第4話 だって運命の人だから...
「クリスマスパーティーのプレゼントは持ったかい?」
「はい、終わったら早く帰りますね」
元気に答えるリク様。
初めて迎えるカナダのクリスマスにリク様は緊張した様子。
「ゆっくりしてきなさい。
家は先に始めてるから」
パパが笑顔で送り出す。
こりゃ今日は飲み明かすつもりだな。
「気をつけてね」
「ありがとうハンナ」
可愛いリク様は少しお洒落な格好で出掛けた。
学校主催のクリスマスパーティーだから心配は無いと思うけど...やっぱり心配。
リク様は手を振りながら我が家を後にする。
最近は語学学校も一人で行くようになった。
今日の会場があるのはGranville。
リク様はスカイトレインで行くので我が家から程近い29th avenueステーションで乗り換え無し。
移動距離も長く無い。
『早く帰ってきてね』
小さくなるリク様の背中に呟いた。
本当は私も付いていきたいのに。
『ほらハンナ、早く支度を手伝って』
『はーい』
キッチンからママが呼んでいる。
クリスマスは近くに住む親戚も集まるから沢山の料理を作らなくてはいけないのだ。
『最近はどう?』
『何が?』
料理を手伝っているとママが聞いた。
何を聞きたいかは分かっているけどね。
『リク君とよ』
『まずまずかな?』
『そう?ハンナ最近楽しそうだからリク君と何かあったかと思ったわ』
『だと良いんだけどね』
イタズラっぽく笑うママ。
確かに、ここ10日程リク様との会話が増えた。
先日もハナからリク様の情報を仕入れ、リク様の好きな食べ物を食べに行って、映画館に行った。
当然スーザンとジャニスも一緒だけど。
『リク君が元気になって良かった』
『そうね』
ホッとした様子のママだけど、本当はまだまだなんだ。
だってリク様はカナダに来てからハナに手紙しか書いて無い。
たった一度の電話すらしてないのだ。
でも無理強いは出来ない。
だけど寂しいハナの気持ちが痛い程分かるだけに何とかしてあげたい...
親戚が続々と集まりパーティーが始まった。
いつもなら楽しいクリスマスなのに今年は違った。
理由はもちろんリク様の事だった。
『どうしたのハンナ?』
パーティーの輪から少し離れツリーを眺めている私にママがやって来た。
『ちょっとね』
『リク君の事でしょ?』
『...うん』
隠しても仕方ない。
私はもう恋に落ちている。
最初は可愛いだけだったリク様...いやリクだったけど。
今は違う。
彼が愛おしいのだ。
些細な会話、時折見せる笑顔、少し照れた様に私を見る瞳。
彼の全てを愛している。
『行ってきなさい』
『ママ...』
『今から行けば学校のパーティーが終わるまでに着くわよ』
『でも...』
『マリア達には上手く言っておくから、リク君と過ごす最初で最後のクリスマスになるかもしれないのよ』
『...分かった』
そうだ、リクは来年のクリスマスは居ない。
もしこの恋が実らないなら、今年が最後になってしまう。
急いで部屋に戻りコートを羽織る。
手袋とマフラーを巻いて車の鍵を手に一階へ降りた。
気付かれない様に玄関の扉を開けると、外は雪がちらついていた。
『ハンナ!!』
閉まる扉から私を呼ぶ声が...
『『『『『Merry Christmas!!』』』』
『...みんな』
ママったら皆に喋ったな?
何が上手く言っとくだよ。
『...ありがとう、みんな』
目頭が熱くなる。
急いで車に乗り込みエンジンを掛けた。
『待っててねリク』
エンジンが暖まるのを待てない。
冷えきった車内だけど車を発進させた。
オーディオのスイッチを切る。
今はどんな音楽も耳に入らない。
ただリクの事だけを考えたかった。
『リク、ビックリするかな?』
会場は分かっている。
プログラムも全部知っている。
パーティーのパンフレットを丸暗記したから。
そして最後のダンスは絶対にリクと踊るんだ。
会場近くのパーキングに車を停める。
急いで会場があるビルに入った。
時間は終わる30分前、間に合った!
『...帰ったんですか?』
『はい、一時間前にホストファミリーのパーティーがあるからと』
『そうですか...』
会場に居た受付にリクを呼び出す様に頼むと予想外の答えが返ってきた。
『ありがとう』
ガックリと会場を後にする。
一時間前って、リクからは連絡は来て無いよ?
『...まさか語学学校の友達と抜け出した?』
いや、それは無い。
語学学校で友人は出来たけど、リクは決して学校の外で会ったりしなかったし。
『...私は何やってるんだろ?』
寂しさから泣きそうになる。
最後になるかもしれないクリスマスがこんな展開に...
携帯を鳴らせば良いのは分かっている。
呼び出せば、絶対にリクは電話に出てくれる。
でも出来ない。
臆病な自分が本当に嫌だ。
パーキングの前には大きなクリスマスツリーが飾られていた。
その周りに集まる沢山の人達。
家族連れ、友人達、そして恋人達...
『ん?』
一人の男性がクリスマスツリーを眺めていた。
静かにツリーを眺める男性にそっと近付く...間違いないリクだ。
彼の周りだけ時間が止まった様な錯覚を覚える。
イルミネーションに照らされた横顔は本当に天使が佇んでいる様で...泣いてるの?
リクは涙を流していた。
涙の理由は日本への旅愁だろうか?
『...違うよね』
きっと別れた女の事を考えているんだ。
去年はまだあの姉妹はリクにベッタリだったそうだから、きっと去年のクリスマスを思い出しているに違いない。
『まだ癒えてないのか...』
無力な自分。
私の想いは所詮一方通行なんだと打ちのめされる。
『...帰ろう』
リクからそっと離れる。
何が運命だ!
独り善がりの恋なんかリクの邪魔にしかならなかったよ。
「...ハンナ」
「え?」
今なんて言ったの?まさか?
「綺麗だ...ハンナと見たかったな」
『嘘!?』
叫びたい気持ちを必死で堪える。
まさかリクがそんな事を...
ここで帰ってはチャンスを逃してしまうぞ!
勇気を振り絞り再度リクに近付いた。
「...リク」
「ハンナどうして?」
「迎えに来たよ」
「あ、その、これは...」
「さあ帰ろう、こんなに冷えてるじゃない」
「うん」
リクの手は冷えきっていた。
私はそっと手を握り、巻いていたマフラーを半分彼に巻いてあげた。
「...暖かい」
「...本当ね」
車に戻り、家に帰るまでに私達がした会話はそれだけだった。




