第134話:管理不能の兆候
帝国北西部、外縁監視区。
観測塔の警告灯が、初めて同時に点灯した。
「……あり得ない」
監視官が、思わず声を漏らす。
投影板には、三つの地点が表示されていた。
距離は離れている。
地脈の系統も違う。
それなのに――
「同一波形だと?」
「完全一致ではありませんが……位相が同じです」
研究補佐の声が、わずかに震える。
「第四層ダンジョンと、同じ“癖”があります」
沈黙。
誰もが理解していた。
それが意味するところを。
「……封鎖判断は?」
軍務省の連絡官が問いかける。
「間に合いません」
監視官は即答した。
「発生が早すぎる。
しかも、今回は――」
投影が切り替わる。
地形図。
その上に描かれた、歪な構造線。
「ダンジョン化が、完成してから観測されています」
室内の空気が、冷えた。
「完成、だと?」
「はい。
自然生成なら、必ず前兆がある。
律の揺らぎ、魔力密度の上昇、構造未確定期――」
研究補佐は、唇を噛む。
「今回は、ありませんでした」
「つまり」
誰かが、低く呟く。
「我々が観測を始めた時点で、
すでに“出来上がっていた”」
会議室に、重い沈黙が落ちる。
帝国は、管理できるものだけを管理してきた。
観測できるものだけを、危険と定義してきた。
「……これは」
評定官が、静かに言った。
「管理可能ではない」
軍務省が、険しい顔になる。
「だが、放置はできん」
「分かっている」
評定官は、続ける。
「だが今回は、
封鎖・実習・調査のいずれも当てはまらない」
「では、どうする?」
評定官は、少しだけ視線を伏せた。
「――“対応”に切り替える」
言葉の意味を、誰もが理解した。
「これは異常ではない。
現象でもない」
評定官は、はっきりと告げる。
「敵対行動だ」
投影板の中央に、
新たな警告表示が浮かび上がる。
分類更新
管理外ダンジョン
敵対構築型
優先度:最高
「……ついに、来たか」
研究局の代表が、低く呟いた。
「帝国の管理網を、
意図的にすり抜けてきた存在が」
その瞬間。
別の監視塔から、緊急通信が割り込む。
「追加報告!
第二地点、内部構造の再編を確認!」
「再編?」
「はい!
探索中にも関わらず、
通路配置が変化しています!」
ざわ、と室内が揺れる。
「自己更新型……」
誰かが、呟いた。
「……もう、ダンジョンじゃない」
評定官は、静かに結論づけた。
「これは、戦場だ」
沈黙の中で、
一つの名前が、誰の口からともなく浮かぶ。
「……アラン・ルクレディア」
評定官は、ゆっくりと頷いた。
「呼び戻せ。
そして――」
一瞬、言葉を選ぶ。
「次は、
彼の判断を優先する」
それは、
帝国が初めて認めた事実だった。
管理できないものがある。
そして――
それに対抗できる存在も、
帝国の管理の外にいる。
光は、もう道具ではない。
世界は、
そのことを理解し始めていた。




