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蒼氷のゼニス  作者: 天御夜 釉
第1部:第3章
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第104話 「暖かココア」

「ほい」

「ココアですか。……確かに、リラックスできそうですね」


 澪雫みおにマグカップをわたし、中に注ぎ込む。

 一口飲んで、はふぅと声を漏らす彼女を確認して、俺もソファに座り込んだ。


「なんだか、嵐が過ぎ去ったあとのような気分です」

「俺の嵐は、終わっていないんだけどな……」


 答えると、澪雫は「そうでしたね」と目を細めて俺のほうに手を伸ばした。

 俺の手をとらえると、そのまま引き寄せるように力を込めて彼女のほうへ。


「こうやって、いられるのも今日で最後でしょうか?」

「なぜ?」

「魅烙ちゃんが一緒にいたら、楽にできないでしょう?」


 質問を質問で返し、質問で返される。

 彼女の言いたいことは分かるが、それとこれとは別だろうと、俺は思っている。


「俺と澪雫は付き合っているんだから、何も問題はないだろう」

「ふふ、ネクサス君らしい言動ですね」


 ほほ笑む彼女の口からは、天使の笑い声がこぼれた。

 容姿も、まあ天使よりだろう。

 天使としては、少し好戦的な気がするが。


「最近、少し心配になるのですよ」

「ん?」

「最初、ネクサス君とおつきあいを始めた理由って、師範に近づきたかったからなんですよね」


 ずいぶんと、正直に言ってくれるものだ。

 知っていたけれど。知っていたけれど、やはり本人の口から言われるのはある一定の精神的なダメージを受けてしまう。


 俺の母親が、ある一定の時期までは一番だったもんな。


 今は、違うと思いたいが。


「でも、こうやって数か月いたじゃないですか」

「うん」

「今では、本気ですからね」


 はっとして彼女の顔を見上げると、少女の白雪のような頬は桜色に染まっていた。

 やっぱり、そうやって話をするのは恥ずかしいか。

 

「恥ずかしい?」

「はい。やっぱり、慣れないものです」


 慣れてもらったら困る。

 やっぱり、こういう清楚な少女が俺は好みのようだ。


「綺麗だな」

「はい?」

「澪雫がきれいでよかった」


 姿だけではなく、その心も。

 母親が、澪雫の師範でよかったと感謝すべきなのだろうか。


 いや、環境はきっかけにしか過ぎないからな。

 やっぱり、彼女の資質か。


「ココアを飲んだら、寝ようか」

「そうですね。……明日、起こしましょうか?」


 覚醒疲れで大変でしょうし、と澪雫。

 確かに、気を緩めたらすぐに寝てしまいそうなほど、眠い。


 眠いのだが、……や、今ここで変な気を起こすのはやめておこう。

 そんな体力も残っていないのが、正直な感想だ。


 気にしないように、気にしないようにと数時間してきたが、やはりだめだ。

 眠い。このまま、寝てしまいそうになる。


「……寝る」

「はい、おやすみなさい」


 さすがに上階まではいく体力がない。

 仕方ないから、ちゃっかりと。


 俺は、澪雫のひざまくらを借りることにした。


「……ゆっくり休んでくださいね、ネクサスくん」


 そこから俺が完全に眠るまで、頭をなでてくれたのは……。


 天国だな、本当に。







「ネクサス君、ここで寝ちゃいましたね」


 大好きな人の寝顔を見つめながら、私はさてどうしょうと周りを見回します。

 私の力では、ネクサス君を上に運ぶこともできません。

 そもそも、……このまま私も寝てしまう、というのもいいかもしれませんね。


 思えば、まだ彼と出会って半年もたっていないのに。

 ずっとそばにいたような気がするのは、彼の魅力の一つでしょうか。


 それにしても、この時期にネクサス君が【覚醒】ですか。

 ……それができたということは、彼の能力分野では才能がやっと開花したということです。

 これからもっともっと、強くなっていくのですね。


「……あとは剣、ですが」


 剣術も、すぐに私よりも強くなってしまいますね。

 やっぱり、ネクサス君は私に何も取り柄がなければ、捨ててしまうのでしょうか?


 剣術は、彼は。

 基本ができているので、あとは応用だけなのですけど。

 魅烙さんの銃の腕は、習ってできるものではないのです。


 才能の塊、というのはどうしてもだめですね。

 私にも、何か特定の素質があればよかったのですけれども。


「……うー」


 考えれば考えるほど、自信を喪失させていきそうです。

 神御裂かんみざき姉妹も、私なんかよりも優れているところはありますし。

 料理の腕だって、現時点では零璃れいり君にも勝てません。


 ……自分だけに、できるなにか「チカラ」がないと。





 この世界、生きていけません。

 

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