容疑者リーナ
暗黒剣士の試合から数日が経った。1回戦シードの俺の2回戦はまだ組まれていない。天士とも会わないままだ。それでも、これからどうなるんだろう…と考える間もなく、この日の朝から事件は起きた。
「おはようございます。」
「おっはよ~リーナさ…ん?」
一階に降りてきた俺と暗黒剣士の目に飛び込んできたのは、護衛団長と数人の護衛団の姿だった。
「あぁ、デリー、マウアおはよう。」
「リーナさん、これは一体何の騒ぎ?どうしたの?」
「君たち、静かにしなさい!」
あれがガダル護衛団長か。いかにも偉そうだ。
「あ、はい…。」
逆らう訳にはいかないからな。でも、こんな朝から護衛団長みずから何だっていうんだ?
「君たちはコロシアム剣士か。調度いい。実はここ数日の通り魔事件だが、我々は魔人の仕業であると断定した。そこで、元裏士のリーナに疑いがかかり、今ここにいる。」
「通り魔事件?魔人??何言ってるんだよ団長さん。リーナさんがそんなことするかよ。」
「僕もそう思います。」
「しかしだな。この街に裏士は一人しかいない。他に魔人を生み出す術がないのだ。私とて、英雄である元団長の妻を疑いたくはない。ただの消去法だ。」
「だからって、リーナさんの仕業とは限らないだろ!もっとよく調べろよ!」
「それもわかっている。我々は今日、業務で確認の為に来ただけだ。それ以上は何もしない。」
「業務だと?消去法といい、いい加減にしろよ!」
「マウア!いい加減にするのはあんただよ!」
「リーナさん…。」
キレた俺に、裏士さんは怒鳴り付けた。その後、いつも通り話し出した。
「マウア、いいんだよ。現に私しかいない。でも、私にも確かな証拠は示せないのさ。
だから、今は従うしかない。」
いくらリーナさんの言葉でも、納得出来るかよ。それに護衛団のやり方にも、いい加減頭にきてんだ!
「リーナさん、俺たちがリーナさんの容疑を必ず晴らす。な!デリー。」
「うん、任せてよ。」
俺たちの会話を聞いていたガダル護衛団長は、黙って背を向け歩きだし、ドアの前で止まった。
「期限は一週間だ。我々も調査を続けるが、あくまで本命は彼女だ。拘束は免れん。いいな?」
「あぁ、一週間あれば十分だ。」
「では、今日の所は失礼する。行くぞ。」
「はっ!」
護衛団は去っていった。
お前らなんか、最初から宛にしてねーよ。だけど、朝から大変な事になっちゃったな…。
「いいかい、あんたたち。この街に裏士は私しかいないと言ったけど、それは嘘だよ。私以外の裏士は存在する。」
やっぱりな。俺やデリーはその裏士の仕業かもしれないからな。
「城にはね、7年前から裏士が束ねる特殊護衛団という組織がある。特殊護衛団は、暗黒剣士の集団さ。表向きは護衛団。王族専門になってるけどね。」
「え?って事は…」
「そう。城の内部犯行の疑いがある。」
そうだとしても、目的が全くわからない…。王族が魔人騒動を起こして、自分たちで解決してるのかよ。
「そう言えば今晩、城で晩餐会があるじゃない。マウア、人気剣士のあんたなら入れるんじゃないかい?」
「この前も招待状きたけど、俺そういうのよくわかんないし…苦手だから行ったことないんだよね。リーナさんは元裏士だし、招待状は来ないの?」
「あんたにしては珍しく鋭いわねー。でも少しハズレ。あの人の妻としてなら呼ばれるわよ。たまーに顔出してたけど、最近は行ってないわね…。」
「じゃ~ん!どぉ?」
店に下りてきた闇士の姿は、寝巻きではなくドレスだった。
「どぉ?って言われてもなぁ。朝っぱらからドレス来てる一般人は珍しいと思うぞ?」
「選んでただけなのー!」
「それよりマリーナ。お前が呼ばれる理由ってあるのか?」
「マウちゃん失礼ね。お母さんが嫁なら、アタシは娘でしょ?お母さんは行かないけど、アタシは毎回参加してるの。王様のながーいお話は聞かないけど、美味しいものたっくさんあるからねー。しかも、今日は大晩餐会だから他国からも大勢来るし、期待しちゃっていーよー!」
「遊びに行くんじゃねーっつーの。」
「わかってるよ。その裏士の手がかりを探すんでしょ?」
マリーナってさ、ふざけてるようで意外に抜け目ないんだよな。
「アハハ。マウア、マリーナには敵わないね!」
「ホントだよ。」
「じゃあ私も久し振りに行こうかしら。知ってる顔もいくつかあるしね。」
「お母さんも行くの?やったぁ!じゃあ、みんなで美味しいもの食べに行こー!」
「だーかーらー、そうじゃないだろマリーナ?俺たちには時間がないんだからな。」
「マウちゃん、大丈夫だよ。いざとなったら、みーんなブッ飛ばしちゃえばいいんだから!」
ホントにやりそうで怖い…。
「マリーナ、僕は招待状ないけど入れるのかなぁ?」
「へーきへーき。デリーの分は、いつも行ってるアタシが頼めば大丈夫。」
「頼りになるね。」
「じゃあ今夜、みんなで遊びに行ってみようかねー。」
結局、四人で今夜の晩餐会へいく事になった。
だけど、城に行って大丈夫かな…。リーナさんは容疑者だし、マリーナはブッ飛ばせばいいって言うし。でも他に手掛かりはない。
今のところ、おそらく犯人は特殊護衛団を率いる裏士だ。だから魔物騒動の時も出てこなかったんだな…。こりゃ、マジでマリーナの言うように準備しておかないとマズイかもしれない。
一応、おしゃれの準備もしておくか…。




