第四十話 中国攻略の命
いよいよ中国攻略の命が信長から下りました!!
月日は巡り、一年後の天正四年。
羽柴秀吉は織田信長の命により、信長の三男である織田信孝と共に信長と不和関係にあり暗殺された北畠具教の旧臣が籠る城を落城するために出陣することになる。
最初は寧々子も同行するつもりだったが、まだ病の気配をチラチラ見せる竹中半兵衛が当然のごとく参加するつもりでいたのでいさめて見張りをするために珍しく不参加を決めた。
代わりに小姓である寧々子の弟・三吉を出向かせ、三吉は思わぬ形で初陣を飾ることとなった。
さらに翌年、越後を治める上杉謙信と対峙中であった柴田勝家の救援を織田信長に命じられて向かった。
このときも寧々子は戦に参加せず、参加する気満々であった半兵衛をいさめてとどまらせている。
桶狭間の戦いで初陣を飾ってからというもの、夫の出陣をかぎつけてはほぼ皆勤賞である寧々子が珍しく戦休みをすることになった二年であった。
そして柴田勝家と上杉謙信が戦った手取川の戦いから数か月程度の時が進んだ頃。
羽柴秀吉の元に、信長から新たな命令が下ることとなる。
「中国攻めじゃ」
長浜城天守閣に秀吉の家臣及び寧々子が集められ、次の戦の発表がなされた。
秀吉は次の予定を発表すると同時に側にいた寧々子に持っていた信長からの書状を渡してきたので寧々子もまた中身を確認する。
書状の中には確かに毛利家が治める中国地方攻略をせよと書かれていた。
いよいよ、史実の半兵衛の死が迫っていた。
この中国攻略を見届けることなく命を落としたのが寧々子の知る竹中半兵衛の死。
正確にはあと一年半程度しか時間はない。
家康との取引で得た薬を継続的に服用して戦への不参加を徹底した今、顔色や体調の回復はしているのか最近の半兵衛は運命を変える術を施した日以前のような元気さがみられる。
しかし油断はならない。
二月程度隔離療養をし、その後一年以上は半日だけ城内と時々城下視察での仕事のみをこなし半日休息で戦は一切禁止の生活を送ってもらったとはいえ、病が完全になくなったわけではない。
結核という病自体、再発もあり得る病気なのだ。
現代でも厄介な病気だったのにこの時代ではより危険と言えるだろう。
薬の製法も三吉と家康間で秘匿されているし、三吉をつついてもこっそり教えてくれそうもなかった。
神妙な面持ちで書状を睨んでいるといつのまにか近くにいた半兵衛に書状を奪われて「あっ」と声をあげてしまう。
「中国地方攻略、ですか。これまた難儀な課題を出されましたねぇ」
秀吉当てに言っているようだが、視線は明らかに寧々子へ向けられていた。
この戦なのだろう? 己の死に時は。
そう、暗に言われているような気がした。
「うむ。毛利家は毛利元就の息子たちの結束も固く、特に元就の三男である小早川隆景は切れ者じゃ。間違いなく長きにわたる戦となろう。 ……半兵衛、すまないが此度の戦」
「秀吉様、相手が毛利であると聞いた時より僕は参加する覚悟でした。この一年半程度、お休みをいただいたこと感謝しております。お休みした分をこの戦で恩返しさせていただこうと思います」
「ありがとう」
半兵衛の参陣が相当嬉しいというか心強いのだろうか、秀吉は半兵衛の手をとってぴょんぴょんと跳ね上がる。
絶対そういうだろうと分かっていたので寧々子も静観し、口を出さないことにした。
むしろそうだろうなと見越してこれまでの細かい戦への参加を止めたのだ。
「寧々子殿」
天守での軍議が終わり、各自戦支度を開始せよとの秀吉の命で家臣たちは解散して各自のやることに奔走しはじめた。
寧々子ももちろん中国攻めに参加するつもりなので妹であるやや姫に城のことをこれからまた話し合う予定であった。
部屋に戻ろうとしている道中で後ろからやってきた半兵衛に声をかけられて足を止める。
「先程は止めたりせず静観していただき、感謝します」
「絶対そういうと思っていたので。手取川や信孝殿との城攻めは休んでいただきましたし、ここはよいかなという判断しました。しかし私も参りますし、逐一健康状態を問いますのでそこはお覚悟を」
「フフッ、承知しました」
なにやら薬を渡した日から半兵衛があまりに大人しく言うことを聞きすぎている気がして正直疑心暗鬼だ。
今大人しくしてあとでなにかとんでもない要求でもしてくるのではないかと疑ってしまう。
「いかがしましたか?」
「いや、最近は随分大人しいというか、言うことをすんなり聞きすぎている気がして」
「おや。心外ですね。僕は結構寧々子殿の話を最初から聞いていたつもりですが。未来人であることもあまり疑わなかったでしょう?」
言われてみれば確かにそうかもしれないが、あまりに言うことを聞かされることが多くて半兵衛に対して自分が言い聞かせる側になったことがなかったからか、とても不自然というか落ち着かない。
「そんな複雑そうな顔つきをされても困りますね。 ……まぁ、薬の一件で少し気持ちがこれまでよりも緩んだのかもしれません。ある意味命の恩人になりますので」
「恩人……。なるほど、そういう考えでいたのですね。私からすれば当然のことなのでそんなに重く受け止めないでくださいな」
まぁ、取引の約束は結構ビクビクする内容なんですけど。
そこは無論口を閉ざす。
「天正七年六月が僕の命日なのですよね? 寧々子殿が知っている歴史では」
「はい。その日より二月ほど前から病を患っています」
「人に襲われてとか戦死ではなく、病というところが武士としては嘆かわしいですね。体調には十分気を付けるつもりではいますが、相手があの毛利、噂に名高い小早川隆景がいるので少し無理はするかもしれません」
「半兵衛も小早川隆景に興味があるんですね?」
「も、ということは寧々子殿も、でしょうか? 彼はどのように伝わっているのですか?」
興味深そうに瞳をキラキラさせて迫りくる。
史実で実際会ったかどうかまでは分からないけれど、半兵衛と隆景が実際会ったらどんな光景を見せられるのか、少し気になるところであった。
読了ありがとうございます。
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小早川隆景の名前が上がりましたね。竹中半兵衛同様、私の推し武将であります!!




