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少年と少女

久しぶりの投稿です! 今回から少しだけクロードとヒナの出会いの話になります

私は人が怖かった。

私は嘲る視線が怖かった。

私は虐げられるのが怖かった。

私は貶されるのが怖かった。

私は裏切りが怖かった。

私は嘘が怖かった。

私は信じるのが怖かった。


私は--全てが怖かった。


私の名前は、白神しらかみ姫凪ひなぎく。 学校ではトップの成績を持つ超優等生だ。部活はやっていないが茶道、ピアノや生け花など色んな習い事をしている。 オマケに学校の生徒会長。 これだけを聞けば友達の多そうな非の打ち所のない人間だ。しかし、それは表の顔であり、裏の顔は違う。 私に友達はいない。 いるのは私を人扱いしない人達だ。画鋲を靴に入れられ、机には売女やヤリ○ン等と落書きされ、下駄箱には生ゴミが敷き詰められているのは日常茶飯事。 最もそんなものはまだまだ優しい。 それより酷いことを私は毎日毎日、受けている。泣いても喚いても、虐げる人達から発せられるのは反省や心配ではなく笑い声。人を貶すことで喜びを感じる人達クズ。 それが私の見解。 それは中学時代の私。 だから私は誰も知っている人がいない高校に入学した。 そこならば虐められなくて済むと思って、安堵した。 だけど、それは自分の勘違いだった。 私を知らいない人達ばかりだからといって虐められないとは限らなかった。何故なら、中学時代の奴らは私の家の前にやって来たから。 知ってるのも当然だ。よく親が仕事でいない時に、私の部屋で沢山虐げてきたのだから。その日を境に私の二度目の人生は再び狂い始める。 高校生となればバイトが出来る。そうとなれば、虐げられる側の私は虐げる側からしたらいい財布だ。人気ひとけのない所で服を全部脱がされ撮影されて、虐げる側の中学時代から存在する『姫凪を辱めよう』というクソみたいなグループに投稿される。そこには男子生徒だっている。どうせこれをネタにヤラせろとか言うのだろう。男はどうせケダモノだ。例えば、可愛い女の子が裸で立ってたらお構いなく襲う。 男なら当たり前だ。 それはとても気持ち悪い。 そして、それは現実となる。 投稿された次の日、中学時代のクラスメイトで良くオドオドしていた眼鏡をかけ豚のようにぶくぶく太っており汗を大量にかいている男子生徒が突然、家の前に現れて、投稿された動画と画像を見せつけ、ニヤニヤした気持ちの悪い顔でこう口にした。


「こ、この・・・ど、動画を親にバラされたくなかったら、ヤ、ヤラせろ! も、もしくは、ぼ、僕の性奴隷となるんだ!!」


余りにも気持ちの悪い言葉。 絶望や怒りよりも先に来るのは嫌悪だ。 気色悪くて吐きそうだ。それでもこの動画が親にバレるのは不味い。 これまでイジメのことは親に隠してきたのにこれではパァだ。だからといって、この気持ち悪い男に身体を差し出すのも嫌だ。 だとしても断ることは許されない。 弱者は強者に喰われるのが当たり前だ。 この世に平等なんてない。あるのは醜悪な人間クズと自身の勘違いな正義を振りまく偽善者だ。その勘違いな正義は単なる自己満だということに気づかずに人間は行動する。そして、虐げる側のターゲットに変わる。 結局、助けた所でイジメは新たな対象へと移るだけだ。終わらない虐め。 虐めは消えない。 犯罪を犯す人が消えないように。それがこの世の摂理だ。 だから、この時の私の選択は『イエス』しかなかった。 いや、むしろそれ以外の選択肢は元から存在しなかった。 こうして私の人生は変態に捧げる事となった。最初はまだぬるいものだ。キスをされ、舌を入れられる。胸を触られ、吸われる。下腹部を触られる。 この変態は私から求めるようになるまで繰り返してきた。最初は拒絶した。 でもだんだんと心の何処かで抵抗しても無駄だと諦めてしまう感情が芽生えていた。限界だった。


だから、死のうと思った。


私は変態の気色の悪い行為に耐え抜き、死ぬ前にある場所へと向かった。私が通う高校の近くには綺麗な桜が咲いている場所がある。そこは私が第2の人生を歩もうと決めた場所だ。そして、彼と出会った場所でもある。 私は彼の事について何も知らない。知っているのは名前だけだ。 その少年の名は黒森大輝。 私と同じクラスメイトで隣の席。彼は男女問わず誰にでも優しくて友達が多かった。私とは真逆の存在。 私が陰なら彼は陽だ。仲良くなりたいと何度も思った。 だけど、私にそんな資格はない。虐げられている私と仲良くなれば今度は彼も狙われてしまう。 それだけは嫌だった。


