アーサーの魔法
「すごかったな!」
魔法理論の授業の後、アーサーが話しかけてきた。
「……何が?」
「さっきの問題だよ! 俺、全然分からなかった!」
「まあ、あれは少し難しい問題だったからな」
「やっぱり勉強できるんだな!」
アーサーは楽しそうに笑う。
「今度俺に教えてくれ!」
「ユリウスの説明だと分かりにくいんだ!」
「お前の理解力が足りてないだけだ」
「アーサー、お前に座学は無理だ」
「またそれかよ!」
アーサーが声を上げる。
「俺がバカなんじゃなくて、問題が難しいんだよ!」
「さっきの問題だって、ユリウスとアルベルトくらいしか分からないだろ!」
「ルリナ、そうなのか?」
俺は隣のルリナに尋ねる。
「私も答えは分かりましたよ」
「えっ、ルリナちゃんも?」
「はい。座学は少し得意なので」
「まじかよぉ……」
アーサーは落胆した。
その時、ヒューゴ先生が教卓を軽く叩く。
「はいはい。雑談はそこまでだ」
「次は実技に移るぞー」
教室の空気が、少しだけ変わった。
「実技?」
アーサーの目が輝く。
「やっと魔法を使えるのか!」
……なるほど。
どうやら、アーサーの本番はここかららしい。
◇◇◇
俺たちは教室を出て、入試でも使用した魔法訓練場へ向かった。
広い敷地の中央には、いくつもの的が並んでおり周囲には魔法を防ぐための結界が張られている。
「ここが実技用の訓練場だ」
ヒューゴ先生が、気だるそうに説明する。
「今日の授業では、基本属性魔法を使用する」
「使用するのは火、水の二属性だ」
「雷は?」
アーサーが手を挙げる。
「今日はやらない」
「えー」
「不満そうだな」
「だって、雷ってかっこいいじゃん!」
「魔法はかっこよさで選ぶものじゃない」
「でも、かっこいい方がいいでしょ?」
「……まあ、否定はしない」
原作でもヒューゴ先生は、元気なアーサーに振り回されていたっけ。
このやり取りを見ると、少し思い出す。
「まずは全員、火属性魔法を使ってみろ。魔力の制御を意識してな」
生徒たちが、それぞれ距離を取る。
俺も適当な場所に立った。
……火属性か。
入学試験でも使った魔法だ。
俺は右手を前に出し、体内の魔力を集め、炎へと変質させる。
「まあこんなものか……」
大きさも、魔力の量も、必要最低限。
これなら目立つことはないだろう。
そう思っていたのだが。
「……アルベルトさん」
隣から、ルリナの声が聞こえた。
「何だ?」
「その魔法、すごく安定していますね」
「そうか?」
「はい。炎の揺れがほとんどありません」
ルリナは、自分の手元に浮かぶ炎と俺の炎を見比べている。
「私も同じくらい安定させたいんですけど、どうしても揺れてしまって……」
「魔力を減らしてみたらどうだ?」
「減らす?」
「ああ。一度、少ない魔力で炎を作るんだ」
「そこから少しずつ魔力を増やしていけば、安定すると思うぞ」
「なるほど……」
ルリナは目を閉じ、小さい炎を作り始める。
そして、徐々に大きくなっていき――。
「……できました」
「うん。さっきより安定してるな」
「ありがとうございます」
ルリナは嬉しそうに笑う。
……流石は原作キャラだ。
やっぱり魔力の制御が上手い。
少し説明しただけで、すぐに自分のものにしている。
「アルベルト、見てくれ!」
アーサーが声を上げた。
俺が振り向くと、アーサーの手のひらには、すでに大きな炎が浮かんでいた。
「でかいな」
「だろ?」
「でも、制御できているのか……?」
「ああ。もちろん」
「あの的にも当てれるぞ」
そう言って、アーサーは勢いよく腕を振る。
炎が一直線に飛び、訓練場の的へ向かっていく。
次の瞬間、的の前で炎が弾けた。
爆発音とともに、周囲へ熱風が広がる。
「…………」
「…………」
訓練場が静まり返る。
アーサーは、得意げに胸を張った。
「どうだ!」
「…凄いな」
俺は思わず呟く。
あの威力……天才と言われるだけはある。
アーサーはゲーム内で一番魔力量が多かった。
魔力操作に粗はあるものの、将来性は抜群だ。
「アルベルト!」
アーサーがこちらを向く。
「お前もやってみろよ!」
「俺はもうやったけど」
「俺は見てない!」
「頼む、お前の魔法が見たいんだ!」
「ええ……」
周りを見てみると、他の生徒たちも、こちらへ視線を向けている。
……あんまり目立ちたくないんだけどな。
「なら、水魔法をやってみろ」
ヒューゴ先生が言った。
「…分かりました」
……仕方ない。
俺は、魔法を披露することになった。




