16 魔族領域統一
「魔王ジルダリアスよ。汝に勅命を与える」
「はっ! 獣神様、何なりとご命令を!」
「これより汝を大魔王へと任命する。我が巫女の言葉を我が言葉とし、魔族領域の発展に努めよ」
「ははぁっ! この命に代えましても!」
恭しくも畏まる馬野郎。その目前で偉そうにふんぞり返る黒ドラゴンと、その傍らに寄り添うエルフ美女。
このような茶番を見せられて、俺の心に何とも言えぬもしこりが残る。やらせているのは俺である。俺なのであるが、中心となっているのは黒ドラゴンだ。美女を侍らせ、忠臣に傅かれているこの光景。
「チッ」
舌打ちの一つも出ようというものである。
「貴様! なんだその態度は。獣神様に対して不敬であろう!」
「まあまあ。我々は残念ながら敗者なのだ。勝者様の顔は立ててやろうじゃあないか。
で、だ。それはそれとして、どうしてそう不機嫌そうなんだよ。ここまであんたの思い通りだろ」
黙れ黒ドラゴン。貴様に言っても分かるまい。恵まれた者に貧しい者の気持ちなど理解出来ようはずもない。
改めて城住まい・ハーレム持ち・部下に恵まれる三拍子揃った黒ドラゴンに嫉妬の炎がメラメラ。いけない、ここにいると心が荒む。早く逃げなくっちゃ。リア充が居ない優しい世界に引きこもらなくっちゃ。
俺は黒ドラゴンが創った異界へと跳んだ。
相変わらず殺風景な荒野だが、そこはそれ。魔族領域を統一するまでそれなりの時間がかかるだろうし、暇な時間に改良してしまおう。
ここを拠点にして神託で黒ドラゴンに指示を出し、世界の変革を進めることにしよう。
◆
――――と、思っていたんだが。
エルフ美女がすごいやる気なのだ。俺が指示を出すよりも早く改革案を出し、計画を立て、推し進めてしまう。
ちょっと待ってよ、やるのはいいけど一回俺という黒幕に許可を取ろうよ、と諭してみたのだが、聞く耳を持たない。
もともと人類領域の南端まで部下を送り込むような大胆な人物だ。そして策士でもあるらしく、持ち前の頭の良さで次々出てくる問題を解決してしまう。それも嬉々として。
多分こいつ、俺の存在を盾にして邪神――いや、獣神の立場を高見に持ち上げようとしているのだ。具体的に言うと、獣神への信仰心を政治的・軍略的に用いようとしている者達を「不信心者」として粛正し排除を進めている。
獣神の巫女という立場を最大限に利用して。
己の言葉を獣神の言葉と嘯き、獣神が諫めてこないのを良いことに好き勝手やり放題である。なお、当の獣神はといえば、「クアランタに任せておけば安心だな!」と楽観的に構えて日々をのんびり安寧にすごしている。
獣神は知らない。己の愛する獣人達が魔女狩りよろしく処断されていることを。そしてそれこそがこのエルフ美女の恐ろしいところである。都合の良い情報ばかりを獣神に伝え、血生臭いあれこれはシャットアウト。そして獣神の一番近くに居続けることで密告を許さない。獣神は『博識』が弱体化しているため調べられないわけだが、そもそもエルフ美女に全幅の信頼を寄せているので調べる気もない。
無能。黒ドラゴン、実に無能。一部俺のせいでもあるが。
俺は勢いに押されてエルフ美女を巫女に任命してしまったことを後悔し始めていた。
いや、ある意味今の状況は「我が意を得たり」と言うべき状況なのだ。元々姫殿下のような知恵者に丸投げして任せるつもりだったし。
しかし、である。エルフ美女がただの知恵者であるならば良かった。政治的センスに優れているだけであれば問題はなかった。だが、この女はただ頭が良いだけの女ではない。
狂信者だ。
心の底から獣神に心酔し、純粋に獣神のためだけに動いている。汚れ仕事も厭うことなく、それでいて獣神の前では清楚な自分を演じている。
この女は危険人物である。
綺麗な花にはトゲがある、なんて生やさしいものではない。いばらをまとった毒花である。
◆
ハイスピードで改革は進んでいく。そこに俺の出番はない。ついでに言うと馬野郎の出番もない。
出番はないが、大魔王の存在だけが大きくなっていく。
馬野郎が大魔王として任命されたその日の内に魔族領域の各国へと通達が出された。それはまさしく寝耳に水であっただろう。そもそも、先代獣神が亡くなり世代交代したことすら知らない者が殆どであったのだ。
特にワスナ国の新王などは心底たまげたに違いない。親父が王位を譲渡し人類領域に出向いたと思ったら、何故か魔族領域の最北端であるエボカナ国を征服したことになっており、さらに神により大魔王の位を授かり、さらにさらに魔族領域の統一に乗り出したのだ。
当然各国から反発はあった。
しかしあっという間に収まった。
この時点では俺もまだ楽観視していた。高みの見物を決め込んで「お手並み拝見」などとのんきなことを思っていたのだ。大魔王の出現により混乱する魔族領域をどのように平定していくのか、今後の参考にしようくらいに考えていた。
結果、全く参考にならなかった。
通達があり、混乱が起こり、なんやかんやあって終息した。そのなんやかんやの部分がさっぱりなのだ。いや、『全知』で調べたのでそれなりに知ってはいるが、「知る」と「識る」とは意味が違うということだ。
通達後に一度、黒ドラゴンの力で各国の巫女に神託を出したことは分かっている。その内容も、獣神の世代交代と大魔王の任命が正式な神の意志であることの表明であり、当たり障りのない神託であった。
この世界では、現代日本と違って神の存在が重い。だからって神の言葉一つで皆が皆、納得するものか。答えは否である。納得いかぬ者は少なからず存在した。ただ、いなくなっただけである。物理的に。
怖い。怖いよこの女。絶対俺が指示する前から用意してたよ。もともと魔族領域を統一し獣神に捧げるつもりだったはずだ。でなきゃこんな短期間でとんとん拍子に進むわけがない。
そんなわけでこの世界に大魔王という存在が生まれた。そして六つに分かれていた魔族領域は一つになった。
結果オーライ。この俺の計画通りである。
だが計画を上回る結果が出てしまった気がする。順調ってのは、順調すぎると怖いものなのだなあ、と識った歴史の転換期であった。
この世界、舵取りの効かない事ばかり起きる。とほほですよ……。
明日も更新する予定です。
なお、更新されなかった場合、この後書きは自動的に消去される。




