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私の執事セオドア


アステア国では五十年に一度、流星群が降る。

キラキラと光り輝いて流れゆく、数多の銀色の星。

けれど……流星群の降る夜にだけ、誰もが見慣れた銀色の星とは違う、青い一つ星が現れるという。

その青い星に心から叶えたい願いを唱えれば、叶えられるのだと。


そうなんでも……どんな願い事でも……


それがたとえ、どんなに見果てぬ願いだったとしても……叶うと言い伝えられている。


皆が五十年に一度開催される流星祭の夜は、青い星に願いをかけようと、大きな星空を見上げては懸命に探すものの……幾千幾万の星々の中から、たった一つの青い星を見つけだすのは容易ではなく、皆口々に青い星は迷信だったんだと言う。


でも私は信じているわ。

だって母様が言っていたもの……




『母様…… 伝説の青い星は本当にあるのかなぁ?』


『きっとステラには青い星のご加護があるわ。母様が青い星になるから。その時がくれば…… あなたの頭上には必ず青い星が輝いてる。だからね、どんな時でも前を向いて歩いて行きなさい』




☆☆☆☆☆☆☆




私、ディオン公爵家のステラ・ディオンは今宵、王都のお城で開催される舞踏会に招待されている。


貴族の子女として生まれたからには、貴族同士の交流の場である、お茶会、夜会、舞踏会への出席は、大変な重責を担う務め。


決してそれらは華やかで美しい場所なんかではない。

皆が家名を背負い、その立ち居振る舞い、マナーなどに一挙手一投足と、トゲトゲしい鋭い目を向けられる。

いかに淑女として、才色兼備であるかをひけらかし、競い合う場なのだ。


なんてバカバカしいのっ!!

つまんないったらないわ!!


そのせいでずっと、ずっとマナーレッスンに、ダンスレッスンばっかりさせられている!!

これまでだって散々してきてるというのにっ!!


お城での舞踏会に向けて執事のセオドアに毎日、毎日、イヤってくらいにみっちり教え込まれていた。

どれだけ弱音を吐いても、一切妥協してくれることもなく毎日、毎日、それはもうみっちりとっ。


セオドアは悪魔だ!!あの悪魔執事めっ!!

虫も殺さぬような温和で、端正な顔立ちをしておいて、悪魔よっ!!

侍女らはいつもセオドアが通ると、キャッキャッ言って盛り上がっているけれど……皆はセオドアを知らないのよ。


私が文句を垂れている執事のセオドアは、代々我がディオン公爵家に仕えているカーチス家の者だ。

聞くところによれば、ディオン家の当時の当主曽祖父が、遠方の領地にある孤児院を見舞った際に、セオドアの祖父ジョナサン・カーチスと出会い、抜きん出て成績優秀で、まじめで勤勉だったジョナサンをたいそうお気に召され、屋敷に連れ帰り、執事見習いとして迎え入れたことがきっかけらしい。

それからというもの、カーチス家は代々男児が生まれると、ディオン公爵家の執事として仕えることとなった。


カーチス家の男達は皆有能であった。

素晴らしく頭脳明晰、明敏、そして身のこなし方も、頭からつま先までもが洗練されていて、おてんばの私はとっくにセオドアに完敗している。


そんな私は、ディオン公爵家の長女として生まれた。

私には歳の離れた双子の弟ロミオと、妹ジュリエッタがいる。

ロミオとジュリエッタはお父様の後妻の子で、母違いの弟妹だ。


私の母様は十一年前にお亡くなりになった。

もともと病弱だった母様のお体に、その年追い打ちをかけるようにして、多数の死者が出ていた疫病が襲ったのだ。


甘えたで幼かった私は、床に伏せがちだった母様のもとへよく行っては、その日一日の楽しかった出来事を夢中でお喋りしていた。


ーー母様のお体に障ることなんて考えもせずに……


それでも包み込む優しさで、ただ私の話に耳を傾け続けてくれていた母様……

そんな母様とのかけがえのない日々は、突如として襲った疫病によって、一瞬にして奪われてしまった。


今でも私を見つめていた慈愛に満ちた瞳を思い出す……私と同じ青色の瞳。

そして繋いでくれていた柔らかな手の感触も……


お義母様も私をとっても可愛がってはくれている。


ーーそう、可愛がってくれているの。


だけど……私はやはり母様が恋しいし、ロミオとジュリエッタがすごく羨ましい。


母様を亡くした日から、私の心には空洞ができてしまった。この空洞を埋めてくれる人なんて誰もいないし、埋める術なんてない。

お父様でも無理だった。

アステア国の外務大臣を勤めるお父様は大変ご多忙で、お母様がお亡くなりになったその頃も、お仕事で他国へ赴くため、長期間に渡り屋敷を離れることになり、私は幼心に孤独を感じていたのを覚えている。


