二人の真実
デリーが悪の力を持つムルスに完勝した。やっぱり、俺の最大のライバルはあいつだ!
控え室の扉を、俺は嬉しさのあまり勢いよく開けた。
「デリー!おめでとー。やったなー!」
「マウア…。いや、あ、ありがとう。」
もっと喜んでると思ったんだけどな。
「なんだ?お前もかよ。勝ったんだから素直に喜べって。」
少々拍子抜けした俺の横から、闇士が一応といった感じで、おめでとうと言った。
「デリー、でもどうして?」
「マリーナ…うん。僕も皆の力になりたいって思ったから。入院中、ずっと考えていたんだ。」
「そっか…。」
「そう言えばデリー、あいつ魔人だったんだろ?だけど悪気が出て来なかったなぁ。デリーが何かしたのか?」
「ううん、彼はまだ生きてるし、傷は浅いからね。いずれは魔人になると思うけど…。」
「やっぱりそうなのか…。」
「ねぇ、デリーは丘で剣を貰ったって言ってたけど、まさかお母さん?…じゃないよね…」
どうやら、俺とマリーナの様子見は終わったようだ。今確信を得たからな。
「違うよ。入院中に、ある人が訪ねて来たんだ。」
「誰なのー?」
「ごめんマリーナ、僕にもわからないんだ。顔を布で隠してたし、聞かない事がこの力を手にする条件でもあったから、それ以上は…。」
「随分と怪しい話ね。でも、手にしちゃったんだからしょうがないかぁ。アタシが言える立場じゃないしねー。」
「それとこれとはまた違うと思うけど…。」
「ねぇデリー、どんな力なの?アタシやマウちゃんとは違うみたいだけど…。その刻印が怪しいと見た。」
闇士は、デリーの手首を指した。デリーが袖をさらに捲ると、見覚えのある刻印が刻まれていた。
堕天士長さんも天の刻印が手首にあったな。でも、太陽じゃない…あれは月か?
「うん、正解。これは闇の刻印っていうらしい。マリーナは、体内に天の力を住まわせてるんでしょ?この刻印を触ってみて。」
「うわぁ、これってもしかして…。」
「うん。この刻印には、悪の力が込められてる。正確には、闇かな。僕は闇士じゃないからね。マリーナやマウアは特別なんだよ。」
「だからこの剣ってこと?」
闇士は、ベンチに座っているデリーの横にあった剣を手にした。
「うん。」
「この剣、すごい闇の力が込められてる。」
二人の話がドンドン進んでいく中、俺は理解できなかった。
「なぁ、俺にもわかるように説明してくれよ。」
「しょうがないなぁ。いい?マウちゃん。この闇の刻印と繋がってるから、この剣を使っても平気ってこと。」
「ほう、なるほど。」
「うん、その前に天の洗礼を受けたんだけどね。」
「天の洗礼…?」
「マウちゃん、あれよ。私たちがミラさんやリホりんにやってもらったあ~れ。」
「おー!あの温かいやつか!!でもなんでその必要があるんだ?」
「それはね、天の力で闇の力を抑える為だよ。過剰な天の力は、体に逆効果みたいだから。」
「そっかぁ、わかった!デリーは過剰な天の力を浴びて、その刻印でバランスを取ってるのね?」
「さすがマリーナ。闇士の体内で起こってる事を、僕は体外で起こしてるんだよ。」
「そっか…。マウちゃん?」
「う~ん、って事は、デリーはその剣のみってことか?」
「通常はね。でも僕はちょっと違うかな。だって、禁じられてるはずの闇士がここに二人もいるんだから。」
「あ!俺?」
「エヘヘ。アタシたち、だね。」
「ところでデリー、その剣に見覚えがあるんだけど…。」
「言われてみればアタシも。」
デリーは少し間を置いて話し始めた。
「これはね、あの日ナイクさんが使った剣だよ。シフおじさんの剣でもあるのかな…。二人が使うような、闇士が悪気を込めた武器じゃない。裏士の作った暗黒剣だよ。」
言葉だけでなく、デリーの表情からもその危険性が伝わる。
暗黒剣か…。
「デリーお前…、本当に平気なのかよ?」
「…。」
デリーは黙ったまま、うつむいてしまった。
「マウちゃん、それを使って平気なんだから、リスクがない訳ないじゃん。」
「そうだよな…。」
すると、デリーが覚悟を決めた表情で静かに話し出した。
「暗黒剣士は、寿命が短くなるらしい…。」
「デリー…。」
「だよね…。だからアタシたちに秘密にしてたのね。」
寿命って…。
「まじかよ!デリー。それがわかっててどうして…。」
暗黒剣士は話せて吹っ切れたのか、にこやかな表情に変わった。
「マウアに比べたら、大した問題じゃないよ。」
封印の儀で俺は死ぬ…か。
「そうかもしれないけど。それは俺の運命っていうかそういうのだから、これとは…。デリー、ちゃんと納得しての決断だよな?」
「もちろん、納得しての判断だけど、僕には関係なかったよ。逆に嬉しかったんだ。」
力を得た時を思い出すように、暗黒剣士は言った。
「デリー…。」
「アタシはノーコメント。」
「なんだそりゃ。」
「マウちゃん、もういーじゃん!みんなで世界を平和に出来るんだからさー。」
相変わらず軽いな…。
「マリーナ、お前のそういうとこ、ホント羨ましいよ。」
「そうかな?マウちゃんだって似たようなものじゃん。」
「バカだなぁ。俺は繊細だっつーの。悩みだってあるし…」
「プッ。」
おい、なぜ笑う!
