第106話 「不敵」
氷羅さん視点。
「あ、王牙さんから速報だ」
ピロン、と弾むようなサウンドエフェクトが耳に届く。
音の出た元は机にあるタワー型パソコンから。私はめったに使わないけれど、陸駆がいろいろ買って組み立てていたみたい。
「うー、大きい」
陸駆は巨漢だから、マウスもキーボードも私の手に馴染まない。
実際、載せるだけでいいのだけれども陸駆はゲームもするからなのかな、マウスがなんだか重い。
「氷羅、どうした?」
「ただいまー」
慣れない手つきでそれらをいじっていると、速報の内容にたどり着く前に陸駆と赫良ちゃんが本部に戻ってきていた。
私は、王牙さんから速報が来たことを伝え、そこへたどり着く項目をクリックする。
「うん、やっぱり氷羅にはマウスが大きすぎるぞ」
「またトラックボールの存在を忘れているだけだろう」
あ。
そういえば、そんなものを持っていたような気がする。
……ええと、ええと。
トラックボールも、大きくない?
「動かさなくてもいいから問題ない」
「あ、うん。……ネクサスが、たった数時間前に【覚醒】したって」
王牙さんから与えられた情報に、すぐ反応したのはやっぱり。
明日、ネクサスと戦うことになっている陸駆だった。
顔は一見動じていないようにも感じられるけれど、それは大きな間違いで。
長年一緒にいたからこそ分かる、彼の微妙な目の開き加減が今回はしっかりと開いている。
「陸駆、手加減の必要はなくなったね」
「もとよりそのつもりはない」
覚醒して1日しかたっていないのなら、あまり警戒する必要もないかもしれないけれど。
陸駆が本気をだすっていうのなら、私は何も言えないね。
「"鍵"は?」
「必要なら、はい」
懐からいくつかの棒鍵を右手に乗せて彼に差し出す。
どれもが特別製で、能力者協会から支給されたもの。
私たち「ある一定のライン」を超えた能力者の、制限を解除するためのもの。
陸駆はその中から、青銅でメッキ加工された鍵を手に取ると投げてそれを弄んだ。
「明日返す」
「うん、でもそれでいいの?」
鍵にはランクがあって、もちろん上のランクであればあるほど解除できる制限は多い。
ちょっと、それは相手を馬鹿にしすぎじゃないかな、って思っちゃう。
「何の問題もない、慢心はしていないからな」
「今、陸駆は順位いくつだっけ」
「生徒会長を蹴落として2位だ」
ついに、私に並んだのかぁ陸駆は。
今回、制限されているとはいえネクサスに負けたら、大暴落だね……。
私は、自身の弟の事を考えながら、少し心配になる。
開花したばかりとはいえ、ネクサスは才能も有れば努力もする。
少しの隙があれば、私だって負けるかもしれない。
制限が多いと、やっぱりベストコンディションで戦えないから。
「変則ルールでやるさ。……いうなれば、矛と盾の戦いだ。誰も死なないから気にするな」
そういって、神鳴 陸駆は不敵な笑みを浮かべたのだった。
私の心配を、はねのけるような笑みを浮かべて。




