親友の戦い3
翌日デリーとコロシアムへ行き、デリーの試合は3日後になっていた。試合の日まで、俺はあの丘でデリーの相手をした。昨日とは違い、何故か剣を折られる事はなかった。こっそり闇士に相談したが、わからないらしい。
デリーの魔人化の心配も、忘れる程の二日間だった。その間、やはり天士が現れる事はなかった。
そして、デリーの試合当日を迎えた。裏士さんは、店があるから行けないと言った。闇士と観戦に来た俺は、コロシアムのスタンドで一人緊張していた。
デリーの剣は、本当に悪気をまとっているのか?もしそうでなければ、あの威力はなんだ?今日見れば、何かわかるのかな…。
「お?あれマウアじゃないか?」
「え?似てるだけだろ。だってここ一般席だぜ?いる訳ないって。人違いだよ。」
側にいた観戦の声に、少し微笑んでしまった。
「おっ!さすがマウちゃん、有名人だね!」
「まぁな。」
闇士におだてられていると、さらに観戦の声が聞こえた。
「一応サインお願いしてみるか?」
「サイン?って言うか、お前マウアのサイン見たことないのか?スゲー字が汚いぞ。部屋に飾る方が恥ずかしいっての。」
「まじ?そりゃ最悪だな。止めておくか…。」
「逆に俺のサインあげるっての。」
『アハハ』
なっ!?俺のサインが汚いだと?ぶっ殺す!!
「マリーナ、短剣よこせ!」
バッと立ち上がった俺の手を闇士が引っ張り、強制的に座らされた。
「おーい、マウちゃ~ん。いい加減に学べよー。」
「だってよぉー。ひどくねーか?」
「まぁね…そうだ!」
闇士が、カバンからメモ用紙とペンを出した。
「マウちゃん、これにサイン書いてみて。」
そうか、なら見せてやる!
いつものようにササッと書いて、闇士に渡した。
「どうだ!カッコいいだろ?」
「どれどれ…。」
マリーナ?何で苦笑いなんだよ…。
「あのなぁ。サインなんて読めなくて普通だろ?それを汚ないとか…「デリー!負けるなー。」
闇士は話を切るように、準備運動をするデリーに叫んだ。
「マリィナぁ、こっちも何か言ってくれよー。」
「マウちゃん!」
「なになに?このサインいいよな?な?」
「変…」
急に振り向いたかと思えばそれかよ。やっぱり変なのか…へこむわ。
「ん?もー、確かにサインは変だけど、アタシが言った変なのは、あ・い・つ。」
「あいつ?」
視線の先にいたのは、デリーの反対側で試合をじっと待つムルスだった。
っていうか、マリーナの奴、さりげなく感想言ったよな?
「マウちゃん、へこんでる場合じゃないって。よく見てよ!」
闇士は興奮ぎみに話すが、俺にはピンとこない。
「う~ん。俺と戦った時と変わらないけどなー。」
「それは外見でしょ?中身よ中身。」
中身ねぇ~、ふ~ん…
「お隣、よろしいですか?」
「ん?」
誰?
「え?ミラさん!?」
「マリーナ様、お久しぶりです。」
「この前は、ありがとうございましたぁ。」
「いえいえ、あなた方のお陰ですから。」
どうして堕天士がここに?
「マウア様、その顔は立場上私がここにいるのが意外とのことですか?そんなことはありませんよ!私も、一人の格闘ファンですから。」
「そっかぁ。アハハ」
「ミラさんがいるってことは、もしかしてリホりんも一緒なの??」
闇士が、何かをたくらむように嬉しそうに言った。
あのーマリーナさん?いつからリホりんに?
「リホ様には他の者がついております。今日は私一人ですが…何か問題でも?」
「ううん、そんなことないですけどー…」
闇士が、横目で俺を見た。一瞬目が合ったが、俺は目を逸らしてため息をついた。
「はぁ~。」
「やっぱりへこんだか…」
「お二人共、そろそろ試合が始まりますよ。」
「試合!」
「あ、はい。」
そうだよ!デリー、勝てよな!
そして、試合開始を告げる場内アナウンスが流れる。
「お待たせいたしましたー!これよりトーナメント2回戦第三試合を開始いたしまーす。」
「やっば、なんかアタシが緊張してきた。」
「大丈夫だって。デリーなら勝つ!」
あいつの強さは、俺が一番よくわかってるんだ!
