笑う門には福来る
「みっちー、会長と知り合いだったの!?めっちゃビックリしたんだけど!」
彼女は私の袖を引っ張りながらねぇねぇと尋ねる。
私とセレスが幼馴染なのは隠しておきたかったが、先の会話でバレてしまっているだろう。私は仕方なく情報を開示した。
「ただの幼稚園の幼馴染だよ。」
気づいてはいたが、まさか相手も覚えているとは。
しかもあの人多分、ていうか絶対あとをつけてきたでしょ!
とりあえずこれ以上追及されないために、私は適当に会話を切る。
「そろそろ自分たちの教室にいこ!ということでじゃあね!」
私は教室が違うのをいいことにダッシュで逃げた。
桃子がポカンとした顔をしているのを眺めながら私はその場を去った。
自分のクラスに着いた私は、見知らぬ顔ばかりの光景に緊張と新鮮さを同時に覚えた。
教室の扉をガラガラと開けると、すでにホームルームが始まってる様子。皆様そんなに私を見ないでいただけるかしら。いっそ皆をじゃがいもに見立てていこうか。
そんな意気込みで、教室の中で声を上げる。
「すみません!遅れました!度野御子です!」
私は存在を周知させるため、柄にもなく大きな声で名乗った。
教卓に立っているスーツを着た先生であろう人が喋り出す。
「はい、度野さんですね。初日から遅刻とは感心しませんよ。」
先生が苦い顔をしながら出席簿に記入した。
「すみません!以後気をつけます!」
謝りながら空いていた席に座る。
空いている席は一つだけ。初日から休むやつはいないだろうし、ここが私の席なのだろう。
ふぅ、やっと一息つける……
私は机の横に鞄をかけ、深呼吸をした。
落ち着きを取り戻した私に声をかけたのは私の右に座っていた女の子だった。
「初日から遅刻なんて、可愛い見た目で、だいぶ肝が据わってるんだね。」
彼女は机に体を預けながらこちらに顔を上げる。
「あ、自己紹介がまだだったね。私は藤田あんずだよ。よろしくね〜」
彼女は気怠そうに自己紹介をしてくれた。
私に嫌悪感があるのではなく、いつも通り話しているのだろう。その証拠に彼女の顔は主張こそ強くないが、少し笑っているように見える。
「初対面の人に可愛いって言うのも、同じような印象を与えると思うけど?」
そんな冗談を言いながら自己紹介を始める。
「私は度野御子だよ。隣の席のよしみってことで、仲良くしてくれると嬉しいな。」
私はできる限り疲れを出さないよう、笑顔で挨拶をした。
あんずは私が疲れているのに気を遣ったのか、
「大丈夫?まああれだけ話題になれば仕方ないよね。」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
私は耳を疑いたくなる。
「ちょっと待って?今なんて言った?」
私は聞き返した。
いや、聞き返してしまったのだ。
「いや、会長と仲良さげに話してる一年って御子っちのことでしょー。どの学年も、この話題でもちきりだよ〜。」
…………終わった。
今この疲れ切ってるときに押しかけられたらたまったもんじゃない!
私はこの世の終わりを瞳に映すかのごとく、腑抜けた顔をしていた。
『笑う門には福来たる』
この世界には、こんなことわざがある。
私は福が来るように、気力を振り絞って笑顔で答える。
「えー、人違いじゃない?私が会長と仲良く話してるなんて恐れ多いよ~。」
私の仏のような笑みをも気にせず、あんずは笑顔で言った。
「じゃあ、昼休みに答え合わせだね。」
私はそんなあんずの不敵な笑みに嫌な予感がしたのだ……
昼休みといえば、友達と話しながらお昼ご飯を食べることが多いと思う。
そんなことを言っている私だが、高校に入って初めての昼休みは、クラスの人たちに囲まれていたのだった。
「へー!それじゃあ会長さんとは幼馴染なんだ!」
そんなことを言っているのは、明らかに私とは性質の違う女の子。
桃子と同じ匂いを感じるのは私だけだろうか。
名前は確か……凛音だ。苗字まで思い出す必要はないだろう。
「じゃあもしかして!会長さんに憧れて入学したの!?確かにかっこいいもんねー!」
そんなことを言われる気がしていた。
セレスは幼馴染の私から見ても顔が整っていて、ボーイッシュな見た目にかっこいい佇まいで、学校ではそれなりに人気なようだ。
私の前でもそうだといいのに……
「まぁそんなとこかな。そういえば、みんなご飯は食べなくていいの?」
私は会話のボールをあらぬ方向に飛ばす。
するとどうだろう、周りにいた人たちは時間を思い出したのか、やばい!と自分の席に戻っていった。
これが私の話術、不法投棄の術の効果である!
そんな内心ドヤ顔の私にあんずが話しかける。
「答え合わせ、完了だね〜」
あんずはそう言って、満足そうにパンをかじった。




