親友の戦い
「デリー!」
「マウア!?あれ、マリーナも?どうしてここに?」
「俺の方こそ聞きたいよ。いつもここで特訓してたのか?」
「うん。次は絶対負けられないからね。少しでも…ハッ!強くならなきゃ。ハッ!」
俺と話しながらも、デリーの素振りは止まらない。本当、真面目な奴だ。
「なぁ聞いてくれよ。マリーナがさ、デリーの次の相手は俺かもよ?とか言うんだぜ。ありえなくないけど、俺はデリーとはやりたくないんだけどな。」
「それは僕も同じだよ。マウアが相手じゃ自信ないからね。でも、そうなったらお互い全力で勝負だよ。」
「あぁ、手加減はなしだな。」
「ねえねえお二人さん。そんなこと言ってると、ホントにそうなるからね?あたしは冗談で言っただけだから。」
「わかってるよマリーナ。でもありえるから一応な。」
ブン…。と、デリーが最後の一振りと言わんばかりに力を込めて剣を振った。剣先を見つめる目が、何故か俺は気になった。
あんな怖い顔のデリーは見たことがない。
「マウア、久しぶりに僕の剣を受けてくれないか?随分腕が上がったと思うんだ。」
その言葉は自信に満ちていた。今でのデリーとは迫力が違う。
マリーナの言う通り、やはり悪気なのか?
「いいぜ、じゃ、試してみるか?」
「負けた後だからね。自信になるし、お願いするよ。じゃ、行くよ。」
「いつでもこい。」
俺も、背中から剣を抜いて構えた。すぐにデリーが斬りかかってくる。俺は振り下ろされたデリーの剣を剣で止めた。
「うっ!さすがデリー、やるな。」
「まだまだー!」
次々にデリーの剣が俺を襲う。しのいではいるが、俺は違和感を感じていた。
何度もデリーとは剣を交えたが、こんなにデリーの剣が重いのは初めてだ。
パキン!
「あっ!」
「え?マウちゃんの剣が…。」
「ハァ…ハァ…。」
折れた俺の剣が回転しながら宙を舞った。地面に刺さった破片を目の当たりにした俺は、正直青ざめていた。
「ちょっと油断しただけだよ。本番ならこうはいかないから。」
完全に負けた。強がるだけで精一杯だ…。
「マウちゃん、そうじゃなくて…。」
「あぁ、そっか…。」
俺は、闇士に向かって小さくうなづいた。闇士は、いつでも戦えるように身構えている。
「はぁ。マウア、どうかな?」
「ん?」
だが、デリーはいつものデリーに戻っていた。
魔人化は…大丈夫なのか…?
俺は、様子を見る事にした。
「あのさ、デリー。その剣なんだけど、どうしたんだ?」
「剣?この丘で偶然会った人にもらったんだよ。本当にいい剣だ。マウアはどんな剣でも強いけどね…。武器に強さを頼るのは不満だけど、後先考える余裕はないから。」
やっぱりいつものデリーだ。でもまだ、油断はできない。
「まぁなぁ。俺たち剣士は結果が全てなのはわかるけど…大丈夫か?」
「うん、マウアのおかげで自信が出てきたよ。ありがとう。」
「まぁ、デリーがそう言うなら…。」
あの力。悪気が関係してるのは間違いないはずなんだけどなぁ。だって俺は…。
「う~ん…。」
「マリーナ?」
「わかんなーい!」
マリーナもかよ…。
「ところで、二人は何故ここに?」
「いや、別に…。」
天士に会いに来た!なんて恥ずかしくて言えないよ。それよりデリー…
「リホに会いに来たんだよねー?マウちゃん!」
マリーナ!?
「違うぞデリー!こっちで魔物を見たって情報がだな…。」
「マウアは本当、わかりやすいよね。リホって確か、前に聞いた天士の女の子だよね?」
「だから違うって言ってるだろ!」
「わかったわかった。でも毎日ここに来てるけど見かけないよ。」
「そ、そっか…。」
「あれー?なんか残念そう?」
「マリーナさん?ぜーんぜんそんなことはないぞ。うんうん。」
気がつくと、デリーは再び素振りを始めていた。
「僕も…ハァ!リホに会ってみたいよ。助けてもらったお礼も言いたいしね。どこに住んでるの?」
あ?そういえば…。
「そうじゃん、今気づいた!リホってどこに住んでるんだろー?」
「ほんとだよな。うーん、聞かなかったし、なんとなく聞いちゃいけないような雰囲気だったしタイミングもなかったし。そうか…、どうすれば会えるのかな…。」
「二人が丘に来たって事は、この辺りなの?」
「うん、リホがこの辺は庭だって言ってた。」
こんな広い丘が、リホの庭だって!?
「マリーナ!リホん家ってこんなに広いのか?」
「デリー、マウちゃんほっといていい?」
「へ?」
「アハハ。マウアらしいよ。」
違うのか?よくわかんねーぞ?
「マウア、僕は毎日来るから、それっぽい人見かけたら教えようか?」
「あ。いや、いいよ。本当は、今は会えない約束なんだ。」
「そうなの?」
「今日はね、アタシが無理矢理マウちゃんを連れて来たの。だからいーよ、デリー。」
「わかった。じゃあ、僕はもう少し稽古してから帰るよ。」
「おう、がんばってな。」
「デリー、また後でね!」
結局、天士には会えなかった。去り際にもう一度デリーを見たが、ナイクさんの様子を知る俺にはデリーが悪気の影響を受けてるようには、やはり感じなかった。
でも、あの剣の威力は悪気…のはずなんだけど。
俺は、闇士と山中をあるきながら、まとまらない考えをまとめようとしていた。
「ねぇマウちゃん、本当はさっきかなり力込めたでしょ?油断してたようには見えなかったよ?」
「それはあの剣が…「やっぱり怪しいよね…。」
「あぁ、まだ手がいてーよ。」
「でも、マウちゃんだって悪気使ったのに、デリーってそんなに強かったの?」
「あぁ。正直驚いたよ。もう負けられないって想いもあると思うけどな…。」
「でも誰なんだろう?あの剣をデリーに渡した人って。」
「リーナさんならわかるかもな。聞いてみるか?」
「うん…。でも、もう少し様子見ない?なんとなくだけどね。」
そうだな。あれは悪気のはず。でもデリーは平気な顔をしていた。安全か危険かで言えば、安全だと思う。
「じゃあ、とりあえずこの件はおしまいだな。」
「そうだね。それにデリーだし大丈夫だよ。」
ん?
「何それ?まるでデリーじゃなかったら不安みたいな言い方じゃねーか。」
「だって、マウちゃんだったらなーんにも考えない気がするもん。」
なっ!?
「俺だって考えてるぞ。」
「例えば?」
「例えば…そうだな…。えーと、」
「あ、魔物っ!」
!!
「マリーナ!短剣借りるぞ。ん?」
「はい回収ー。ほらねー、お父さんと一緒。頭より体が先に動くタイプ。」
「わっ、わりーかよ。」
「悪くないよー。だから、マウちゃんだったら心配ってこと。」
闇士は笑いながら、スキップして先に行ってしまった。
「待てよマリーナ。結局俺は誉められたのか?」
「そーいうこと。」
「ならいいや。じゃ、腹減ったし早く帰ろうぜ。」
「もー、単純なんだから。」
『アハハ』
そうだよな、デリーは無知じゃない。もしそうだとしても、何も考えない訳がないんだ。
思わぬ事態に焦りはしたが、俺はデリーを信じる事にした。




