第105話 「意思疎通」
「ネクサス君ネクサス君、起きてください」
撫でるような、囁くような声が聞こえ、俺は眠りから覚める。
頭の下にあるのは、二つの柔らかい感触。
「おはようございます、ネクサス君」
目をうっすらと開けてみるとどうだろうか。
目の前に映るのは、最愛の少女ではないか。
いい目覚めだな、まったく。
「おはよう、澪雫」
出来ればもう少し、この。
柔らかい感触である太股の感触を、感じていたいとも思ったのだが。
許されないな、うん。
戦の前だ、甘えるのは戦のあとにしよう。
「ずっとこのままだったのか?」
「こちらの方が、心地よかったでしょう?」
にこ、と目を細める少女は窓から差し込む朝日も相まって天使に見える。
いや、最初から天使だったのかもしれない。
彼女に出会った当初は、彼女がつんつんしていたのかもしれないけれども。
「澪雫は眠れたのか?」
「大丈夫です、ちゃんと寝ました」
俺が頭を上げると同時に、澪雫は立ち上がろうとしてバランスを崩す。
それを受け止め、彼女は自身の足の状態に気付いた。
「あぅ」
「昨日、大丈夫だったのか?」
「……大丈夫だったのですが、うむむ」
単にそれ、麻痺していただけじゃないのか?
少し心配になったが、彼女が大丈夫って言っている限りは大丈夫なのだろう。
「ん、パン買ってきてるだろうし。澪雫はそこで休んで」
「はぃ……」
半分申し訳なさそうに、半分悲しそうに澪雫はうなずく。
どうも、彼女は……。
いや、今回は何も言わないのがよさそうだ。
「澪雫、心配するな」
「していませんよ? ネクサス君」
「いや、俺じゃなくて自分の事」
彼女のセリフに被せて言葉を発すると、澪雫は「あぅ」と声を漏らした。
どうも、俺が気づいていないと思ったらしい。
少しそばにいたら、彼女の気にしているところなんて、すぐにわかるというのに。
離れたところから見たら、確かにわかりにくいかもしれないけれど。
近づいて彼女と接したら、澪雫ほどわかりやすい少女はいないだろう。
わかりやすいというのは、それだけ彼女が純粋だということを裏付けるものにもなる。
「俺と澪雫の関係は、そういうのじゃないだろ」
「と、いいますと?」
「支えあってこそ、だろう?」
俺の言葉に対し、澪雫ははっとしたように自分の顔を隠す。
恥ずかしいんだろうな、うん。
ほとんど人に思いを告げられたことがないんだろうとは察することができる。
「今まで、剣術一筋だったのでこういうことは初めてなんですよね」
「そうなのか?」
「はい」
いや、たぶんそれは彼女が気づいていないだけなんだろうなとは思う。
彼女の周りをとりまく視線を少し見てみれば、すぐに彼女が非常に気にいられていることくらいわかっているのだ。
これから、別の同盟への引き抜きもありそうだが。
そうなった場合、俺はどんな対応をすればいいんだろう?
「それなら、変にネクサス君が気に病む必要もありませんね」
「何が?」
「私は、ネクサス君のそばから離れませんよ」
……ちょっと、してやられた感じがした。




