契約、そして
半年ぶりの投稿です!
私は黒森大輝君の家のリビングに敷かれた布団で耳を押さえて現実から逃避していた。 時刻は夜中の1時を回っている。 隣には着信音が鳴り止まない携帯。着信者は見なくても分かる。 私を性の捌け口として物のように扱う豚人間。 それ以外に電話なんて来ない。 親は私をなんとも思っていない。 ましてや友達なんて一人もいない。助けを呼びたくても助けてくれる人なんていない。嗚咽が漏れる。助けをいつも心の中で求めてきた。 助けてと叫んだこともある。 なのに、誰もが目を逸らす。同情でもいいから助けて欲しかった。侮蔑や同情の目を向けるだけじゃなくて。 おとぎ話でよく見る王子様のように、手のひらを差し伸べて、私を助けて欲しかった。 現実は辛くて悲しくて、愛情なんて分からない。現実ではない別の世界へと連れ出してほしい。それが私の願い。 叶わないであろう私の夢。
「どうかしたの? 白神さん」
頭上から聞こえた優しい声。その声だけで心が癒される。 私は鼻から上だけを布団から出した。視界に映るのは心配そうな顔の彼。唯一私の事を汚いと醜いと軽蔑してこない男の子。心の底から心配だと思っているのが分かる。醜い者を見る瞳はいつだって暗い。 下心の瞳もそうだ。 なのに、彼からは下心も軽蔑心さえも感じられない。
「・・・何しに来たの?」
弱々しく嗚咽を漏らしながら尋ねた。 それに彼は優しい笑顔で赤子を宥めるように、私の髪を撫でて答えた。
「白神さんがうなされてるような気がしたからさ。 それに友達の事はほっとけないからね」
「・・・友達? 私が・・・」
「うん、そうだよ」
彼は当たり前の様に頷いた。 私を友達だと、彼は言った。信じたくても信じられるわけがない。何度、何度、人に騙されてきたか。きっと彼は心の底から絶望した経験がない。 私のように醜い人生とは全く違う綺麗な人生を歩んできたんだ。だから、私の気持ちを分かるわけがない。だけど、なんでだろう。どうして、胸が熱いのだろうか。彼に言われると、なんでこんなにも嬉しくなるんだろう。当たり前な言葉なのに、どうしてこんなにも心が喜ぶんだろう。視界が涙で滲んで、彼の顔が良く見えない。そんな私の頭を優しい手つきで彼は撫で続ける。 そんな優しい撫で方に私は意識が薄れていく。気持ちよくて、それでも心が温かくなって、きっと・・・私は彼に・・・黒森大輝君に・・・○○しているんだろう。
☆
数十分前に、トイレで用を足した帰りに聞こえてきた白神さんの泣く声に気づいた僕は急いでリビングに向かった。憧れの彼女が、僕が恋した彼女が泣いている。それは何よりも一大事だった。だから声をかけた。 心配だったから。彼女には笑って欲しいから。あの時、桜の木を見上げて微笑む彼女の姿に一目惚れしたから。
「・・・泣き疲れちゃったのかな」
僕は、寝息をたてる白神さんの頭を撫でながら微笑んだ。彼女の泣いていた理由は分からないし、無理して聞こうとは思わない。いつか、彼女が自分から話してくれるまでは。 ただ泣いている声と一緒に聞こえたあの着信音。 アレがなにか関係しているのだろう。彼女をここまで追い込んだ何かがある。僕は彼女の笑顔と同じ学校ということしか知らない。彼女の性格も誕生日も趣味も知らない。知っているのは外の面だけ。だから、彼女を知りたいと思った。だけど、緊張して声がかけれなかった。もしも避けられたらどうしようって思って。怖くなって。本来の僕は単なる臆病なチキン野郎だ。 どうしようもないほどの。
友達がカツアゲされてる現場を目撃しても見捨てて、困っている人がいたら目を逸らして、逃げてきた。誰かを助けたら、今度は自分が標的になるから。でも、父から教わった。何かある度に口癖にように。