「結局、彼と仲良くなることは出来なかったなぁ」


私は無理やり笑顔を作り呟いた。そして、桜に背を向けて歩き出して--声が聞こえた。


それは透き通った綺麗な歌声。 つい聴きいってしまう程に美しく穏やかな音色。 私はその声の方へと自然と身体が向かっていた。何故だかわからないのに呼ばれている気がした。 ここで行かなければ後悔してしまう気がした。


どれくらい走っただろうか。

私は高校の音楽室の扉の前にいた。

そこから歌声は聞こえる。 私は乱れた息と身嗜みを整えて、いちど深呼吸した。 そして、決意したように扉を開けようとして--開かれた。 目の前には彼がいた。


少し幼さの残る顔立ちに私より小さい身長をした彼。 その彼は驚いた顔で私の顔を見ていた。それは無理もない。扉を開けたらそこには私がいるんだから。 酷く汚れた私が。私はその場から逃げ出そうとした。 いや、逃げた。 逃げるしかなかった。 彼に見せるような顔を身体をしていない私なんだから。彼だって私を汚いヤツだと思っているはずだ。


走って走って、後ろを振り返らず前を向かずに走り続けて、石につまづき顔面から地面へと倒れた。 ドロドロしてぬかるんでいた。 どうやら気づかないうちに雨が降っていたらしい。私は動けなかった。 自分が情けなくて、醜くて。死にたいと思ってたのに彼を見たら生きたいと思ってしまった。 自然と涙がこぼれた。久しぶりに泣いた気がする。 流れ始めた涙はもう止まらない。雪崩のように悲しみが流れ出す。 ふと背後から人の気配を感じた。 あぁ、また虐められる。 またいやらしい事をされる。結局、私は逃げられ--かけられた声、それは優しい声だった。


「だ、大丈夫!? 白神さん!!」


気になっていた人の声。 痛む心を癒してくれるような優しい声。 彼は汚れている私に躊躇いなく手を差し伸べてきた。 その手を見て私は目を背けた。 こんな汚れた手で私とは別世界の美しくて優しい彼の手を汚すことは出来ない。けど、彼は目を背けた私の手をしっかりと握り込んだ。 暖かくてしっかりとした手。気づいた頃には、自分の方から握られている手に軽く力を込めて彼の手を握り返していた。


「えーと、まずは顔を洗いに行こうか? その後に体中に付いてる泥を洗い流さなきゃね」


「・・・・んで」


「ん? どうかした?」


彼は目をぱちくりさせて首を傾げた。 その顔を見ていると、優しい言葉をかけてくると、私の心が嬉しさで泣き出してしまう。


「・・・何で、私を助けてくれるの?」


「あぁ、その事。 僕はさ、入学式の時、君の笑顔に救われたんだ」


彼はそう言って中学時代の話をし始めた。

どれくらい経っただろうか。 気づいた頃には、彼の話を真剣に聞いていた。


「人見知りで友達もいない僕は君の笑顔で変われた。 君と仲良くなりたくて無理して明るい人を演じてきた。 けど、それなのに、僕は君の前だとどうしても緊張して話しかけることが出来なかった。変なやつだと思われたらどうしようとか、嫌われたらどうしようってネガティブな事ばかりが頭に浮かんで・・・でも今日、こうして君と会えた」


彼は心の底からそう思っているのだろう。 しかしそれは勘違いだ。 本当の私は弱虫だ。 私の笑顔で救われる人なんていない。ましてや彼が私の笑顔で救われるなんてありえない。 だって、救われたのは私なのだから。


「さぁ、顔を洗いに行こう」


彼は優しい声で私の手を引いた。


「・・・うん」


私は笑って頷いた。 初めて心の底から笑えた気がした。 この時の笑顔は泥だらけで顔が汚かったけど美しいものだったということを私は彼に後で伝えられるまで知らなかった。


私は水道で顔についた泥を洗い流し終えると、そのタイミングでミニタオルを彼は差し出してきた。くまの絵がプリントされた可愛らしいタオル。私は遠慮したが彼は笑顔で使ってよと促してきた。 そう言われると断りづらい。 私は彼の優しさを無下にしたくなかったからありがたく使うことにした。 顔を拭いとり、私は彼にお礼を告げた。


