第三十八話 薬の当ては見つかっても
なんでもするって、言ったよね?
絶対のちに言われるやつだ。
半兵衛がこの先罹るとされる結核についての情報収集をしていた寧々子。
全く治し方に検討がついていなかったところに、実弟・三吉が実は医学知識をかじっているということを知る。
「そんな常識みたいな反応されても困るんだけどな!? そもそも結核がなにか知ってる!?」
「せき、たん、血たん、だるさ、発熱、寝汗等が初期症状で風邪に類似するが長引くものがこれである可能性が高い。そもそもの原因は “ 結核菌 ” という細菌が直接の原因となって起こる病気。人に移る」
「ロボットみたいな話し方だな。治し方って手術とか?」
「いや、僕たちの時代ではもう薬だよ。あまりにひどかったら手術案件みたいだけど。二か月くらい隔離して飲ませて療養して、そのあとは通院しながら服用する感じ」
「ほうほう。その薬ってここでも手に入るのかな」
そこで三吉も難しそうに腕を組んで顔をしかめる。
「うーん、現代にある薬の名称は覚えてるけど、それと同じ成分のものがあるのかなぁ」
「そこだよねぇ。持ってこれればいいんだけどな……」
「持ってこれたとしてもどうやって。盗むの? 買うとしても決して安くはないよ」
「結局進展なしかぁ。薬学知識に明るそうな人に聞いてみたらなにか分かるのかなぁ……」
「この時代で有名な医者っているの?」
「一人際立って有名な医者がいたね。天皇も診てるとか。その人にアポ取れるように信長様にでもお願――あれ、待てよ」
なんか、もっと他に薬学知識に詳しい人がいたような気がする。
誰だっけ。
そっちの方が医者よりもっと有名だったような……。
「ああっ!! いた!!」
「えっ、なに」
「薬学知識に詳しい人! 近くにいた!!」
寧々子は表情をキラキラと輝かせて立ち上がり、三吉に出かける支度をしろと命令して自分も準備を始めた。
寧々子が三吉を連れて向かった、というかワープしたのは浜松城だった。
かつて寧々子が半兵衛に言われておつかいに行ったときと同じ庭に落ちると、再びそこに徳川家康が縁側で何かしていた。
「おや。また派手な来訪ですね、寧々子殿、と今日はお供が一人。一週間と少しぶりでしょうか? いらっしゃいませ」
突然現れた二人に一瞬驚くも二度目なのであまり感情に変化なく応対する家康。
寧々子と三吉は軽く挨拶をすると、家康の周辺にいろんな小道具や草が置いてあることに気付いた。
「家康殿、今、何をされているのですか?」
「今、調剤をしていたところですよ。私、薬を作るのも趣味でして。意外でしたか?」
「むしろ天の助け」
まだ話途中の家康に詰め寄って家康の手を取り、王子が姫にするように跪く寧々子。
予想外の展開に目が落ちそうなほど見開いている家康は寧々子についてきた三吉へと目線を送る。
「あ、すみません。テンションが上がるとちょっとおかしくなる人で。ほらっ、変なことしないで普通に話して」
「あうっ」
完全に素のままでいる寧々子と三吉は、相手が現代人でないことを忘れている。
「そのお供殿、もしや石田殿です?」
「あ、はい。そうです。……そっか、もしかしてそれも分かっておられる?」
「ええ。なるほど。転生しても姉弟というものは変わらないのですね」
「!」
全く状況がつかめない上にどうやら事情を知っているらしい家康に、今度は三吉が目を見開く番だった。
「家康殿、言っていいのですか?」
「これは説明しないと納得しないでしょう。それにあなた方は被害者ですし、むしろ神としては真摯に対応せねば」
家康はそこで寧々子に話したことを三吉にも話した。
完全理解したわけではないようだが、事情は呑み込めたようだ。
「――とまぁ、私の事情はこの辺で。今日はなんのおつかいですか?」
「待ってください。おつかい前提なのおかしくないですか?」
「おや、そうではない? あなたが私の元に来るときは大体半兵衛殿になにか頼まれているのでつい」
「否定できない自分が辛い。家康様が薬学に詳しい人であったことを思い出してお聞きしたいことがあって」
「ほう」