『好きな人ができたら、何があっても守れ。逃げるな、立ち向かえ』
僕はこの言葉が好きだった。父は僕にとって憧れの存在だ。正義感溢れる警察官。街の人達からはとても愛されているカッコイイ父親。ずっと父の大きな背中を追いかけてきた。だから、彼女を助けた。あの時、泣いてたから。放っておけなかったから。
「君の事は、僕が守るから」
僕は眠る彼女にそう約束して、朝になるまで頭を撫で続けた。
☆
「・・・っう!?」
直接、脳を針でつつかれるような痛みに顔をしかめる。
「ここは・・・あの空間? さっきまで白神さんの記憶を見ていた気が・・・」
視界に映る青白く輝く壁とその壁を縛る沢山の鎖を見て、呟いた。先ほどまで見ていたはずの光景では無いことに疑問しか湧かない。俺は痛む頭を押さえながら、今自分が置かれている状況を整理する。
聖女であるアストラによって心層世界に導いてもらい、そこに潜む《不完魔神》を倒すという目的と、各層の試練の突破。
「今のがヒナの記憶? って事はアイツが、白神姫凪?」
ポツリと呟いた瞬間、
『やっと気づきおったか、後継者よ』
目の前に幼女が現れた。銀髪のツインテールに黄金色の瞳、顔立ちは女神の写し鏡のように美しく、七つの虹玉が通されたネックレスに巫女装飾みたいな白色の服を着た少女。 あの時意味不明な言葉を口にした巫女の一人。
『どうしたのじゃ、ありえないものを見たような顔をしよって』
フワリと浮きながら、巫女が妖しく微笑む。
『思い出したようなら、試練は合格。我の力を汝に授けよう』
巫女は、ふわりふわりと思考フリーズのクロードに近づき、彼の唇に自身の小さな唇を触れさせた。要するに接吻だ。あるいはベーゼ、キス。 無理矢理歯をこじ開けられ、巫女の舌が俺の舌を絡めてくる。クチュクチュと音がなり、唾液の交換が行われる。永遠のように感じる長いディープなキスがしばらく続き、唇が離れる。
『これで契約の儀は終了した。力を扱う時には、【紗々芽】と我の名を呼ぶがいい。 いつでも汝の助けになってやろう』
銀髪ツインテ巫女:紗々芽は、濡れた自身の唇を舐めて消えた。それから約五分後、俺は我に返った。
「あ・・・え? 何が起こっ・・・ん? なんだこの精霊?」
目の前に映し出されるステータス画面。その中にある項目の一つ『精霊』の所に見覚えのない名前が追加されていた。俺はそれを押すと、ステータス画面から精霊の詳細画面に変わる。
ランク【UR】
クラス【巫女】
識別コード【S-0001】
精霊名【四聖ノ巫女:紗々芽】
Lv【???】
MP消費量【ランダム】
スキル名【服従】
成功率【10%】
効果【契約者に殺意を向けた者のあらゆる攻撃手段を封じる】
代償【契約者のHPを1になるまで削り取る】
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「・・・巫女。 あぁ!? あの銀髪ツインテロリの事か!? クソ! なんかされた気がするんだけど、思い出せない!! 絶対いいことだったはずなんだけど!!」
俺はガクンと四つん這いで落ち込んでいると、ギィィという扉の軋む音が聞こえてきた。そちらに視線を移すと、最初に入ってきた扉と同じ扉があり、階段が続いていた。どうやら、この扉に入れとのことらしい。
「とりあえず最終階層にいる不完魔神をぶっ殺す」
思考を切り替え、第二層に続く扉を潜った。
そして--俺の視界全部を赤が染めた。
次回の投稿日は未定! とりあえず、第一層は突破したので次回から第二層の話です!