「あ、ありがとう。く、黒森君」


「ううん、それより体も洗わないとね。 ちょうどこの近くに僕の家があるから風呂入りなよ。 それに体も冷えてるかもだし温かい飲み物もご馳走するよ」


「あ、え、で、でも・・・わ、私なんかが行ったら迷惑じゃ・・・」


「迷惑? ううん、むしろ大歓迎だよ。 それに僕は君をここに置いていくことなんてできない」


彼はニコリと微笑む。 爽やかとかそういう笑顔じゃない。 心の底から、自然と出てくる笑顔だ。 私はこんなに優しくされることが嬉しいことなんて知らなかった。 せっかく顔を洗ったのに涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃだ。 それでも彼は嫌な顔一つせずに私が泣き止むまで待っていてくれた。 しばらく泣いた。 目から全ての水分が抜けそうなほどに泣いた。


「もうすぐ家に着くからね」


「う、うん」


私は彼の言葉に頷く。 暫くして家に着いた。 彼の家は普通の一軒家で、裕福でもなく貧困でもない普通の家庭。彼はポケットから家の鍵を取り出し開けて中へと入った。


「風呂はここだよ、着替え持ってくるからゆっくりしてって。 あ、それと着替えはこの籠に入れといてね」


「あ、ありがとう」


私は彼に案内された脱衣所に入った。 彼は扉を閉めて2階へと登っていった。 私は彼に渡された籠に泥だらけの服を入れ、浴室へと入った。


シャワー1つに大きな鏡。 風呂は小学生ぐらいの子1人と大人1人が入れそうなほどの大きさ。小さなプラスチックの箱にはアヒルの玩具などが入っている。私はまずシャワーを全身に浴びた。 冷めきった身体に温かいシャワーが染み渡る。


「白神さん、着替えが僕のシャツしかなかったんだけど大丈夫? サイズ的に少し小さいかもしれないからワイシャツを置いておくね」


脱衣所から彼の声が聞こえた。 私はシャワーを一度止め、答えた。


「うん、ありがと」


「ゆっくりしてていいからね」


彼はそう答えて脱衣所から出ていった。 私は再びシャワーを浴びて汚れた身体と髪を洗い終えた。そして、脱衣所にあるバスタオルで身体と髪の水分を拭き取り、隅に置かれている籠に目を向けた。 そこには少しサイズが小さいワイシャツと男物の下着が置かれていた。私はまずワイシャツを着て、次に下着を掴んだ。 そして片足を通そうとして、一度止まる。


(男の人の下着を履くのって抵抗があるけど、でも、履かないとノーパンにワイシャツでいなきゃいけないし・・・)


私はワイシャツ1枚だけでリビングの扉を開けた。中に入ると、エプロン姿でご飯を作っている彼がいた。


「あっ、服小さくてごめ・・・うわわ!?」


私に気づいた彼はこちらの姿を見てすぐに顔を真っ赤にして視線をそらした。まぁ、無理もないと思う。 ギリギリワイシャツで下は見えないが、見えそうで見えないって感じのチラリズムをさらけ出していることは自分も重々知っている。


「あ、えーと、ご、ご飯、つ、作ったんだけど、た、食べる?」


彼はエプロンを外し、カレーライスが盛られた皿を手に尋ねてきた。 鼻をくすぐるような美味しそうな匂い。その匂いにお腹の虫が鳴った。 恥ずかしさに顔を真っ赤にした私は彼の方に視線を向けると、笑顔を浮かべて口を開いた。


「お腹は正直だね。 それじゃ席に座って。 飲み物も用意するから」


「あ、ありがとう」


私は彼に案内された席に座る。カレーライスの皿とお茶を目の前に置かれた。 そして、彼は前の席に座った。


「それじゃ、食べよっか」


「・・・いただきます」


私は手を合わせそう呟いてスプーンを掴み、一口分すくい取り、口に含んだ。 ピリッと舌先を刺激してる辛さに顔を軽くしかめた。味は市販の辛口カレーの味。 なのに今まで食べたカレーの中で一番美味しく感じた。 何故か涙が流れてくる。 悲しいわけじゃない。 辛いわけじゃない。 恐らくこれは、嬉しさからこみ上げてくる涙だ。


「だ、大丈夫!? え、えーと、もしかして美味しくなかった?」


彼は慌てた顔で心配そうに声をかけてきた。 私は彼の言葉に首を振る。 美味しくないわけがない。


「そっか。 あ、今日は泊まりなよ。 お客さん用の布団もあるからさ」


「え、でも・・・」


「両親なら今日は帰ってこないよ。それにもう外は暗いから女の子一人で外を歩かせるのは心配だからね」


「それなら・・・お言葉に甘えて」


私は彼の誘いを受けて、泊まることにした。




次回は少し遅れます

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