星に願いを込めて
「ちょっと待ってくれよ。俺まだ動けないんだ。マリーナ?おーーい!」
「聞こえなーい。なーにー?」
「だーかーらー、動けないんだってー。」
「なら、そのまま座ってればいいでしょー。すぐ戻るよー。」
…一体どこに行くつもりだよ。
ぐぅ~
ん…腹減ったなぁ。リーナさん心配してるかもしれないし、早く帰りたいんだけど…。
「ふわぁーあ。眠くなってきちゃった…。」
zzz…。
「ま、マウちゃん寝てるし…。」
「魔物だぁーー!」
「うぉぉっ。こんなとこで魔物…。え?」
「ウフフッ。元気そうでよかったわ。」
「リホ?あれ、マリーナは?あ?えー?」
「アタシはこーこ。まったくー、かよわいレディーがここから家までマウちゃんを運べるわけないでしょー?だから、リホを呼んできたのー。」
「でも何で?どうしてマリーナとリホが一緒に?」
「マウちゃん、アタシ昨日言ったでしょー?何で置いてったーって。アタシもリホと話がしたかったの。」
「じゃあ、あれってサプライズでも演技でもなく、本気だったってことか?」
「うーん、まぁ半々ってとこね。」
…この顔…絶対嘘だな、うん。
「マウちゃんが洞窟に入った後、暇になっちゃったからさ。もしかしたらーって思って、丘に行ったの。たまたま近かったしね。まさか本当にリホに会えるとは思わなかったけど。」
「ホント、ビックリしたわ。いきなり後ろから、わぁーって。」
「アハハ、マリーナらしいな。」
「それで、マウちゃんの情けなーい姿をリホにも見せてあげようって思って、ピンチになったら合図を送ることにしてたの。結局、ミラさんがいたからリホを呼べなかったんだけどね。」
「え?じゃぁ…リホ見てたの?」
「うん。」
「あれは、その…。そう、油断しただけだぞ?本当はもっと簡単にスパパパパーンって…「凄かったわ。」
「え?」
「一瞬だった。気づいた時にはもう、魔獣は倒れていたわ。私がコロシアムで見たマウアのどの姿よりも、あの一瞬は輝きを放っていた…。」
天士は空を見上げて、記憶を思い出すかのように言った。
あの一瞬…か…。
「マウアとなら世界を救える。私はそう信じてる。」
「あぁ。ありがとう、リホ。」
自信なんて全然ない。倒したとはいっても、やっぱり覚えてないんだ。それにこのダメージ。でも、この先もどんな相手が来ても、負けるわけにはいかないよな。封印の儀までは…。
「ねぇ、リホ~。ここに来る途中で話したけど、マウちゃんの回復やってみて!」
「うん。堕天士には仕事のようなものだけど、使う力は同じだから出来ると思うけど。マウア、目を閉じて両手を広げて。」
「あぁ、頼む。」
あお向けに寝転んだ俺の胸の辺りに、天士の両手がそえられる。
「ハッ!」
目を瞑っていても、あの光が放たれているのがわかる。…温かい…全てを委ねたくなるようだ。力がみなぎってくる。でも、この感じ…俺の中のもうひとつの魂のせいか?まぁいいや、今はこの安らぎに、ずーっと触れていたい…。
「はぁ…。マウア、もう大丈夫よ。」
「うっ、あぁ。」
「ちゃんと動けるか、私が試してあげる。えいっ!」
闇士が矢を放った!
