれただの共犯者だから裏切り者には違いないよね …
[一言] そこでカナダまで追いかけるくらいの根性と覚悟があればまた違った展開もあるかもしれなかったのだが…まぁ覚悟もなくただ待ってるだけなら結果は見えてるかなと… 許されはするし友達から始め直すのも出…
[気になる点] 金絡みでもなく老け専でもないのにどんな風に誑かせばただの中年オヤジが高校生複数をセフレに出来るのかという最大の謎
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