番外:3人組
番外編です。
会話多いです。
読み飛ばしても差し支えありません。
下品な表現があります、ご注意下さい。
時系列、少し遡ります。
とある晴れた日のこと。
『本日売り切れ
ありがとうございました。』
「まじか…人気すぎる」
「クソだな部長」
「…また…コンビニ飯…」
現在、14:20。
先日オープンしたばかりの、小さな店の入り口の前で絶望する大人3人。
一人はリピートしようとした店の売り切れに遭遇したことを嘆き、
一人は午前中ギリギリに自分達の班に対して、「14時までにまとめてパワポ宜しくね」と押し付けてきた部長を罵り、
一人は連日のコンビニご飯から脱出出来なかった事に脱力した。
「今日のお姉さんの気まぐれ飯なんだったのか気になる」
「その黒板の裏にまだ書いてあんじゃねぇの?」
「………げんこつハンバーグって書いてある」
「あぁぁ!食べたかったーっ」
がっくりと膝に手を付き項垂れる、オーバーリアクションでお洒落な鼈甲の丸フレーム眼鏡の青年、三神。
「くっそ!肉ぅぅ………、部長まじで毛根消滅しろ」
ギリギリと拳を握りしめ、鍛えた上腕二頭筋が細身のワイシャツの中で窮屈そうな青年、藍。
「ハンバーグぅぅぅ…」
細い体を丸めて、さめざめと手で顔を覆い悲嘆する、細い切れ長の目元の青年、野宮。
彼らは同じ会社の同僚であり、高校時代からの友人同士である。
大学ではバラバラになったものの、はからずも3人とも地元の、しかも同じ企業に就職したのだった。
就職してから早10年弱、
辛い時も苦しい時も、彼女にフラレた時も、
3人で喧嘩しあい、愚痴を言い合いながらやってきた。
お互いに改めて言う事はないが、3人は間違いなく親友である。
「コンビニ行くか」
「おう…何食うかなぁ」
「…コンビニ飯飽きた…」
どんなに嘆いても春眠亭の営業は終了していた。
諦めて踵を返すのだった。
********
コンビニご飯をゲットして会社の休憩室へ。
時間がずれ過ぎている為、3人の他は誰も居ない。
もそもそと各々購入したコンビニご飯を食べながら、唐突に三神が話し始める。
「あの店のお姉さん、いくつくらいだと思う?」
「俺らとタメくらいじゃん?良いよなぁ、あーいう料理上手な人」
「…巨乳」
「野宮はまじでムッツリ野郎だよな」
「見た目草食なのにな」
「…三神も藍も思ってたくせに。言わない方がムッツリだし」
「俺はスレンダー派だもん。あれは藍のタイプだよな、ムッチリ巨乳のお姉さん」
「エロい言い方やめろよ、飯食いに行きにくくなるだろ。大体、三神はスレンダー派じゃなくてただのロリコンだろうが、アイドル好きめ」
「…ロリコン野郎」
「アイドル好きイコールロリコンなんて納得出来かねる!ちなみに野宮、その虫を見るみたいな視線やめて!」
「野宮は口より目の方が雄弁なんだよ。大体、30代のオッサンが10代の女の子にムラムラしてる事実を疑問に思わないところがロリコンなんだよ、きめぇ。下手したら娘でもおかしくない歳だろうが」
「…まさに」
藍からの正論と、野宮からの言葉少ないツッコミ。
更に冷たい視線に肩をすくめる三神。
が、言われた事に対して傷ついている訳でも、真摯に受け止めている訳でもない。
3人の会話は口が悪いがこのレベルなら、軽口であり日常茶飯事なのだ。
「二人が厳しすぎる…良いじゃん別に…現実の女子高生にムラムラしてる訳でもないんだから…ってか、野宮も巨乳好きだっけ?」
「…そこで俺に振るなんて、なんてあからさまな話題転換……」
「だな。見損なったよロリコン三神、いやロリコン神」
「ちょっ…やめてそれやめて。会社の女子から冷たい目で見られちゃうから!……で?野宮」
「…俺は、女性のおっぱいは大体全部好きだ」
普段は一番口数の少ない野宮からの予想外の発言に、三神も藍も一瞬固まる。が、すぐ気を取り直して会話は進む。
「…いやいやいや!そんな、キリッとした顔で言われてもね……逆に節操なくね?」
「結構長い付き合いなのに、野宮のタイプが全然把握出来なかったのは、守備範囲が広かったせいか…」
「…春眠亭のお姉さんは、結構好きなタイプ」
「おっ、だよな!ロリコン神と違って話が分かる〜」
「藍、まじでロリコン神て定着させんなよ?本当に。もしそんなことしたら、お前の事、巨乳筋肉って呼ぶからな」
「…ふっ…マニア向けのAVみたい」
「野宮、他人事みたいに笑ってるけどお前の事も俺はおっぱいマニアって呼ぶからな」
流れる様な言葉の応酬の、切れ間。
自身の不名誉な呼び名の定着を回避するため、親友をも巻き込もうとする確固たる意志を見せた三神。
「もうやめようぜ三神。そんなん全員被弾して終わる」
「…そうだ三神、藍の言うとおりだ」
そしてそれを察した二人は、穏便な終息をはかった。
「だよなぁ。……ってか、ホントしょうもない話で俺らの昼メシの時間が終わったな」
「いつもこんなもんだろ俺ら。オッサンになっても進歩ないよなぁ。………あー明日こそは気まぐれ飯食えると良いけどな。肉が良い」
「…藍はいつも肉」
「今日みたいな部長トラップくらわなければ行けるでしょ」
「さっき毛根が消滅する呪いかけといた」
「…すでに消滅してる件」
「「それな」」
それからしばらくは、部長トラップがあったりで時間がずれて春眠亭の売り切れに遭遇する日々が続いたのだった。
これは、3人組がミートボールパスタを食べる前のお話。
今では立派な、常連さんである。