「それはリホりんのことでしょ?」
「なっ、なんだっていいだろー!」
「マウちゃんって、ホント面白いよね。」
「マリーナに言われたくないわ。」
「そんなこと言ってると、またリホりんに笑われるよ?」
「はぁ?マリーナ、お前のせいだっつーの。全く、天才剣士のイメージを返してくれよ。」
「あれー?そんなのあったっけ?」
「あるのー!」
「マウちゃんシー!」
なんだよ?
「デリー寝ちゃったみたい。」
「あ…ホントだ。疲れたんだな。」
「ずーっとこの約1ヶ月。一人で背負ってたのよ。」
「水くさいよな。言えばいいのに。」
「簡単じゃないよ。だから、デリーはマウちゃんと違って繊細なの。」
「だから俺も…「シー。」
あ…
「もうわかったってばぁ。」
「ごめん…。」
俺は、ベンチで横になって寝ている暗黒剣士に、仮眠用の布を掛けた。
「そうだ、アタシお母さんに連絡してくる。マウちゃんはお留守番よろしくねー!」
「はいよー。」
闇士は控え室を出て行った。
「ふぅ…。」
ガチャ!
ん?
「デリーの顔にイタズラ書きしちゃダメよー。」
「しねぇーって。」
「ほら、キレイなサインとか。」
「書かねーよ。それに俺はサイン上手いし!いいから早く行ってこいよ。」
「じゃあねー。」
戻って来た闇士は、再び裏士さんへ電話をしに行った。
デリー…。気持ちは嬉しいけど、やっぱり複雑な気分だよ。こんな役は、一人でも少ない方がいいのに…。
「マウちゃん!!」
また突然ドアが開いた。
「シー!」
全く、静かにしろって言ったのはマリーナだろ!
「デリーが起きちゃう…」
「あ…あれ?」
「ほうら、起きちゃった。マリーナのせいだからな。」
「ごっめーん。アハハ…。」
「僕…寝ちゃってたんだね…」
「デリー、起こしてごめんね!」
「大丈夫だよ。」
「それでマリーナ、慌ててどうしたんだよ?」
「そうだった!マウちゃん、お母さんに言ったらデリーの事知ってたよー!デリーが自分で言うのを待ってたんだって。」
「そっか。」
「マウア、マリーナ、ごめんね。なかなか言えなくて…。」
「そんなの気にするなよ。俺だって悩んだし。一緒だよ。」
「そうだよー。気にしない気にしない。って、アタシは悩んでないか…エヘヘ。」
「二人とも…ありがとう。」
「もうさー、なっちゃったもんはしょうがないよな!一緒に戦おうぜ、デリー。」
「うん!」
差し出した俺の右手を、暗黒剣士は迷いなく握った。
「グスン…。」
マリーナ?
「何で泣いてんだよ。」
「わかんない…何でかなぁ…。アハハ…グスン。二人を見てたらいきなり涙が出て来ちゃった。」
笑いながら泣く闇士の姿を見た暗黒剣士が、起き上がってハンカチをマリーナに渡した。
「マリーナ、実はね。僕はマリーナの体内にいる人を知ってるんだ。リーナさんに聞いたから…。その影響かもしれないよ。」
え?誰の魂なんだ?
「え?誰なの…?」
「みんながよく知ってる人だよ。」
「ハッ!」
闇士が目を見開いた。
「もしかして、お父さん?」
「うん、そうだよ。」
暗黒剣士の言葉を聞いた闇士は、顔にハンカチをあてたままその場にしゃがみこんでしまった。
「お父さんが、アタシを守ってくれてたんだ…。」
シフおじさんは、今もずーっと一緒にマリーナの体内で戦っていたんだな…。今泣いているのはシフおじさんじゃなくて、マリーナの嬉し泣きかもしれない…。
そう言えば、俺の体内には誰がいるんだ?マリーナがシフおじさんを感じるなら、あの記憶は俺の体内にいる奴の…記憶?
「なぁデリー、俺って闇士だろ?リーナさんは俺の事は言ってなかったか?」
「うん、リーナさんにもわからないって。」
「そっか…」
同じだな…。
「この世界のことをまだよくわからないけど、僕の力もそうだし、リーナさんみたいな裏士はまだいるかもしれないね。」
「それも、リーナさんに聞くしかないか…。マリーナ立てるか?帰ろうぜ。」
「うん…。」
「もう泣くなよー。」
「嬉し泣きだからいいのー!」
「そうだな。」
まだ、シフおじさんを感じてるんだな…。おそらく、俺の闘いにも影響している…。でもリーナさんも知らないないし、俺はどうすりゃいいんだ?デリーの言うように、もう一人の裏士を探すか…。デリーに力を与えた奴も気になるしな。にしても、バイラインに続いてムルスも悪の力か…なんだか騒がしくなりそうだな…。




