エピローグ また、ひとり目から
春。
Rain Crownに、新しい曲ができた。
フォーメーション表が配られる。
恋は、いつものように中央。
もう。
誰も驚かなかった。
恋自身も。
少し笑って、紙を受け取った。
隣から。
「恋」
透き通った声。
真姫だった。
「ここ、どう思う?」
指したのは、自分の立ち位置。
以前なら。
恋はすぐに答えていたかもしれない。
「こっちの方がいい」
「じゃあこうしよう」
でも。
今は。
「真姫ちゃんは?」
と聞いた。
真姫が少し考える。
「私は、こっちの方が好きかな」
「じゃあ、それで一回やってみよ」
近くにいたメンバーも入ってくる。
「私は今の方が動きやすいかも」
「じゃあ両方やろ」
「それが早い」
話が広がる。
恋は。
その真ん中にいた。
決める人ではなく。
一緒に決める人として。
それでも。
中央に立つのは、恋だった。
◇
新曲のリリースイベント。
ステージ。
歓声。
光。
恋は中央で歌う。
もう。
客席のすべてを把握しようとはしなかった。
それでも。
目に入るものはある。
後ろの方。
ペンライトを持っていない女の子。
少し緊張した顔。
周りを見ながら。
一生懸命、
ステージを見ている。
初めてかな。
恋は。
それだけ思った。
曲が終わる。
手を振る。
女の子と、
一瞬。
目が合った。
恋が笑う。
女の子も。
少しだけ笑った。
◇
特典会。
恋の列。
いつもの人。
久しぶりの人。
初めての人。
そして。
さっきの女の子。
恋の前に来る。
「初めまして?」
「はい」
「今日初めて?」
「はい」
やっぱり。
恋は笑う。
「来てくれてありがとう」
女の子も、少し緊張しながら笑った。
「ライブ、すごかったです」
「よかった」
「あの」
「うん?」
女の子が。
少し迷う。
「真姫ちゃんが」
恋は。
一瞬だけ固まった。
「……うん?」
「気になりました」
「……そっち?」
思わず出た。
女の子が慌てる。
「あ、恋ちゃんもかわいかったです!」
「今足したでしょ」
「違います!」
恋が笑う。
女の子も笑う。
「でも」
恋は言った。
「真姫ちゃん、いいよ」
「ほんとですか?」
「うん」
「次、行ってみようかな」
「行って」
即答した。
「絶対喜ぶと思う」
女の子は。
少しだけ嬉しそうに頷いた。
「はい」
時間。
女の子が去っていく。
恋は、
その背中を見た。
自分を見て。
Rain Crownを知って。
その中で。
真姫を見つけた。
それが。
ただ、
嬉しかった。
◇
イベントが終わったあと。
片付け。
恋は真姫を見つけた。
「真姫ちゃん」
「何?」
「今日ね」
「うん」
「私のところに来た子が」
「うん」
「真姫ちゃん気になるって」
真姫は。
少しだけ目を丸くした。
「ほんと?」
「ほんと」
「へえ」
「もっと喜んでよ」
「嬉しいよ」
「顔に出てない」
「出してる」
「出てない」
真姫が笑う。
「でも」
恋は続けた。
「私を見て来てくれて」
「Rain Crownを見て」
「その中で真姫ちゃんを見つけてくれた」
少しだけ。
声が弾む。
「一人、増えた」
真姫は。
恋を見た。
それから。
少しだけ笑った。
「恋」
「何?」
「いいセンターになったね」
恋は。
言葉を失った。
「……急に何」
「思ったから」
「やめて」
「何で」
「真姫ちゃんに言われると恥ずかしい」
「じゃあ言わない方がよかった?」
「それは違う」
「難しいね」
恋は、少し笑った。
それから。
「前は?」
と聞く。
「何が?」
「前の私は?」
真姫は少し考える。
「頑張りすぎるセンター」
「褒めてないじゃん」
「褒めてるよ」
「どこが」
真姫は。
少しだけ表情を柔らかくした。
「ずっと頑張ってたの、知ってるから」
恋は。
黙った。
真姫は続ける。
「でも今は」
少し間を置く。
「ちゃんと、一緒にいる感じがする」
「15人と?」
真姫は首を横に振った。
「ううん」
そして。
「16人で」
恋は。
しばらく何も言えなかった。
それから。
小さく。
「ありがと」
真姫は何のお礼か聞かなかった。
ただ。
「うん」
と答えた。
少しして。
「じゃあ帰るね」
「うん」
真姫が手を振る。
「また明日」
恋は。
一瞬だけ、その言葉を聞いた。
昔。
何度も。
同じ場所で聞いた言葉。
でも。
今は。
違う意味に聞こえた。
永遠の約束ではない。
ただ。
今日の続きとして。
明日も会えたらいい。
それだけ。
恋は笑った。
「また明日、真姫ちゃん」
◇
帰り道。
いつもの分かれ道。
右。
恋の駅。
左。
昔。
灯が帰っていた道。
恋は。
もう。
立ち止まらなかった。
右へ曲がる。
歩きながら。
スマートフォンが震えた。
灯。
『新曲見た』
恋は笑う。
『どうでした』
返事。
『センターっぽくなったね』
恋は、
思わず眉を寄せる。
『ずっとセンターなんだけど』
『知ってる』
『じゃあ何』
『なんとなく』
『雑』
少しして。
恋は。
今日のことを送った。
『私のところ来た子が』
『真姫ちゃん気になるって』
返事。
『よかったじゃん』
『うん』
しばらくして。
また。
画面が光る。
『また、ひとり目だね』
恋は。
歩きながら。
その言葉を見る。
最初のひとり。
もう。
説明はいらなかった。
恋は。
少しだけ笑う。
『うん』
送る。
◇
夜の道。
街灯が、
一つ。
その先に。
また一つ。
最初の灯が。
ずっと同じ場所にいるとは限らない。
それでも。
一つ灯れば、
その先を照らせる。
そして。
その先で。
また、
新しい灯が灯る。
恋は。
歩いていく。
明日もまた。
誰かの、最初のひとりになるために。
Rain Crownの、
真ん中へ。
ーー了ーー




