新たな異変
魔獣蛇の騒動から1ヶ月が経った。その間、たいした悪魔騒動はなかった。デリーの怪我もすっかりよくなったが、まだ何も終わってないからなのか、スッキリしない俺がいた。
いや、単純に試合がないからか?
「マウちゃん、何か考え事?あー、リホの事でしょー?あれから会ってないもんね。」
昼食を食べ終え、そのまま椅子にすわっていた俺に、忙しそうな看板娘の闇士が話しかけてきた。
「ちげーよ!試合の日程が決まらないから、何でかなぁーって考えてたわけ。さすがにちょっと退屈。」
「避けられてるんじゃないのー?マウちゃん、コロシアムじゃ強いしね。」
コロシアムじゃ?何か悔しい…。
「ねぇ、デリーは今日もいないの?」
「そう、稽古。朝早くから夜遅くまで、よく頑張るよ。」
「マウちゃんも行けばいいのに。弱いんだからさー。」
「ハッキリ言うねー。でもそうするかな。明日、デリーについて行ってみるか。」
「強くならないと、リホに嫌われちゃうからね?」
「あのなー、俺はそんなつもりないし。」
でも、封印の儀に関わる身としては、もっと強くならなきゃな。
「でもさー、なんか素敵じゃなーい?愛する二人が命懸けで世界を救う!なんて。」
確かに…って、マリーナに乗せられるところだったぜ。
「ざーんねーん。世界を救うのに、そんなロマンチックな話はいらないのー。」
「なんでー、いいじゃーん。あたしだったら絶対そっちの方がいいなー。」
「あのなマリーナ、仮に俺がリホを好きだとしても、リホだって好きじゃなきゃそうはならないんだぜ?だから考えるだけ無駄なの。」
「そんなのわかんないじゃん。だってリホに気持ち聞いた訳じゃないでしょ?」
「そりゃまぁ、そうだけど…。」
「え?じゃあ、マウちゃんはリホの事…。」
「だぁー、だから違うって。」
「女の感は当たるんだよ?じゃあさー、確かめに行こうよ。あの丘にリホいるかもしれないし。」
「行かないよ。堕天士長さんにしばらくは会うなって言われてるんだからさ。それに…「フラれたらどーすんだよ?」
なっ!?
「その顔!当たっちゃったぁ?」
「もー、いいから他の客のとこへ行けよー。恥ずかしいだろ…。」
「今、小声で何か言った?」
「マリーナかわいいなぁって言ったんだよ!」
バーン!
「いてっ!」
「あら、こんなところに偶然フライパンが…「嘘つけー!おー、いてぇ。」
「マウちゃん、これは普通のフライパンだから大丈夫!」
「そういう問題じゃねー。もう、わかったよ。後で丘行ってみよう。あ、マリーナ、そういう事じゃないからな。うん。」
「アハハ、わっかりやすーい。人間素直が一番だね。じゃ、片付け終わるまでちょっと待ってて。」
「はいよー。」
リホに会うなって言われると会いたくなっちゃって、ダメだって言われると、反抗したくなっちゃうよな。まぁそれも言い訳か…。マリーナ、サンキュー!
客が引くまで、俺はあまーいコーヒーを飲みながら闇士を待った。外に行く時は、いつでも戦えるように準備はしている。それは闇士も同じだ。俺たちは、店を出ていつもの丘を目指した。
「丘に行くのも久しぶりだねー。」
「そうだな、あの時以来だから1ヶ月ぶりかな?」
「リホ、いるかな?」
「いないよ。マリーナと違って、リホは忙しいの。」
「マウちゃんだって試合ないし暇じゃーん。」
「一緒にするなよ。多分俺は休養中なの。」
「そんなこと言ってると、デリーに抜かれちゃうからねー。敗戦から学ぶことは多いんだから。」
「大丈夫。だから明日からデリーの稽古に付き合うって言っただろ?」
「うん、まぁそうだけどさー。ねぇマウちゃん、トーナメントの次の対戦相手がデリーだったら面白くない?」
「ぜん~ぜん面白くない。もともとあいつは強いからな。俺は感覚で戦うけど、あいつは頭を使って作戦や経験で戦うから地味だけど的確なんだよ。俺のクセとかも知ってるし、やりにくい。コロシアムで一番やりたくないのは、間違いなくデリーだな。」
「親友だしねー。あたしもどっちを応援すればいいかわかんないなぁ。」
「でもありえるんだよなぁ。一戦ごとにくじ引きだし…考えた事もなかったよ。なんかさ、漠然と当たらない気がしてただけなんだよな。デリーとの試合か…どうすっかな…。うーん。」
闇士と会話をしながら歩いていると、いつの間にか丘の頂上付近まで来ていた。
「マウ…ゃん、ストッ。」
真っ直ぐ丘の頂上を見つめながら、闇士が俺を止めた。
「え?どうしたマリ…「シッ。マウちゃん、あれ見て。」
闇士が示した方向に目を向けると、そこには剣術の修行をするデリーがいた。
「こっち来て!」
「え?おい。」
闇士に手を引かれ、木陰へと身を移した。
「ここで稽古してたのね…。」
デリーも隠してた訳じゃないと思うけどな。
「それよりマリーナ、何で隠れたんだ?」
「わかんない。なんとなく体が勝手に動いちゃった。」
なんとなくって言われてもなぁ…。
「闇士の感ってやつか?でもあれはデリーだぞ?」
「だから、わかんないんだってばぁ。」
そう言いながらも、闇士はデリーから目を離さない。
なんだって言うんだよ?
「行くぞ、マリーナ。」
「ちょっと待って。ねぇマウちゃん、デリーが振ってる剣だけど、なんかおかしくない?」
「おかしい?どこが?」
「離れてるから確かじゃないけど、悪気を感じる。」
悪気?それが本当なら、マジでやばいじゃん。だけどあのデリーだぞ?
「マリーナ、いい加減にしろって。そんな訳ないだろ?普通に振ってるしさ。ここんとこ平和だし、感が鈍ってるんだよ。俺は行くぜ!」
「もう、しょうがないなぁ…」
デリーは俺たちとは違う。普通の人間なんだ。それは、俺が一番良くわかってる。
マリーナ、気のせいだよ。