けれどもたった一人だけ……


私の心に空いてしまった空洞を、これ以上大きくならないよう寄り添い続けてくれた人がいた。

それが当時十歳だったセオドアだ。

セオドアはディオン公爵家の秘書兼、執事長でもある父、フィリップの下で執事見習いをしていた。


私は母様がお亡くなりになってからというもの、泣き続けた。

幼い私には、亡くなるということの意味が理解出来ず、ただただ屋敷中を母様の姿を捜し歩いて泣いた。


そんな私に朝も昼も夜も、離れることなく、常に側に寄り添い続けてくれていたのがセオドアだった。


時に癇癪を起こす私に手こずりつつも、甘いものが大好きな私のために、自らホットチョコレートを作ってくれたり。

私が眠るまで本を読んでくれたり。

寝る間も惜しんで側にいてくれた。

セオドアに本を読んでもらう楽しい時間が、私は大好きだった。

セオドアだけが私を分かってくれていた……なのに……


あんなに優しかった天使のセオドアは今どこへ……?







はぁ、舞踏会なんて行きたくない。

こんな気分の上がらない日の現実逃避には、庭園の一番大きなクスノキに登るのが、子供の頃からの唯一の癒しの時間。


最高に眺めはいいし、風も気持ちいいのよねぇ。

それにここに登れば……空にいる母様に近づける気がして……



ーー母様……



『ステラお嬢様ーーっ!!』


あらっ、、もう見つかってしまったわ……


ちらりと後ろを振り返ると、血相を変えたセオドアが駆けて来た。


『やはりこちらにいらっしゃったのですね!! 常々申し上げているではありませんか!! 公爵家のご令嬢ともあろうお方が、木登りなどしてはなりませんと。お怪我をされたらどうなされるのです!!』


クスノキの枝に、だらりと足をぶら下げ座る私の姿を、呆れた様子のセオドアが見上げている。


また説教がはじまったわ……

せっかくの癒しの時間だったのに。


『はい、はい、下りればいいんでしょっ』


よいしょっと、、


両手でガシッと幹につかまり、大股を開けノソノソと下りていく。


『ステラお嬢様、くれぐれも慌てることなく、ゆっくりですよ。ゆっくり下りてきてください』


さぞ冷や冷やしながら、マヌケな格好をした私を下から見ているんでしょうね。

うっふふ。いい気味……ここのところ私に厳しくし過ぎていた罰よっ!!


あれっ、、あ、足が、足が……


突然片足がつってしまい、踏ん張っていた足の力が抜けて、真っ逆さまに地面へと落っこちていってしまった。


し、死ぬーーーーーーぅ!!!!


私は天を仰いだ。


バサンッ、、、、


んっ……生き……てる!?


『だから申したではありませんか。落ちてお怪我をされてはいけませんからとっ』


死を覚悟した私を、セオドアが見事なまでにしっかり受け止めてくれていた。


『ナ、ナ、ナイスキャッチ…… セオドア…… はっはは……』


ふーーぅ。

死の間際は、人生の走馬灯が浮かぶってよく聞くけど……浮かぶ暇もなかったわ。


はあぁ……助かったーー!!!!


『今宵はレティシア王妃が主催される舞踏会に、十六歳となられたステラお嬢様が初めてご出席される大切な日。木登りしている場合ではございません。早くお屋敷へお戻りになって、身支度のご準備をなさらなくては…… メアリーがお嬢様を捜しておりましたよ』


『は、はぃ…… ごめんなさい……』


無事地面に降ろされた私は、否応なしにセオドアと一緒に屋敷へ戻った。


いい気味だなんて思ってしまったバチが当たったのかも……罰を受けたのは私の方じゃない。

それにこうして危ないところを助けてもらって……

どれほど反抗しようがセオドアには敵わないわね。


ーーさすが私の執事セオドア。













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