１６ 目立たないように
俺は盾役ではなく容器なのでした。
物扱いされてちょっと悲しい。でも魔法強化は強力なサポートになる。これもフルのためになるならば……なるならば……。
必死に自分を誤魔化していたら、フルが居なくなっていることに気付かなかった。
「グァ？」
辺りを見回すが影も形もない。
「フルには先に帰ってもらった。お前さんのタンク能力をわしなりに調べておく、という名目でな」
「名目――じゃあ、なにか本題があるわけか」
「察しが良くて助かるわい。
先ほどはお前さんが急いで出て行ったので話せなかったんじゃがな、村長が、領主の元へ騎士隊の派遣要請を出しておるのじゃよ」
「おお、騎士隊！」
なんだなんだ。白銀の鎧をまとう騎乗したナイト達がやってくるってわけか。胸が躍るじゃないか。
「魔物討伐の専門家ってわけか。そんなのが来てくれるんなら、村のしょぼい自警団なんかいらないんじゃないか？」
「しょぼいとか言うな……。それに、頼んだからといってすぐに動いてくれるわけでもあるまい。なにせ、まだ確認できたのは一匹だけ。被害も出ておらんでな」
ふむ。まあ、そうだな。日本でも警察関係なんてそんなもんだったしな。そりゃ何かしら起きないと出張ってくれないわな。
「それで、調査して『魔物が出ます。危険です』って証拠が欲しいわけだ」
「まあ、そうなんじゃが、問題があるじゃろう」
問題？ なんですかね？
ああ、なるほど。騎士隊だって人間だものね。
「寝る場所と食事の確保か」
「うむ？ ああ、いや、それはなんとかなるんじゃが。お前さん、よくそういう所に気が回るのう」
あれ、違った。
他に何か問題があるだろうか。実は騎士隊が素行が悪くて有名だとか？ まさか出兵してもらうのに大金がかかるとかじゃないよなあ、冒険者への依頼じゃないんだし。
「お前さん、本当に分からんのか？ 自分自身のことじゃろうに」
「俺のこと？」
「こんな辺鄙な村にドラゴンが住んでたら大事じゃろう。領主の所へ連れて行かれるか、最悪騎士隊に討伐されてしまうぞい」
どええええええ。そんな馬鹿な。俺なんてそんじょそこらの赤ちゃんドラゴンなのに！
「まあ、討伐は言い過ぎじゃの。お前さん、それなりに大人しいからのう。
じゃが、前にも言ったとおりドラゴンは希少じゃ。そして危険でもある。有名になればこんな田舎で静かに暮らすなど出来まいよ」
「――おおぅ。まさかの事態だわ。
つまり、なんだ。そういうことか。言わんとしていることは分かるよ」
「そうか」
「人間に変装しろ――そういうことだね？」
「違うわ！」
違ったか。
「お前さんの見た目でどこをどういじくったら人間に見えるんじゃ。出来て精々置物のふりじゃろうよ」
「えー心外。じゃあ――羊か？ モコモコの毛皮を纏ってメェメェ鳴いてりゃいいのか？ その辺に生えてる雑草食っちゃうか？」
「そんな珍妙な生き物、余計に目立つわ。
そうじゃない。お前さんのことが露見するのはもう仕方のないことじゃ。フルの近くにいてもらわんと大回復も使えんで、騎士隊の滞在中だけどこかに隠れてもらうわけにもいかん」
まあそうだな。俺一人の問題なら火山口に戻って隠れてても良いけど、万が一があった時対応できないしな。何より、フルを一人にしておくのが不安だ。あの子はアグレッシブだから、絶対調査にはついて行くだろうし。
「じゃあ、どうするよ？」
「うむ。せめて『害はない』『役に立つ』というところを見せてやるのじゃ。そうすればわしのように村の守り手ということでお目こぼししてもらえる、かも、しれん。それから『この村に馴染んでいる』というアピールじゃな」
「かも、か」
「そうじゃ。正直、どう転ぶかは何とも言えん。普通に考えて放っておく手はないからの。
じゃから、やりすぎるんじゃないぞ。毒にも薬にもならん程度にやるんじゃ」
加減が難しいなぁ。でも、まあ、大丈夫かな。
「魔法を使うのはフルだし、俺は盾役として突っ立ってるだけのつもりだし、そんなに目立つ要素はないだろ」
「……不安じゃ」
アッケラカンとしている俺と対照的にじいさんは心配でならないようだ。
俺としては何をそこまで警戒しているのかが疑問だがね。自分で言うのもなんだが、ドラゴンってとこ以外は地味目の、ドングリ食ってる無害な輩なのだから。
「お前さん、どうにも自分のことが見えてないのう。まさにその『ドラゴン』なのが問題なんじゃ」
そうかな？ そうかもね。でもそこはどうにもならない。自分、生まれついてのドラゴンですから。
◆
目立たないように。
そう注意されはしたものの、やはり俺に目立つ要素はないように思える。
それから数日、自警団の皆と村の周りを散策してまわったが、俺とフルの出番はほぼ無かった。魔物が出てくることもあったが、ゴブリンぽいのやコボルトっぽいの、狼といった雑魚ばかり。俺がヘイトを集めて攻撃されてる内に男性陣でフルボッコしてたら楽勝だった。一度でっかいカエルが出て来た時は粘液ネトネトで気持ち悪かったが、それくらいのものだ。
一角熊みたいな強敵は現れないし、数も少ない。あん畜生だけが異常に強かったのだ。レアだ。ボスクラスだ。そんなのに初見で当たっちゃう俺マジ糞ラック。
この村は相変わらずで、おおむね平和だったと言えよう。
フルが危険に晒される心配もない。万々歳である。
そして遂に、村へ騎士隊がやってきた。