「うおっ!」
顔めがけて襲ってきた矢を、間一髪横を向いてかわした。
「いい反応!大丈夫そうね。」
「そりゃどうも。」
マリーナの奴、絶対当てる気だったな…。
「リホ、お疲れさーま。」
「うん。」
立ち上がってみると、嘘のようにダメージが回復していた。
「やっぱ天士ってスゲーな。おかげでほれっ。この通り。」
何度もジャンプする俺を見て、天士は満足そうに笑った。
「よーし、みんな元気になったことだし、丘まで競争だー!」
「マリーナ?ちょっと待てって。俺まだ回復したばかり…。」
「マウアー!置いてくわよー!」
闇士を追って、天士も走って行ってしまった。
「リホまで?ったく、そんなとこマリーナに似なくていいっつーの。あーもー、わかったから待てよー!」
必死に後を追うが、二人の背中は見えなくなってしまった。
「ゴール!いっちばーん。あれ?」
「ごめんなさいマリーナ。一番は私みたい。」
「うそー!?天士の運動能力って、そんなに凄いの?あー、さてはリホ、インチキしたでしょー。」
「しーてーなーい。ちょっとだけ近道しただけよ。この辺は、私の庭みたいなものだから。」
「ずっるーーい。でも許してあげる。その代わり、今度道教えてね!」
「だーめ。教えたら、私が勝てなくなっちゃうでしょ?だから秘密よ。」
「ぶぅーー。リホの負けず嫌いー!」
「じゃあ、マリーナには教えてあげる。マウアには内緒よ?」
「やったぁ!じゃあ、マウちゃん万年ビリ決定だね。理由もわからず、プッ。」
「そうね。ウフフッ。」
もうすぐゴールだ。あれ?マリーナはともかくリホもいるじゃん。足速いなー。やっぱ天士って運動能力もすげーのかな。
「ハァ、負けた。リホ速いなー。」
「プッ。アタシとおんなじ事言ってる。」
「ウフフッ」
「は??」
『アハハ』
何か意味深な笑いだな…まぁいいか。
「疲れたぁ。」
丘に座っていた二人の横で、俺はあお向けに倒れた。
こういうのって、束の間の平和とか呼ぶんだろうな…。
「リホ見てー!星きれーい。」
「本当だねー。」
不思議だよなぁ。こうしてると、さっきまで生きるか死ぬかって闘いをしてたなんて、嘘みたいだ。
「ねえねえ見てー、試合始まったみたいよ。そう言えばさー、マウちゃんまたコロシアムで試合するの?」
「剣士辞めてないから出るかもなー。だけど、今はわかんねーや。トーナメントはシードだし、その時に考えるよ。」
「いつ魔物が出るかわかんないしさー、マウちゃん剣士辞めて家でコックやらない?それで、次の試合を引退試合にして、武器はフライパンで出ればいいじゃん!宣伝宣伝。」
「マリーナお前なぁ。俺は無敗のまま引退する伝説の剣士を目指してるんだぞ?そんな奴がフライパンで戦えるかっつーの。」
「それじゃ~いつ伝説になれるかわからないじゃん。フライパンで勝ったら、1試合で伝説になれるよ?」
「ふふっ、確かにそうね。」
「リホまでー。そんなカッコ悪いマネできねーよ。でも物は考えようか…うーん。」
「あ!マウちゃん本当にやろうとしてるでしょ?」
「やっ、やらねーよ。だいたい、フライパンでどうやって戦うんだよ。」
「へ?頭ごちーん。」
「勝てねーよ!星空の下でくだらねーこと言ってると、マリーナの頭に星が降るからな!」
「ホントー?じゃあ、その前に願い事言わなくちゃ!」
「間に合わねーよ!」
「じゃあ練習しよ、練習。」
「するなー!」
「プッ。アハハ。」
『リホ??』
同時に名前を呼んだ闇士と、不思議そうに天士を見てしまった。
「ごっ、ごめんなさい。だって、おかしくて。私、こんなに笑ったの生まれて初めてかもしれない。」
そっか。俺とマリーナには、これが日常だからな。
天士の態度に喜んだ闇士が、リホに飛びかかった。
「リホ、コチョコチョコチョコチョ。」
マリーナの脇腹攻撃は、マジでくすぐったいんだよな。
「アハっ。止めてマリーナー、アハハ。」
「わぁー!」
おっ、俺もかよー!
「だはっ。わかった、わかったからぁマリーナ。アハハ…許して、許してくれー。」
「ハァ、ハァ、ハァ」
ま、マリーナ…そんなに息が切れるまでくすぐるなよ。
「こんな時間が、ずーっと続けばいいのになー。」
リホ…。そうだな。
「そうだね!」
「うん。」
運命…か…。
「またみんなで来ればいいよ!」
「お!マリーナ良いこと言うなー!今度はデリーも誘って、だな。」
「そうだね。うん…。また…みんなで…。」
天士の言い方が少し気になったが、コロシアムの声援が心地よい風に乗って響く中、寝そべった俺たちは夜の星に願いを込めた。
「よし、帰るか。」
「じゃあマウちゃん、家まで競争ー!」
「なにぃ!な~んてね。よーい、ドーン!」
「あー、マウちゃん卑怯ー!フライングだってばー!」
「アハハ、リホー!またなー。」
「またねー、リホー!」
「うーーん!おやすみなさーーーい。」
『おやすみーーーーー!』
これ以上、先のことは考えたくなかった。俺は闇士と、運命を忘れるかのように店まで走った。




