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シンデレラ・ダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)


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ガスパールの店

 キャスとシリーは、「クロスボウ」の中心メンバー数人を従えて、デルタウンに向かった。


 話題に上った森は、うっそうとしていて、道はボコボコで水溜りができている。

 馬車で気楽に行き来できる街道になっていない。


「こりゃあ、なんか訳ありでなければ、来る気にならないな」 


 シリーが頭をかいて苦笑いしている。

 それを横目にキャスは考えていた。


 この道が使えるようになると、国から隣国への主要街道が一本増える。

 それだけでも国にとって大きなプラスになるだろう。


「道が整備されたら、一気に交通量が増えるはずだよ。そうしたら街もガラッと雰囲気が変わるだろうね」


 他のメンバーはひたすら感心している様子だ。


 森の木が少しまばらになり始めると、開けた場所に出た。

 その先には畑が広がっている。


「やっと森を抜けたな。ほっとするよ」


 そう言い合いながら休憩していたら、馬に乗った男たちがこっちに向かって来るのが目に入った。

 その集団にガスパールが混ざっている。


「お出迎えかな?」


 シリーが馬の手綱を引いてスタスタと向かっていく。

 シリーの度胸にキャスは毎度のことながら感心する。全く恐れる様子もなく、ごく自然に歩いている。

 キャスたちは、その後ろから従う。ロックのいない新しい組織、しかもまだゴタついていると聞けば、どうしても怖い。


「パーシバル、久しぶりだな」


「やあ、シリー。相変わらずデカいな。体も態度も。年下だとは思えないよ」


 先頭にいた背の高い男が、シリーに手を伸ばした。シリーは手を握り、二カッと笑った。

 男の年は二十代前半くらいか。

 もしゃっとした茶髪の、人懐こい顔が笑い返す。

 

「ついにボスか。もしかしたらこの先は領主様かもしれないぞ」


「なんだよ、それ」


 パーシバルは冗談だと思ったらしく、笑った。

 その目の前に、シリーはキャスが書いた写しを突き出す。

 シリーが叫んだ。


「王からの親書だ。金を出すってさ」

 

「お、お? おおー!」


 興奮した集団に囲まれ、大騒ぎしながら、一行は街に向かった。

 

 街は……まあ、想像通りだ。

 簡素な外観の建物が並び、男たちがたむろしている。


 女が好むかと言われれば……町全体に、少し色合いが暗い。まずはもっと明るい色を加えないと。

 そしてやっぱり道が悪い。

 女物のブーツなら、履き潰す気でないと歩けない。

 

 キャスは周囲を見ながら進んでいた。

  案内された先は、ガスパールの店のようだ。座るとすぐにビールが出てきた。これは冷えていて旨い。

 一杯目を飲み干したあたりで、キッシュが出てきた。


「食ってみろよ」


 ガスパールがニヤニヤしながら勧める。

「自信アリげだね。先日言っていた、きのこのキッシュだよね」


 横でシリーがキッシュを口に運んでいる。


「こりゃあうまい。食ってみろよ、キャス」


 本当に美味い。


「マッシュルームキッシュなら、デルタウンのガスパールの店だ」


 このまま宣伝に使えそう。


「さっきの森がきのこの宝庫なんだ。材料なら山程ある」


 他の手下たちが、「この店はこれとうまいビールで大繁盛している。女はあんまり来ないけどね」


「この味なら女の集団が突撃してくるよ。確実だ」


 にぎわう中でパーシバルはシリーと誓約書へのサインについて相談している。

 問題は、まだ彼に従わない者たちがどう出るか、だった。


「ロックの下にあった六つの大きなグループが三つまで統合され、そこでロックが俺を選んだ。だから、残り二つのグループが、まだ態度をはっきりさせていない。

 と言うより一つは、完全に敵対している。このままだと、金を貰って街の改造に取り掛かっても、妨害されそうなんだ」


 パーシバルは眉を寄せている。

 組織のトップって大変だなとキャスはつくづく思う。シリーを見ていると簡単そうだけど、自分がやると思うと、まっぴら御免だ。

 ましてやパーシバルは元のグループが急激に拡大した挙句、全体のトップになった。不安定に決まっている。


 いったん宿に入り、旅の汚れを落とし、少し眠った。

 その後、着替えてまた全員でガスパールの店に繰り出す。

 すると、店が変ににぎやかだった。どうやらトラブルの匂いがする。


「おい、まとまれ。ダン、窓から様子を探れ」


 すぐにシリ―が全員を少し離れた場所に集めた。

 身軽なダンがいくつかの窓から中の様子をうかがい、戻ってくる。


「パーシバルたちと、別の集団が向かい合っている。一触即発だよ」


「さて、どうしようか」


 シリーが考えている内に、道を男の集団がやって来た。

 こっちを指さして、何か言っている。


「嫌な感じだな。こうなったら中に入って、パーシバルたちに加勢しよう。行くぞ」


 シリーはガスパールの店に入っていく。

 道をこっちに向かって来た連中は、走りだしていた。


「よお、また来たぜ。パーシバル、ガスパール。うまいキッシュを食わせてくれよ」

 

