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一階の壁には、ふたつの扉が並んでいた。
あなたは首を傾げた。
「このアパートって、一階にも二階にも三室ずつあったと思うんだけど」
「ああ。俺たちはもう、悪霊の結界の中に入ってんだよ」
「それって……?」
「たぶんお前が、俺と一緒に来ると決めたときにだな。俺たちは現実と重なっているけど現実とは違う、幻の世界に入り込んじまったんだ。っつっても、形があるものは大体同じ形の現実の存在に近い」
しゃべりながら若丸は、西の角部屋の扉を開けた。
「扉は開けられる」
よくわからない。そういうものなのだと、割り切って行動するしかなさそうだ。
そういえば、昨日のあなたも実体ではなかった。
若丸に引き合わされた退魔師に言われたのだ。実体は家のベッドで寝ていて、霊力で作られた幽体だけが狭霧山に運ばれたのだと。
だから朝目覚めたとき、あなたの体にはなんの変化もなかった。
「あるはずの扉がないってのは意味深だ。要するに、悪霊が隠したいなにかがそこにあるってことだ」
あなたたちはあるはずの扉がない、一階の東端に移動した。
扉があるはずの位置に立って、あなたは凍り付いた。
「どうした?」
「……中から、子どもの泣き声がする」
あのとき聞いたのと同じ、悲痛な声だ。
若丸の表情が曇る。
「中が水気に満ちてやがるから、火気の俺にはよくわかんねぇけど、悪霊の貯蔵庫みてぇだな。殺したガキどもの霊を閉じこめて、霊力を絞り出してやがる」
あなたは壁に手を当てた。本当に強い霊力があるのなら──
(扉……扉さえ開ければ、助けることができる?)
「やめとけ」
「どうして?」
「ここを壊しても無駄だ。貯蔵庫ってことは、中で生じた霊力を吸収する機能があるってことだ。俺たちの力まで与えて、悪霊を元気にしてやる必要はねぇだろ?」
「うん……」
壁から手を離し、あなたはうな垂れた。
低い声が、ぼそりと呟く。
「……若猿丸」
「え?」
「俺の本名。笑えるだろ? 真名は言い触らすもんじゃねぇから、学校じゃ若丸で通してんのに、なぜかみんな俺のこと“赤いゴリラ“とか呼びやがる」
「赤いゴリラ……ふふっ。あ! ゴメン!」
「笑ってくれりゃそれでいい。……二階へ行こうぜ。今のところ、貯蔵庫はどうにもできねぇが、霊力を悪霊に運ぶ途中のパイプなら壊せるはずだ」
階段に向かう若丸の広い背中を、あなたは追いかけた。
追いかけながら、少し不安になる。
幻の階段が現実のものと近い存在なら、かなり錆びて傷んでいるに違いない。
若猿丸の巨体を支えきれるのだろうか。
*あなたは若猿丸の真名を知りました。彼の真名数は『+7』です。
★のついた番号の章へ行ったとき、その番号に7を足した番号の章へ進むと、なにかあるかもしれません。
それでは──
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