22 覚悟を決める
村はお祭り騒ぎです。
サイクロプス討伐、からお題目を変えて。現在はフルの送別会という体で大盛り上がり。
村の若者が聖女認定されたことでやんややんやと大騒ぎ。かつてない出世頭だとか、あの娘はできる娘だと思ってたとか、伝説の始まりだとか、歴史的大事件だとか。
こいつら、他人事だと思って……。
俺の反対を余所においてフルは両親に報告へと走り、親父さんは案の定反対してくれたがお母様が大喜び。
「それでこそわたしの娘! 行ってきなさい! 勇者様を陰日向から支え、いずれは魔王を倒すのよ!」
いえ、そういう話は出てないんですが……。
「分かったわお母さん!」
分かっちゃった! あー、もう、こっちはこっちで……。
「ダーメだこりゃ……」
「――! お、おい、今コートが喋って……!」
「あなた! 今それどころじゃないでしょう!」
「シャベッテナイヨー」
「ほら、今!」
「喋ってないって言ってるじゃない!」
「え? いや、だから、喋って――」
驚いてくれたのは親父さんだけだよ。あんたのそういう小市民な所、好きだぜ。
◆
「ていうか、邪神って死んだんだろ。今更王都に行って何するの?」
「神の御意志に沿うのさ」
それで答えになってると思うのなら勇者の一族ってのはよっぽどおめでたい頭してるんだろうな。なんせ勇者(笑)の一族だもんな。
「つまり、特に目的はない?」
「強いて言えば彼女を王都へ導くことが目的、かな。あとは運命が僕らを導いてくれるはずだ」
ノープランなんだね。うん、分かってたわ。
今まで神託とやらに頼って行動していたせいで自分の頭で考えて行動するのは苦手なんだろう。うまくいけば「運命」で、いかなければ「試練」と捉える。
何が導くだ、この指示待ち勇者が!
「なんじゃ、まだ不服なのか。お前さんももう腹をくくったらどうじゃ。フルのことは既に止められんよ」
焚きつけておいて良く言うよ。
だが、確かに止められないだろうさ。それに腹は決まっているのだ。このボンクラ勇者や神託なんてものに任せるなんて愚の骨頂。俺は俺でやらせてもらう。
「目が据わっとるのう。何か変なこと考えとりゃせんじゃろうな」
「ふん。周りが頼りにならないから、こっちが頭使ってやってるんだよ。正直神だの運命だの眉唾な話はどうでもいいんだ。俺にとって大切なのはフルの安全だからな」
「君は――随分とフル殿を気がけてるんだね。単純に飼い主だからってわけでもなさそうだが、度が過ぎるとフル殿に迷惑がかかるのでは?」
「あん?」
どーゆー意味ですかしらね? あーた、指示待ちのくせに一丁前にドラゴン批判ですか。なにさ賢しらぶっちゃって。
「いや、批判しているわけではないよ。ただ、心配が束縛になってしまってはフル殿も窮屈なのではないか、と心配になっただけだよ。君の案じるところは十分に分かっているさ」
そりゃどうも。
確かに束縛まで行けばやり過ぎだろうよ。しかし、現状で言えば周りも含めて危機感が足りない。俺が心配に心配を重ねるのも無理からぬ話だろう。
「君、こういう話を知っているかい? ひな鳥は、卵から孵ると最初に見た動くものを親だと思って懐くのだそうだ。もしや、君の状態はそれに当たるんじゃないかと――」
「ああ、『刷り込み』な。そうだよ。自覚はしてる」
「インプリ……なんだって?」
おっと、つい前世の記憶で言ってしまったか。こっちの言葉でなんて言うんだろう。専門用語は分からん。というか、『刷り込み』って専門用語あるのかな?
「お前さんは一般常識に疎いくせに妙な知識には造詣が深い。かと思えば自分のことであるはずのドラゴンについては何も知らんときておる。なんじゃろうなぁ、そのちぐはぐな頭の中身は」
「疑われる前に言っておくが、神様は関係ないぞ」
会ったこともないしな。知識ったって前世のものだし、こちらでどれ程通用するか。ドラゴンについては――自分以外見たことないしな。
ドラゴン――ドラゴンの姿で顕現した女神――その話を聞いた時、もしや俺の生みの親か、と疑いもした。邪神に挑む前に保険として産み落とし、見つからぬよう隠しておいた。
いや、別に、生みの親と聞いて偲ぶ気持ちがあるわけではない。顔も名前も知らなかった相手だ。気になるのはそこじゃなくて――
もし、俺が女神のバックアップなのだとしたら。
邪神にも同じように保険の意味で作りおいた次世代がいるのではないか。
危惧しているのはそこだ。
もしフルが聖女だとしたら、いずれ対峙する相手となることは必至。
当然、危険だ。危険は避けなければいけない。でないと安心できない。
もちろん仮定の話だ。
フルが聖女であることも仮の話。
俺が女神の子であることも仮の話。
邪神に子がいることだって仮の話。
信憑性は正直薄い。俺は無神論者だし、「神様サイコ―。ついていきまっすっす!」てな連中と違って盲信はしない。客観的にそれは「確率低いだろう」と言える。
言えるが、零でないのも事実。
零でなければ、信者は「そうだ」と思い込む。
事実などどうでもいいのだ。辻褄が合えば「運命だ」「神託だ」と言って納得してしまう。
はぁ~。正直、生後一歳未満の俺には荷が重い案件なのだが。
――誰もやらないなら、俺がやるしかないだろう。




