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飲まずにやってられるか! リストラおじ、ダンジョンにて酔剣に目覚める  作者: 道雪ちゃん


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探索者登録と職員の見解

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

2時間後、俺は蒲田駅のすぐ隣に位置する、大田区役所の庁舎へと足を運んでいた。


新生活を始めるための住民票の転入手続きを無事に終わらせた俺は、エレベーターに乗って8階にある『探索課』のフロアへと到着した。


国がダンジョンを管理するようになってから、各自治体に新設された専門の窓口だ。


発券機から番号札を1枚引き抜き、備え付けの長椅子に腰掛けて待つ。


しばらくすると、チーンという電子音と共に、前方のモニターに俺の手元の番号が表示された。


「お待たせいたしました。本日はどのようなご要件でしょうか?」


パーテーションで仕切られた窓口の奥で、20代とおぼしき物腰の柔らかい女性職員が、丁寧な笑みを浮かべて尋ねてくる。


「探索者の新規登録をお願いしたいんですが」


「承知いたしました。それでは、身分を証明できるものをお預かりいたしますね。確認の間、そちらの端末の横にある黒い半円の水晶のような部分に、右手を置いてお待ちください」


言われた通りに新しく取得した住民票を渡し、デスクの脇に設置されている魔導機器へと手をかざす。


ひんやりとした滑らかな感触が手のひらに伝わり、内部で微かな光が明滅した。


「はい、ありがとうございます。読み取りが完了しましたので、お手を離していただいて結構です。ただいま書類を発行いたしますので、少々お待ちください」


そう言われ、近くの椅子に戻って5分ほど緊張しながら待つ。


やがて、先ほどの女性職員から再び名前を呼ばれ、窓口へと戻った。


「お待たせいたしました、桐原さん。登録の前に、何点かデータのご確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。何か問題でもありましたか?」


職員の女性は、手元のモニターとプリントアウトされた書類を交互に見つめながら、少しだけ困惑したような表情を浮かべて話し始めた。


「いえ、問題というわけではないのですが……通常、探索者の方には、ダンジョンで戦う戦闘系と、素材の加工やアイテムの作成などを得意とする生産系の方に分かれます。桐原さんのステータスを確認させていただいたところ、戦闘系かと思われるのですが……」


「はあ、戦闘系ですが……何か?」


「実は、こちらの手元のシステムでは、探索者の方のステータスやジョブ、そして簡易的なスキル名までが確認される仕組みになっております。ただ、桐原さんのジョブである『酔剣士』、そしてスキルの『酔剣』という名称が、探索庁のデータベースに一切存在しない未知の物になっておりまして……。もしよろしければ、どのような効果なのか詳しくお聞かせ願えないでしょうか?」


なるほど、国の管理システムであっても、読み取れるのは名称だけで、詳細なスキル内容の文脈までは把握できないらしい。


俺としても、これからお世話になる国に対して隠し事をする理由も利点もないため、さっき自宅で確認したスキルの詳細欄の内容を、記憶を掘り起こしながらそのまま正直に伝えた。


「――理性制御の緩和をし、本能領域で戦闘。そして酔いが深いほど性能が上昇する……ですか。なるほど、確認いたしました」


職員の女性は、俺の言葉をそのままキーボードで素早く打ち込んでいく。


一通り入力を終えると、彼女は真剣な眼差しで俺を見た。


「今お伝えいただいた内容から推測するに、桐原さんの所持している『酔剣』は、ユニークスキル。つまり、現時点でこの世界において、桐原さんただ1人のみが所持する固有能力ということになります」


ユニークスキル。


その単語の意味くらいは、探索者ではない一般人の俺であっても、何度も目にしたことがあった。


世界に数少ない、選ばれた者だけが持つ特別な力だ。


「こちらのユニークスキルの詳細情報、国のデータベースに正式に登録させていただいてもよろしいでしょうか?」


「はい、それはもちろん構いません。職員さん、本能領域って何だと思いますか?」


「本能領域、ですか?」


受付職員の女性は少しだけ考え込むように視線を泳がせた。


「学術的に完全解明されているわけではありませんが……探索者界隈では割と有名な言葉ですね」


「有名?」


「はい。簡単に言えば、人間が意識より先に身体を動かす領域のことです」


「……?」


「例えば、熱い物に触れた時、考える前に手を引っ込めますよね?」


「ああ……」


「格闘技やスポーツでもあります。考えて動くより、“勝手に身体が動いた”という感覚です」


彼女はそこまで説明すると、少しだけ真剣な顔になった。


「上位探索者ほど、その領域を使って戦うと言われています。モンスター相手に、いちいち思考していては反応が遅れるので」


「じゃあ……俺のスキルは、それを?」


「強制的に引き出している可能性があります」


「なるほど……。簡潔に言えば半オート戦闘のような物?と考えてもいいんですかね?武道の経験とかは全く無くて」


職員は少し考えてから俺に答える。


「ハッキリとは申し上げられませんが、戦闘に関して、有効的な動きをしてくれるものだと推測します」


「なるほど……ありがとうごさいます」


「いえいえ、こちらこそありがとうございます。……それと、大変差し出がましいお話のようで恐縮なのですが」


職員の女性は、そこで一度言葉を区切り、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。


「その、スキル発動の条件が『お酒に関するもの』になっておりますので……。ダンジョン内での予期せぬトラブルや、周囲への安全面も含めまして、運用にはくれぐれもご注意いただければと存じます」


それは、彼女の言う通りだ。


役所の人間からしてみれば、正体不明のユニークスキルを引っ提げてやってきた新規登録者が、まさかの『泥酔状態で刀を振り回す酔っ払い』なのだ。


危険視されるのも、注意を促されるのも当然の義務と言える。


「ええ、本当におっしゃる通りです。十分に気をつけます。……ただ、俺、普段は完全に下戸なので、プライベートではお酒を一滴も飲まないんですけどね」


俺が自嘲気味にそう付け加えると、窓口の女性職員は「それは……」と言葉を詰まらせ、何とも言えない複雑な苦笑いを漏らした。


お酒が全く飲めない体質の下戸の男が、酔えば酔うほど強くなる戦闘スキルに覚醒してしまうなんて、客観的に見てもこれ以上ないほどにトンチンカンで皮肉な話だった。


「――失礼いたしました。それでは、探索者の初期装備の方などは、すでに何かご準備はされていますか?」


「いえ、本当に昨日覚醒したばかりなので、何一つ揃っていません。これから買いに行こうと思っています」


「でしたら、ここから反対側の東口に出ていただくと『蒲田ダンジョン』がございます。その周辺には、初心者向けからプロ御用達まで、探索者の装備を専門に数多く取り扱う路面店舗が軒を連ねておりますので、まずはそちらでしっかりと準備を整えられてからの探索をお勧めいたします」


「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」


親切に案内をしてくれた職員さんに深く頭を下げ、俺は発行されたばかりのカード型の探索者登録証を財布にしまい込んだ。


まずは、身を守るための防具と、じいちゃんの刀の代わりになるまともな武器だ。


俺は区役所の自動ドアをくぐり、案内された蒲田駅の東口方面へと向かって、歩き出しのだった。


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