そこからは寧々子が結核について、三吉がそれを治す薬について話をした。
家康はそれを茶化すことなく、むしろとても真剣に話を聞いてくれた。
三吉があげる薬の成分を聞いて、近いものをいくつかあげたりしたが、この時代ではやはり科学的根拠がないため、確証を得るのが難しかった。
「似たようなものを精製することはできるのかもしれませんが、同じ効果がでるとは限りません。正直お聞きする限り厳しいものだと思います」
「やはりそうですか」
「ダメかぁ……」
「その結核という病、きっとこの時代では労咳と呼ばれる病のことを指すのでしょう。それは治せないわけではないみたいですが、非常に難しいと聞きます。ここで薬ができるようなことがあれば正直後世に残るくらい大きな偉業となりましょう。それはあまりに歴史改変に影響が大きいです」
言われてみれば、医療が大分進む案件だ。
さすがに影響範囲が大きいので生み出さない方がいいのかもしれない。
しかしそれでは……。
「ずっと病と薬のことを話していて肝心なことを聞いていなかったのですが、誰か病に罹ったのですか?」
「それは僕も聞いてないよ、姉さん。誰が病に罹ったの?」
「片鱗が出始めてるだけなんだけど、思うけど……半兵衛が」
「そういえば彼は戦の最中に病で亡くなっていましたね。なるほど、労咳だったのですね」
「出始めてるならむしろ今、薬でたたけばひどくなる前に病をなくすことができる。弱いうちに叩くのが一番だよ」
「――竹中半兵衛殿の体調不良の原因、それだけではありませんよね?」
家康の発言に三吉は目を見張るが、寧々子はより暗い表情になる。
家康は少し考え込む仕草をとって、再び寧々子へと向き直る。
「病をどうにかできても、能力使用による代償は取り戻せません。これは絶対の理、ルールです。その上で寧々子殿、私との取引を更新しませんか?」
「取引、ですか」
「はい。前に交わした取引は寧々子殿のことがわりと周囲にバレており、私が今一方的に弱みを晒している状態ですね。でも先日半蔵を貸し出し、今度もその約束をしたのでそれでこの一件は続行としてもいいでしょうか?」
あれは抜け目ない行動であったか。しかも周囲に変装がバレていることもバレている。
寧々子は頷くしかない。
「ではそれにもう一つ追加を。寧々子殿は薬が欲しいですよね? なので、薬を石田殿と協力して作りましょう。しかしそれを使うのは半兵衛殿だけ。そしてできても精製法は秘匿。一切残しません。影響の範囲が正直私の知る範囲外すぎますので」
「作ってくださるのですか!?」
「ええ。代わりに、寧々子殿に一つ絶対の約束をしてもらいたいのです」
「な、なんですか」
「――なんでも一つだけ、私の言うことを絶対に聞いてもらいたい。でもこれを発動するのは今ではありません。私が必要になったときに、です。絶対の約定なのでこちらには特別な誓約術を施そうと思います」
――それはあとになってこの約束が災いとなる危険性が高い。
仮にも秀吉の天下をかっさらう人だ。
秀吉亡き後、天下をくれと言われたら叶えるしかなくなる。
竹中半兵衛を生き長らえさせる代わりに不利になる約束を交わすか。
このまま薬は見つからなかったと謝罪、諦め、正規の史実ルートをいくか。
わりと大きな決断を迫られていた。
「――姉さん。半兵衛殿のことは諦めよう。この約束はあまりに不利だ。病を治しても半兵衛殿はそう長くないみたいなこと言ってた。それだと釣り合わないよ」
三吉がこっそり耳打ちしてくる。
弟の言う通りだ。
ここで半兵衛を生かしても一体いつまで生きられるか確証がない。
秀吉が天下をとるまでいられるのかも分からない。
例えそこまでいられたとしても、秀吉の死に立ち会えるまでに生きられる気がしないとなんとなく直感が告げていた。
――――でも。
寧々子は一週間前に見た半兵衛の動揺ぶりが忘れられなかった。
しかし一時の感情で判断してはのちに何が起きるか分からない。
あまりにハイリスクだ。
「――その取引」
寧々子が出した答えは――。
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