「それでは、始め!」
「うおぉぉぉ!」
審判のかけ声と同時に、デリーが斬りかかった。
「フフッ」
「なにっ!?」
「デリーとやら、この程度か?」
「くっ。以前とまるで別人…」
開始直後の隙を狙ったデリーの剣は、ムルスにあっさりと止められた。
「なにやってんだデリー!止まることはないぜ!ドンドン攻めろー!」
すると、聞きたくなかった声がすぐ横から入ってきた。
「あ!?やっぱり…」
マリーナ?やっぱりって…。
「マリーナ様、お気づきになりましたか?大きな声では言えませんが、彼の相手は恐らく魔人でしょう。」
魔人だって!?バイラインに続いて、またデリーの相手が魔人なのか?なんで…くそっ。
「これは、乗っ取りではありませんね。意識はあるようですし、なによりまだ尾がありません。すなわち、肉体を自ら売った人間、ということですね。」
堕天士長さんは淡々と語った。
マリーナの違和感はこれだったのか…。
「通常はありえませんが、彼のように自らの意志で契約する者もおります。ですが、いずれは完全な魔人へと変貌するでしょう。」
完全な魔人だって!?
「こんな試合、止めてやる!」
「待ちなさい。」
堕天士長さんの前を通り過ぎようとした俺は、右腕を掴まれた。
「マウア様、彼の目は諦めていませんよ。」
「でも…。くそっ。」
「マウちゃん落ち着いて。アタシもいるし、ミラさんだっているから大丈夫だよ!」
「わかるけど、俺はもうデリーをあんな目に会わせたくないんだ…。」
これじゃ、デリーが勝てる訳がない…。バイラインの時みたいに、また見てる事しか出来ないのかよ!
試合は、少しの膠着状態になっていた。悪魔がデリーに話しかけているようだった。
「どうした?俺を恐れているのか?まぁ無理もない。俺は無敵の強さを手に入れたからな。いずれこの体は世界を無茶苦茶にするだろう。だが、そんなことは関係ない。今なんだ!俺には今が全てなんだ!お前もわかるだろう?俺たち負け組に、明日はないんだよー!来ないなら、悪いがさっさと終わらせるぜ!この力を俺が長く使うには、あまり時間を掛けたくないからなー!うりゃー!!」
悪魔が動いた!デリー!!
「話はそれだけかい?」
ブシュ!
「なにっ?」
見事なカウンターが、悪魔の腹部をとらえた。
「へっ。やるじゃないか。だが、この傷はすぐに治る。お前に勝ち目はないんだよ!」
「試合中によくしゃべる人だ。あなたが悪の力を使おうと、僕には関係ない。」
「何?てめー、なぜそれを?
だが、悪の力と知ったところで俺の勝ちは変わらない。」
「どうかな?よく考えなよ。あなたはなぜ僕に傷をつけられたのかをね。」
「はっ!?」
「どうやら解ったようだね。」
「キサマ一体…どこでこの力を…。」
「あなたと少し、道は違うようだ…。」
「ぐっ…。」
「そこまで、勝者デリー!」
『うおぉぉぉぉ!!』
「やっ、やったぁー!凄いぞデリー!」
結果のみに興奮していた俺は、どうして悪魔が倒れたのかはわからなかった。デリーも特別な人間だったのか?という発想もなかった。とにかく、デリーが無事で、試合にも勝った事が嬉しかった。
「デリー…。」
「…。」
闇士と堕天士長さんは、冷静に結果を見つめていた。
「マリーナ、それに堕天士さんまで何しけた顔してんだよー!デリーが魔人を倒したんだぜ!やっぱりあいつは強いんだよー!」
「マウちゃん、事はそう単純じゃないのー。」
「何だっていいじゃないか。デリーやったぜ!」
「まったくもー。」
「まぁ、いいではありませんか。彼が魔人を倒した。それが結果です。私たちの出番もなかった訳ですし。」
「えー、ミラさんまで?」
「マリーナ、早くデリーのとこに行こうぜ!」
「あー、マウちゃーん…。」
闇士の手を取り、俺は控え室へ走った。
「ミラさんまたね。リホりんによろしく伝えておいてねー!」
「わかりました。では…。」




