晩餐会への潜入
その夜、俺たち四人は晩餐会へ出席する為、城へと続くメインストリートを歩いていた。タキシードにドレス姿だが、一応闇士の短剣は忍ばせてある。
「ねぇマウちゃん、さっきから気になってたんだけどさ、なんで水玉模様の蝶ネクタイなの?」
「仕方ねーだろ。急だったし、これしかなかったんだ。
ちなみに俺の趣味じゃないからな。な、デリー?」
「うん。それ僕のなんだよね。前にファンの子にもらったんだ。」
「やっぱりコロシアム剣士ってモテるのねー。マウちゃんはもらわないの?」
「もらうもらう。鉄アレイに素振り用の木刀だろ。後は…」
「ねぇ、そういうのじゃなくてさー、もっとロマンチックなのはないの?例えば…そう、ペンダントとか。」
「あー、これがそうだ。」
俺は、首もとからワイシャツの中に手を入れ、ネックレスを出した。
「ど、ドクロ?何か呪われてそう…。」
「呪いって、闇士の言うセリフかよ。それよりどうだマリーナ?似合うだろ?」
「うーん、似合うけどさー。それ多分、マウちゃんの相手選手のファンが逆の意味で贈ってきてるね。」
「逆の意味?」
「そう。マウア負けろーって!」
「マジか?それ。」
そういうファンもいるよな…。
ガクッ…
「まぁまぁそう落ち込むな!マウちゃんには、こんなかわいいファンがいるじゃないの。」
マリーナか…。
「はぁ…。」
「って、さらに落ち込むなー!」
「二人とも、そろそろお城に着くよー。」
店が並ぶメインストリートを抜けると、50メートル程の木で出来た橋がある。横切る川には所々橋が架けられているが、渡ると15メートル程の巨大な壁がズラリと並び、城を囲っている。
要するに、壁を越えてもまだまだ城には着かないって訳だ。どんだけ広いんだよ。
橋を渡り終えた俺は、ふと目を左に向けた。
この川沿いの道を上がって行くと、丘に着くのかな?
「マウア、何ボーッとしてるんだい?置いてくよ。今日の主役は容疑者の私なんだからね。」
「あぁ、リーナさん。」
「えー。お母さん。主役はいつでもア・タ・シ。でもさー、こんな時に晩餐会なんて来て大丈夫なの?」
「何を今さら。私は容疑者であって犯人じゃないのよ。ね?マウア。」
「うん、そうだけど。マリーナの心配もわかるよ。」
裏士さんが俺の正面に立ち止まった。
「あんたが犯人を捕まえるって言ったんじゃない。そんな弱気じゃ任せられないわね。」
そう言いながら、裏士さんは暗黒剣士を見た。
「そうだよマウア。リーナさんは犯人じゃない。僕らがそれを一番よくわかってる。だから大丈夫だよ。」
「まぁなー。」
「デリー、あんただけが頼りだよ。」
「アハハ。」
門へ向かう裏士さんと暗黒剣士の背中を見て、気持ちが高まってきた。
裏士を探す!とにかくこれだな。リーナさんの容疑も晴れるし、俺やデリーの事もわかるかもしれない。一石二鳥だ。
二人を追いかけ、先に門番と話している闇士の所へ行った。
「リーナ様に、マリーナ様、マウア様ですね。招待状確認致しました。えーと、こちらの方の招待状は…」
「エヘヘ、ありませーん。」
「それは困りましたね。招待状のない者は中へ入れられません。」
「どうしたんだ?早く入ろうぜ。」
ん?マリーナの様子がおかしいな。お願いしてるのか?
「あのさマリーナ、まさかとは思うけど、策って…これ?」
「そうだよ。アタシの連れなんだからいいと思ったんだもーん。」
マリーナも出たとこ勝負だな…。
「ま、まぁマリーナらしいって言えばそうだけど。」
「あたしの招待状でこの子は入れないかしら。」
リーナさんは引く気だ。それはそれで安心するけど。
「申し訳ありません。招待状は本人のみ有効となっておりますので。」
「そう。困ったわね。」
「皆さん、どうかしましたか?」
お!困った時の堕天士長さん!この人は本当タイミングがいいな。
「あー、ミラさーん!ミラさんも今日は晩餐会に?」
「はい。というよりもマリーナ様、私はここに住んでおりますので。」
『えーーー!』
俺と闇士は、同時に驚いた。
「ってことは、もしかしてリホも?」
「ええ。大きい声では言えませんが。」
『えーーーーーー!』
リホが言わない訳だな。
「アタシ…もう、ビックリでお腹いっぱい。」
「ご存じなかったのですか?」
『うん。』
また闇士とかぶった。
「あたしも知らなかったわよ。」
「これはこれはリーナ様、ごあいさつが遅れました。リホ様は、まだ正式に国民への挨拶はされていませんからね。」
正式な挨拶?それって…
「ミラさんちょっと待ってよ!デリー、マリーナ、ちょっとこい。あのさ、まさかとは思うんだけど…」
「じゃないかな…」
「多分ね…」
「やっぱり…」
『えーーーーーーーー!』
綺麗な星空のもと、大きくそびえ立つ壁をぶち破るかのような俺たちの声が響いてしまった。
「あのー、私まだ何も申していませんが…。」
堕天士長さんは頭を撫でながら苦笑いをしているが、興奮した俺たちには関係なかった。
「リホは…」
「王女様ー!?」
「ええ。リホ様は、この国の次期女王となられるお方でございます。」
ま、まじかよ…。
「ま、マウちゃん?アタシお姫様を後ろから脅かしちゃったけど…。」
「お、俺もコーヒーごちそうになる約束してる…。」
「僕は…あ、まだ何もなかった…。」
呆然とする俺たちさんにんの横で、パン!と裏士さんが手を叩き、話し出した。
「それなら話は早いじゃないかい!ミラさん、この子招待状持ってなくて入れないのよ。お願いできる?」
「ええ。皆様のお連れの方なら問題ありませんよ。私が手配しましょう。」
「やったぁ!」
「ありがとうございます。」
闇士は喜び、暗黒剣士はお辞儀した。
「いえいえ、ではまた後ほど。晩餐会を楽しんで下さいね。」
『はーい。』
堕天士長さんは、先に行ってしまった。
「そういうことだから門兵さん、失礼するねー。」
「はい、お通り下さい。」
マリーナは、スタスタと入っていった。
「失礼します。」
「じゃあねー。」
俺と暗黒剣士も門番に笑顔で挨拶した。
「にしてもビックリしたなー。」
「うんうん、何か凄く楽しくなってきちゃった。マウちゃん、偶然だけどリホりんに会えそうでよかったね。」
なっ!?
「何言ってんだよ。俺は犯人の手がかりを探しに来たんだからな!それにマリーナ、リホりんはマズイだろ?お姫様なんだからさ…。」
「はいはーい!」
ダメだなこりゃ。でも本当、リホに会えるのかぁ…。楽しみ…いやいや、俺たちは裏士を探しに来たんだ!うん、そうそう!
…いやぁ…
「ねぇデリー、あの顔見て。ホントわかりやすいよね!」
「アハハ。マウアは素直だからね。」
花畑のような庭を10分程歩いて、ようやく城の門へ着いた。
「あれ?もしかしてリーナさんですか?」
「あら!」
いきなり話しかけてきた男は、門番には見えない。
リーナさんの知り合いってことは、護衛団か?




