表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭霧町奇談  作者: @眠り豆
6/156

5

あなたは何年も無人だったアパートの前に立っている。

昔のドラマに出てきそうな、古びたアパートだ。

錆びた鉄の階段が一階と二階をつないでいて、どちらの階にも三室ずつ、合計六室ある。

ずっとずっと昔、ここには自称・教祖が住んでいた。

彼は病気の子どもを案じる親の気持ちにつけ込み、神の力で病気を癒すと称して大金をせしめていた。彼が普通の治療を禁じたために、死んでしまった子もいたという。

罰が当たったのか、やがて彼自身も病気になり、死を待つだけになった。

彼は死後の復活を企み、治療を求めてやってきた子どもたちを殺して邪悪な儀式を行い、悪霊となった。


──そして今も、ここに、いる。


あなたは手の平に目を落とした。

悪霊の爪痕が残っている。

ぎゅっ、と拳を握って爪痕を隠し、今度は土でできた鈴を見る。

強い霊力があるものの、あなたは正式な修行をしたことがないので、助けがなければそれを使えない。今、この鈴は振っても鳴らないけれど、あなたが思いを籠めれば鈴の音とともに霊力を放つのだ。


(霊感少女だったことなんて、一度もないんだけどなあ)


溜息をついて、あなたは鈴を握り締める。

この鈴は龍神の霊力が篭った狭霧山の土を河童が水の霊力で練り、天狗が金気の霊力を釉薬代わりに絵を描いて、鬼が火気の霊力で焼き上げたものだった。

眼前のアパートには悪霊の結界が張られている。

持ち主の許可を得ても、退魔師たちは悪霊のアジトに入れない。

入れるのは、悪霊の巫女兼生け贄にされかけたあなただけだ。

妖怪少年たちは強過ぎて、龍神の結界である狭霧山でしか力を振るえない。

いや、そもそも……と、あなたに依頼した退魔師たちは言った。


「あの三人は正式な修行をしたことがないから、龍神の力も自分の力も制御しきれていないんだ。ちょっとしたことで暴走してしまう。悪霊の計画は、君を利用して結界に入り龍神の力を奪う。もし名代たちに見つかったら、彼らを暴走させて力を奪う。そういう二段構えだったに違いない。でも予想以上に君の力が強く、彼らも暴走しなかったので、端末である手を切り捨てたんだろう」


本体はまだここにいて、復活の機会が来るのを待っている。

あなたの役目は悪霊を退治することではなく、結界に穴を開けて退魔師たちが入れるようにすることだ。

狭霧山の外で霊力を使えば暴走してしまうため、行動をともにできない妖怪少年たちからの贈り物、土でできた鈴を握り締め、あなたはアパートを見つめた。

何年も無人だったにしては綺麗に見える。

それもそのはず、ここは現実ではなかった。

あなた自身も実体のない幽体だ。そして実は、昨日の夜のあなたもそうだった。

悪霊に操られて、幽体で狭霧山に行っていたのだ。

目覚めたあなたの体には、山にいたときの痕跡が悪霊の爪痕以外なかった。

幻のような幽体は、姿を真似た現実の存在と影響し合う。

なにかを食べると、その食べ物の持つ霊力が吸収されて実体に変化を起こす。

幽体が傷つくことで、現実の実体にも同じ傷ができることもある。

霊力の強さによっては、見た目と違う真の姿を持つこともあった。

土でできた鈴は、妖怪少年たちの思いと大切に思うあなたの気持ち、よっつの霊力によって、悪霊の結界の中の異常な空間でも存在している。


さて──


一階の部屋へ行く→1へ進む

キィキィと啼くように軋む錆びた階段を上がって二階へ行く→2へ進む

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