我々はあなたに何をしてあげられただろうか。
「ふらいどちきん、ウマー!!」
こうして――
「首が……首が長いだと? これが……キリン」
最後の一日が終わっていく。
「お祖父さまって素敵ね。ロマンスグレーって言うのかしら」
「……マジか」
淡々と。淡々と。
そして――午後八時。
別れの時が、来た。
* * *
七月十九日。木曜日。午後八時。薙大大講堂。
集まったのは――
『賢者』鈴木弘。
魔法鉄鋼王国国王ゲオルグ三世。
魔法鉄鋼王国第一宮廷魔法師江藤蓮。
勇者安部明葉。
仁ノ宮愛。
グロンド・キアウイーまたの名を仁ノ宮進。
そして、集まった百十二人の元勇者。
「お集まりいただきまことに感謝する!!」
壇上で国王は声を張り上げる。
傀儡でも何でも――国王は伊達ではない。
それらしい動きぐらい――呼吸すると同じだ。
「きっと、誰かは言うかもしれない。こんなものに何の意味があったのか、と」
何にも出来ない。
それは勇者だって同じだった。
特別な力が在ったわけではない。
博覧強記の英知を持っていたわけでない。
「戦争が起こり――数多の人々が死んだ。きっと誰かは言うだろう。『俺に任せてくれればもっと上手くやれた』」
試行錯誤の日々だった。
悪戦苦闘の毎日だった。
失敗の連続で――それでも。
持てる技術を集めて――みんなで知恵を寄せ集めて。
「――くそくらえだ」
そんなことする義理なんて無かった。
お礼だってろくに出来ないのに――それでも彼らは持てる力の全てを持って縁もゆかりもない世界に向き合ってくれた。
だから――思う。
「あなた方の人生に――あなた方の青春に。少しでも彩りを添えられたなら――無限の価値がある」
我々はあなたに何をしてあげられただろうか。
少しの安らぎ。ちょっとの閃き。何でも良い。
あなたが何かを掴んでくれたなら――我々の勝ちだ。
「約束しよう――宣誓しよう」
左手に目を落とすと安物の腕時計が目に入った。
明葉がゲオルグに買ってきてくれたもの。
「必ず――必ず。我々はあなた方の良き隣人としてここに帰ってくる」
万雷の拍手が答えだった。
* * *
こうして、安部明葉の勇者物語は幕を閉じる。
たった三ヶ月の冒険。
結局何も出来なかった。
少し役に立たなかったし――何の力も無いまま。
でもね。
だからこそ――妹呼んでくれた人がいたことを忘れない。
「こらあ!!」
物思いにふけっているとぱしっと頭を叩かれた。
「現実逃避してんじゃねえぞ!!」
「……いや、だってこの宿題の量はあり得なくないですか?」
山。
山。
山。
「いいか、明葉。宿題があると思うな。――予習復習素材を提供していただいている、と思うんだ」
「飼い慣らされてるっ!?」
ふっと笑う、時田空。
明葉の宿題の面倒をみるために仙台からやってきたナイスガイである。
「飼い慣らされてるってのは――問題集がないと落ち着かなくなる」
「ひいい……」
明葉のか細い悲鳴が青空に溶けた。
夏はまだ始まったばかりである。




