80話 王様のフライドチキン
「貴様……!」
勇者がめり込んだ壁から、抜け出し、椅子に座る。
「いってぇ……貴様!」
「いやだって、なんか斬りかかって来たじゃん!」
「それは……」
と、ここで扉が開く。
王様が戻って来たようだ。
両手で持っている白くて大きな皿には、フライドチキンが大量に乗っていた。
そのフライドチキンからは、湯気が出ている。
おそらく揚げたてなのだろう。
「ホッホッホ! 喧嘩でもしたのかな?」
王様は机の上に皿を置くと、フライドチキンの1つを手で掴み、そのままかじりつく。
「ホッホッホ! 美味い! 君達も食べなさい!」
王様はフライドチキンの骨をゴミ箱に捨てる。
その後、自らの服で油を拭き取ると、椅子へと腰を下ろした。
「美味しい!」
お言葉に甘えて、ノナはフライドチキンを口に入れ、それを食した。
非常に美味しく、地球のフライドチキンと似た味だ。
「ホッホッホ! 当然だ! ワシが揚げたのだからな!」
「そうなんですか!? 凄く美味しいです!」
ノナに続き、ミソギも手に取り食べる。
「確かに美味しいです」
「ホッホッホ! そうだろ!」
ミソギも美味しいと感じたらしい。
「ホッホッホ! さて、本題に入るとしよう!」
「はい!」
「ホッホッホ! 君達は術師を探しているようだが……その正体はワシじゃよ!」
「ええ!?」
ノナとミソギは思わず叫んだ。
「王様が術師だったんですか!?」
「ホッホッホ! その通り! この前は済まなかったね! でも、最高のバトルだったよ!」
王様は腕を組んで、「うんうん」と頷いていた。
ミソギは王様を睨みつける。
おそらく本心としては、怒りを感じているのだろうが、それを口に出そうとはしない。
「ホッホッホ! ちなみに数年前に地球にダンジョンが現れただろ? それもワシがやった!」
「そうなの!?」
偉人に対して、思わず叫んでしまった。
それ程までに、衝撃の事実だったのだ。
「ホッホッホ! どうしてそんなことをしたのかを聞きたいだろ?」
「はい!」
「ホッホッホ! うむ! まず、そこの勇者君だが、地球から来たんだ!」
「え!?」
話をまとめると、こうだ。
数年前、勇者の剣を装備することのできる、勇者を探していた。
だが、その勇者の剣は別な世界の人間でなければ、装備できない。
数年前に王様が努力を重ね、地球にダンジョンを生成することができるようになった。
そのダンジョンへ入った者……つまりはダンジョン探索者の内の1人を今いる世界に強制的に召喚し、勇者として選んだ。
ちなみに勇者として選んだ青年だが、本人が嫌がればすぐに元の世界に送り返すつもりだった。
しかし、本人が勇者になることを選んだらしい。
「ホッホッホ! だが、そろそろ地球のダンジョンを消そうと思っていてね!」
「どうしてですか!?」
「ホッホッホ! 今まで、消す方法が分からなかったが、地球へ化身を送り込む実験で、新しいデータが取れたからな! それで消す方法も算出したという訳だ! それに、今のままだとダンジョンからモンスターが外部に出て行くことになるということも、分かった! だから消すんだ!」
「ええ!? で、でも! そしたら私はどうなるんですか?」
「どうなるとは?」
ノナは正直に、この場で王様について自分の秘密を話した。
「ホッホッホ! なるほど、時空の歪みだな! 運悪くワシの魔術に引っ掛かったようだ! 別な世界から偶然にも呼び寄せられた魂……そういうことだな!」
「別な世界? 私が居たのは、15年前なんですけど」
「ホッホッホ! 確かに15年前から来たと言うのは本当だろうが、正確には少し違う! 簡単に言うと、ワシがダンジョンを生やさなかった世界から、ワシがダンジョンを生やした世界に移動したという訳だ! 時間と世界、この2つを飛び越えて君の魂は2024年に来たのだ!」
「ええ!? 何その衝撃な展開は! だって、ミソギだって昔の私を知っていましたよ!」
「ホッホッホ! 疑問には思わなかったのか? 明らかに違う点があったハズだ! 他にも、何か違和感はなかったか?」
「あっ!」
確かに、東京タワーのカラーリングが少し違っていた。
気が付かないだけで、他にも何か違いがあった可能性もある。
「パラレルワールドって奴ですか?」
漫画で得た知識を口にする。
非常によく似ているが、少し違う。
そんなもしもの世界をパラレルワールドと呼ぶらしい。
「ホッホッホ! その通り! 不運だったな! ハッハッハ! しかし、ま、ワシのチキンを食えたんだ、幸運と言えるかもしれないな! ハッハッハ!」
それはそうだ。
チキンを抜きにしても、いいことは沢山あった。
「確かにそうかもしれません! チキンもそうですけど、未来に来て、色んなことを体験できました! なので、私は幸運です!」
「ホッホッホ! 心が広いな! だが、しかし……なぜ元の世界と時間に戻らない? 元の自分が恋しくないのか?」
「え? 戻れるんですか?」
「ホッホッホ! 戻りたいという思いがあれば、戻れる! 君は一度もそうは思わなかったのかな?」
「思ったことはありますよ!」
2024年の世界も楽しいが、元の時代を恋しいと思ったことは何度もある。
「ホッホッホ! と、なると……その時代の君自身がそれを拒否しているということかもしれんな!」
「2024年の私が……?」
「ホッホッホ! 正直、ワシにはどうにも……いや、待てよ? あれがある!」
王様は部屋の引き出しから、紫色のクリスタルを取り出した。




