15 桃色エルフ
昨日、一昨日も更新してます。珍しく。
未読の方はそちらからどうぞ。
俺の計画はこうだ!
何度も述べているように、俺の目的はフルの安全を確保しつつも、適当な手柄を上げさせて伝説に名を残させることにある。
そのためには戦局をコントロールする必要がある。確実性を高めるためにはどうすれば良いか。単純な話、敵も味方も俺の指示で動いてくれれば良い。
しかしだ、指示を行うにしても、魔王六人は多すぎる。船頭多くして船山に上るということわざの通り、命令系統がいくつもあるのは困る。なのでトップの数は絞っておきたいのだ。
そういうわけで俺の考える組織図はこうなる。
俺(影の支配者) ⇒ 黒ドラゴン ⇒ 大魔王 ⇒ その他魔王 ⇒ 下っ端共
俺は影の支配者なので、当然表に出ることは無い。神託でこっそり黒ドラゴンへ指示を出す。
そこから魔王たちに指示を飛ばすのもいいのだが、神が細々指示出しするのははばかられる。軽んじられる可能性もあるし、反感を覚える者も出るはずだ。そういう中間管理職的なポジションとして新たに大魔王を作り、ワンクッション置く。するとどうでしょう、神の神秘性はそのままに、その言葉は重さを保ち、不平不満があれば大魔王の席でシャットアウト。
完璧だ。完璧な布陣だ。
「そういうわけで、大魔王にはそこのエルフを推したい」
正直馬野郎と迷ったのだが、あいつは俺の存在を知っているし、何かと反抗的なのが玉に瑕である。その点このエルフ美女は黒ドラゴンに心酔しているし、主人の命と能力を俺に縛られている以上逆らうことはあるまい。
ところがである。
「お断りします」
と、すげなく拒否。
「いや、俺の言葉には絶対服従を…………」
「私は大魔王ではなく、獣神様のお言葉を賜る巫女の役目を担います」
「そんな、勝手に…………」
「ここは譲れないところなんです! 私は巫女をやります! 大魔王なんて隅っこで大人しくしてる猿顔でも十分でしょう!」
「お、おう…………」
床をバンバン叩きながらの猛抗議である。勢い負けしてつい頷いてしまった。
こいつ、大魔王より巫女として黒ドラゴンに仕えることでイチャコラしたいって魂胆じゃあなかろうな。
ていうか、巫女でワンクッション置くなら大魔王要らなくないか?
いや、まあ、うん。インパクトって大事だし、初志貫徹でいこう。魔族領域を統一させ、大魔王をトップに据える。それを黒ドラゴン経由で操るっと。
「だがねえ、魔族領域の統一だなんて、そう簡単にできるものか? あんたは然も当然のように統一統一と口にするが、国というものはそう単純じゃあない。同じ魔族という括りでも、なんというか、種属意識みたいなものがあるんだよ。だから国も六つに分かれているんだ」
「そうかな。ワスナ国の様子を見た限りじゃあ、一つの村に色んな種属が混ざって暮らしていたぜ」
「獣神様が仰っているのは下々の者ではなく政治に携わる老害達の話です」
あー、既得権益にしがみつく保守派の老人達か。そういうの、こっちでも居るんだな。
「それこそお前の出番だろうよ。邪神様でも獣神様でもいいけど、鶴の一声で黙らせろよ」
「無理だろ。そういう連中は信仰より政治だよ。いや、信仰も政治の道具だ、かな。それに、俺はまだ乗り気じゃあない。負けた身の上だから大人しく話は聞いているが、納得出来てないからな」
なぬ。男らしくない奴だな、スパッと気持ちを切り替えてこちらの指示に従えば良いものを。
黒ドラゴンは戦争が長引くことを良しとしていない。
曰く、獣人が認識を改められず魔族として見られ続けることに我慢ならないのだという。元々は『魔法を使える部族』という意味が、人類側の都合で『災いをもたらす魔の者』に変えられ、今でも悪しきものと信じられている。最早魔族の中にも意識して悪振る者すらいる程である。
だが認識を変えるには時間が居る。善悪の切り替わりなど一瞬だが、そこに至るまでの積み重ねには長い時を必要とするのだ。
だがしかぁし、大丈夫、全て俺に任せておきたまえよ。
胸を叩いて「大船に乗った気でいるがいい」と宣言する俺を、黒ドラゴンは懐疑的な眼差しで見る。口には出さずとも「本当かなぁ」と目が訴えている。
失礼だね、まったく。
そりゃあね、十年やそこらでは難しいよ。しかし、約束してやろう。百年以内に獣人の名誉を挽回させると。魔族という名の汚名を雪ぐと。
「本当かなぁ」
「この野郎、ついに口に出してまで疑うか!」
「だって、あんた、結構適当だから。さっき殴り合う前は俺達のこと、ただ少し力の強いだけのドラゴンなんて言ってただろ。神様なんかじゃないんだって。それがここに来て神であることを前面に押し出して。
そういうの、矛盾? ダブルスタンダード? うまく言えないが、信頼を失う要素だろ」
「馬鹿だなあ。ははは、こやつめ。そんなの上手いこと利用してやればいいんだよ。言葉も肩書きも道具の一つなんだ。都合良く使って利益を得るべきだ」
「……だから、そういうところが信用出来ないと」
「つまり獣神様はこう仰りたいのです。貴方の言葉には信念がないのだと。その場その場の損得で言葉も態度も行動もぶれる。それでは信用は得られない。他人からどう見られるかも考え、筋の通ったスタンスで示して欲しい、と」
「――!? さ、流石はクアランタ! スキルなんかなくとも以心伝心で伝わっているんだな!」
「うふふ、当然ですわ。私はいつも貴方様の傍らに侍りておりますれば」
なんか、二人して抱き合い始めた。え、どういうこと? なんで過剰なスキンシップ始めた?
信じられない。こいつら、あっという間に部屋の空気をピンク色に染めやがった。目の前に俺という敵がいるというのにだ。ねえ、ちょっと、君達は自分の立場が分かってるのかなー? 君らの生殺与奪、まだ俺が握ってるんですけど。
ねえ、聞いてー。いちゃつくのやめて、俺の言葉を聞いてー。
「クアランタよ、お前のような忠臣が巫女として仕えてくれるなら俺も安心だ」
「もったいないお言葉……けれど、私は恥ずべき女です。この身が巫女としてお仕えするのは、決して忠義のためばかりではなく。ああ、獣神様、私の疚しい心をお許し下さい」
「疚しい? ふふふ、何がお前をそれ程までに苦しめる。鈍い俺に聞かせておくれよ」
「お戯れを。私のような卑しい者の心の内など、すっかり御存知のはずではないですか」
「いやいや、それがどうにも『博識』の調子が悪くてね。お前の心も、うーん、分からんなぁ。是非とも、お前の口から聞かせておくれ。さあ、何が疚しいと言うんだ」
「うふふ、いやですわ獣神様ったら。どうしても口にせねばなりませんか?」
「ああ、どうしても。そのかわいい口から、直接に――――へぶっ!」
嫌なのはこっちだっつーの。ドラゴンパンチで制裁を加え強制的に黙らせたが、怪我の介抱に乗じてまたなんかピンク色の空間が出来上がってるぞ。
リア充共め。は虫類なんで顔がイケメンなのかどうかは分からないが。
あー、腹の立つ。この桃色空気、どうしてくれようか。
――なんか、無性にフルに会いたい。
フル~、もうすぐ帰るからねー。
俺は涙目で望郷の念を募らせるのであった。まる。