 シリーが言うと全員がこっちを向く。

 ざわっと声が上がった。


「女だ、しかも特上の別嬪だ」


 パーシバルに向かい合う集団はキャスの事を知らないので、女だと思ったらしい。

 キャスはげんなりした。

 そしていつものナイフを手にした。


 ドアが開き、さっきの男たちが店に入ってくる。

 そして同じようにキャスを見て、驚き、手を伸ばしてきた。

 ガスパールがそいつの胸倉をつかんで投げ飛ばしたのが合図になった。


 いきなり乱闘が始まった。

 キャスは店のカウンターに置いてあるナイフの籠をひったくり、それを一斉に投げた。


 カッカッカッカッカッ


 音が響き、皆が音の鳴った場所を見た。

 ナイフは、最後に悠々と店に入って来た強そうな男を、ドアに縫い付けている。

 男はドアに張り付いたまま、真っ蒼になっていた。


「わざと外してやっているんだぜ」


 キャスの言葉に、シリーたち仲間は満足気に頷く。もちろん他の面々は目を疑っているようだ。

 今のキャスは真新しい白いシャツと、少しだけ刺繍の入った貴族仕様の服装をしている。もちろん簡素版だが。

 そしてその顔は、綺麗に洗った後よく眠ったせいで、ピカピカだ。


「おい、死にたくなければ、大人しくしろ。何を揉めているんだ」


 シリーが縫い付けられた男と、パーシバルに対峙している群れのリーダーとパーシバルに聞いた。

 それにパーシバルが答えた。


「お前たちが持ってきてくれた話を伝えたんだ。信じないとさ」


 そう言ってから、「そっちは、まだ説明を聞いてないよな。悪いが物騒だから、そのまま聞いてくれ」

 そう置いて、パーシバルが王の親書の内容を説明した。


「こいつらが王に交渉してくれたんだ。俺はこの話に乗る。お前はどうだ?」


 ドアに縫い付けられた男は、パーシバル、シリー、それからキャスを見て、「乗った」と一言。

 シリーが「取ってやれ」と言うと、ドアに数人が走り寄った。


「おっかねえな。外れていたら死んでるぞ」


「キャスのナイフは外れないよ。安心しな」

 

 ナイフを引っこ抜きながら、口々に得意そうに言う。


 彼の名はデニスで、中立派グループのトップだそうだ。

 残るは対立グループのトップ、マーロンの同意のみ。

 キャスたちはかたずを飲んで見守った。


「何だよ、それはよ。騙し討ちに会うんじゃないの?そんなことは考えていないってか? 目出たいな」


「王の親書で、自筆のサイン入りだ。それはありえない」

 

 キャスは叫んでいた。

 マーロンはぶらぶらとキャスの方に寄ってくる。


「自信ありげに言うね。あんたが貰って来たのか?」


「そうだよ」


 その答えに全員が面食らったようだった。

 若干十五歳の若造、もしくは美少女が「ください」と頼んで貰えるものではない。

 

「へえー。色仕掛けでも使ったか?」

 

 マーロンは言いながら、素早くキャスの腕を掴んだ。

 その瞬間マーロンのズボンは、切られたベルトと共に床に落ちた。


 あっけにとられたマーロンの頬に、キャスのナイフが這う。


「動くなよ。これはよく切れるんだ」


 そこにシリ―が、「この案に賛成した方がいいんじゃないか? でないと下着も落ちるぜ」と笑いながら言う。

 マーロンは自分の下半身を見降ろしている。情けない表情になって、「おい、離してくれよ」とキャスに頼んだ。


 キャスが手を引っ込めると、いきなりキャスを後ろから羽交い絞めにした。


「これで、ナイフは使えまい……」


 言い終わらないうちに、シリーのゲンコツがマーロンの横っ面を張り飛ばし、キャスを自分の方に引き寄せた。


「とんでもない奴だ。まだ子供のキャスに何しやがる」


 転がったマーロンを引き起こした手下たちは、肩に担いで出て行こうとした。

 その後姿にパーシバルが声を掛けた。


「おい、そいつが考えを変えないなら、お前たちはこっちに来てもいいんだぜ。女がたくさんやってくる綺麗な街を作るんだ。金を稼げて女にもてる生活が待っている。ちょっと考えておけよ」


 そう聞いた途端に、数人がこっちに移動してきた。

 そっちの方がいいに決まっている、とキャスは思う。


 

 

 


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