23 王都へ
翌朝には出発の準備が整っていた。
小さい村なので出発の挨拶も既に終わり、あとは王都へ向かうだけ。
のんびりした村だというのになんというスピードだ。善は急げと言うが生き急ぐのは良くないと思うよ。
村の入り口に立つのは俺と、フル、馬を率いたトラスタの三人。対して、半円状にぐるっと囲んで立つ村の人々とタレ目。
トラスタは蒼い粒子を撒き始め、馬に飛び乗る。ああ、やっぱりそのまま乗ると馬が潰れちゃうのね。
馬上からフルに手を伸ばすトラスタであったが、俺が間に入りその手をはたき落とす。
「すっこんでろ。フルは俺が運ぶ!」
行ってから屈んで、フルに背中を向ける。さあ、お乗りなさい!
「んん? ど、どうやって乗ればいいかな?」
「しがみつく感じで! 角とか持っちゃっていいから!」
テッテレー♪ フルはドラゴンライダー・フルに進化した!
どやぁ! とトラスタを見るも、フルフェイスの奥にある顔は見えないので感情が読めない。つまらん。
「なんとか言わんかい」
「ちょっとコート、ガラ悪い!」
「副団長は! その鎧を着ると! 口をきけなくなるのさっ! そういう造りなのでね!」
何それ超不便。え、ここから王都までの旅路、ずっと黙り?
魔王討伐時の勇者パーティーはどうやって旅してたんだ。まさか一人旅じゃあるまいし。RPGとかの主人公が喋らないゲームって、そういうこと? まさかね。
「……頭だけ脱いだら?」
「脱げないのさ!」
不便! 作った奴誰だよ。クーリングオフしてこい!
「えーと、じゃあ、行こうか。フルも、もういいかい?」
「わたしはいつでも大丈夫。それじゃあ、お父さん、お母さん、行ってきます!」
親父さんは未練たらしく引き留め、お母様は快活に送り出してくれた。じいさんとは昨日十分に話したので言うことはない。ていうか村長、こういう時は音頭とって欲しかった。
斯くして俺達は王都へ向かい旅立った。
◆
旅は色んなことを教えてくれる。早速俺は一つのことを知った。
馬、めっちゃ速い。
知識としてはもちろん知っていた。確か時速六十~七十キロ、瞬間的になら八十キロを超えるという。あの一角熊よりも十キロ以上速い速度で走り続けるのだ。
「コート、大丈夫? 無理しちゃダメよ」
「お、おおともさ! オールオッケー、バッチグー!」
とか強がってみたものの、息も絶え絶え。前行く馬は随分手加減してくれているようだが、なんといっても騎手の差がある。
トラスタは騎士である。乗馬スキルは高いはずだ。その上鎧の効力で重さはゼロ。ひょっとすると馬の体重も含めて軽量出来ているのかも。
一方、フルは馬に乗ったことがない。体重移動もままならぬ。不安定に重心が揺れるので体に軸も定まらない。そして体重も――いや、うん、ごにょごにょ。
負け惜しみじゃないよ? 負け惜しみじゃないけどね、生まれが違うって言うか、生物的特徴の差? 走るために産まれた馬畜生と違って、こちとら戦闘種属のドラゴンですから。走るだけが能じゃないですから。そりゃ、専門分野に特化したお馬様に勝とうなんて、分不相応なこと考えてないッスよ。全力で食らいつくのみ。
うおぉぉぉ! 振り絞れ根性! 回れ大腿筋! 歩幅は長く、回転数を多く、上がれスピード! 駆け抜けろ平原を!
俺は今日、風になるんだ!
なれるかぁっ!(セルフツッこみ)
「ねえ、コート! わたし、思ったんだけど!」
「はい! なんでしょう!」
「空、飛んだ方が速くない?」
……そうだね。
◆
旅は色んなことを教えてくれる。俺は風になったドラゴン、コート。
大空から見下ろした世界は広く、今まで山、森、村しか知らなかったちっぽけな世界観が、ぐんぐんと広がっていく。
旅は危険だ。王都へ付いてからは何をさせられるのかも分からない。
しかし、フルにとって旅をすることは決して悪いことではないのかもしれない。あの小さな村で一生を過ごすのとは違う、豊かな思い出を彼女に与えてくれるだろう。
俺は別に、安穏とした大人しい人生でも良かったけどね。
人間はいつ死ぬか分からない。寿命が来るまで過ごす事もあれば、過労であっさり心臓が止まることもある。その時、自分の死を納得できるだろうか。
前世の俺には出来なかった。
今生の俺には出来るだろうか。
フルはどうだろう。何かを成して、何者かに成るのか。
そしていつかこの世を去る時、満足して逝けるのだろうか。
願わくば――いや、まあ、いいか。なるようになるさ。
俺達の旅は始まったばかりだ。
打ち切りエンドではござんせん。
もうちょっとだけ続くんじゃよ。
次から2章。
ちょっとプロット練り直して書き溜めます。
次回更新は早ければ明日、遅ければ来月頭。




