52
あなたは子どもたちに近づいた。
ウソ泣きなのは見え見えだし、時間や場所も普通ではない。さっき見た空飛ぶ生首やぶら下がり女のようなオバケということも考えられる。
(でも……)
ウソ泣きしているからといって、不安でないとは限らない。
オバケだって夜の森は怖いのかもしれない。
「どうしたの? こんなところにいたら、オバケが出るかもしれないよ」
あなたは腰をかがめて、子どもたちに声をかけた。
「……オバケ?」
「ばけ?」
「そうよ、怖ぁーいオバケ。わたし、見ちゃったんだから」
ふたりが顔を上げる。
「それってこんな顔だった?」
「た?」
ふたりには顔がなかった。
青と黄色のパーカーのフードに包まれている頭には、髪があっても目鼻がない。
のっぺらぼうだ。
「……っ」
思わず地面に尻モチをついたあなたの背後から、だれかの足音が近づいてくる。
振り向くと、男性のふたり連れがいるのがわかった。
爽やかな柑橘系の香りが漂ってくる。コロンだろうか。
「こら、悪河童兄弟。なに悪さしてるんだ。兄ちゃん河童に言いつけるぞ」
あなたの背後から響いた掠れた声に咎められて、小さなのっぺらぼうが頬を膨らませる。
「説教してる余裕があるんなら、さっさと地縛霊退治しろよ」
「しろよー」
絶句した無精髭の男の後ろで、日本刀を持った学制服の少年が頷く。
「まったくです」
「刃くんまで……だれもわかってくれない。俺は、傷ついて死を選び地縛霊となった彼女を力ずくで祓うような真似したくないんだ。だからゆっくり話をして、彼女の心を癒そうとしているのに……」
「惚れっぽい地縛霊に熱い目で見られて、鼻の下伸ばしてるだけでしょう」
「最低だー」
「だっ!」
「そうだね。でも……」
言いながら、学生服の少年はあなたに手を伸ばして立たせてくれた。
「霧に覆われた夜の森で、迷子になって困ってる人を驚かせるのも最低だよ」
「……」
「……」
ない目で視線を交わし合った子どもたちの顔に、ぽん、と鼻が生えた。
目と口も現して、ふたりしてあなたに駆け寄ってくる。
「ゴメンね」
「めんねー……」
「お尻大丈夫?」
「じょぶ?」
「う、うん、大丈夫。あなたたちはこんな遅くまで外に出てて、大丈夫なの?」
妖怪だから時間は関係ないのだろうか。
しかしあなたの質問に、子どもたちは首を横に振った。
「ううん、ダメ。バレたら兄ちゃんに怒られる」
「怒らりるー」
「じゃあ急いで帰らないと。いい子にしてたら、きっとお母さんも喜ぶよ」
少年の言葉に頷いて、子どもたちは村とおぼしき方角へと走り出した。
「おねーちゃん、バイバーイ」
「ばばーい」
小さな影に手を振られて、あなたも振り返す。
なんとなく胸が温かくなったとき、あなたは自分が空腹だと気づいた。
たぶん、残ったふたりの男たちも気づいただろう。
あなたのお腹は辺り一面に、ぐーという音を響かせたのだから。
「……マカロン食べますか?」
「あ、ありがとうございます」
あなたは少年が差し出したマカロンを受け取った。
あれだけ派手にお腹を鳴らしておいて、いらないなんて見栄を張っても仕方がない。
マカロンを掴んだとき、逆の手が少し痛んだような気がしたが気のせいだろう。
レース調の紙袋に入った真っ白なマカロンはバニラ味で、とても美味しかった。
甘味が体に沁み込んでいくと、不思議と頭がすっきりしてくる。
あなたは思い出した自分の名前をふたりに告げて、自己紹介をした。
*あなたは自分の名前を思い出しました。
あなたの名前数は『+5』です。
☆のついた番号の章へ行ったとき、その番号に5を足した番号の章へ進むと、なにかあるかもしれません。もちろん普通に選択肢を選んで進んでもかまいません。
それでは──
→54へ進む




