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56話 お人好しと結婚式

吸血鬼領から帰って一ヶ月。

俺はコウロウ宮殿に完成した式典の間にいた。


目の前には四人の美女がいる。

はい……四人です。


マーメイドラインのウェディングドレスを着たガオトが俺を見つめている。


「これがタケオミの世界で着る衣装か。」


ちなみにドレスの種類は一緒に選んだ。

まぁ……似合うと思うものを選べと言われたのだが。


「あぁ……とても似合っているよ。

 実は選ぶ前から、何となくイメージはしていたんだよね。」


ガオトが目を細める。


「前に選んだチャイナドレスもそうだが、

 タケオミは私に体の線が出る衣装を着せたがるな?」


そう言われてみれば、そうなのかもしれない。


「そうかな……俺としては一番似合うと思った服を選んでいるだけなんだけど……」


ガオトがふっと笑う。


すると、プリンセスラインに身を包んだメティス様が一歩前に出てきた。


「私は似合っていますか?

 随分とガオトの衣装と雰囲気が違いますね。」


俺は手を握って頷く。


「とてもよく似合っているよ。

 それは俺のいた世界で“お姫様”っていう意味なんだ。

 上品で可愛いメティスにぴったりだと思って。」


メティスが衣装が崩れないように距離を詰める。


「ありがとうございます! タケオミ様。

 まさか、ゴーレムの……ミリルの魔王の私にこんな日が来るとは思いも寄りませんでした。

 精一杯、タケオミ様を幸せにしますね!」


俺はメティスを真っすぐに見つめる。


「もう十分、幸せだよ。

 俺の方こそ、メティスを幸せに出来るように頑張るよ。」


次に、Aラインのドレスを着たカリンが呟く。


「何だかなぁ……私だけ場違いと言うか……平凡と言うか……」


俺は慌ててカリンに近寄る。


「いやいや……綺麗だし似合ってるよ。

 何でそんな事を……」


カリンに睨まれる。


「ふふっ……婚約指輪はダイヤモンド、ウェディングドレスはAライン。

 魔王と魔王の母に囲まれる、ただ一人平凡な私の気持ちなんて

 タケオミさんにわかりませんよ……」


俺は首を振る。


「いや……それを言うなら、そもそも俺が一番場違いというか分不相応なんだけどね……?

 前の世界の頃からの付き合いで、一般人の気持ちを理解してくれるカリンの存在に

 とても助けられているよ。


 というか……Aラインはカリンが選んだじゃないか?」


カリンが少しふてくされた顔をする。


「だって……ウェディングドレスを着るならって、昔からの憧れだったんですよ。

 まさか……ふふっ……新郎新婦が五人の式になるとは思っていませんでしたけどね……」


カリンから渇いた笑いが零れる。


「それについては……もう何も言えないんだけどね。

 でも、前にも言ったけど誰に対してもいい加減な気持ちではないから……」


カリンが大きく溜息をつく。


「はぁ……わかっていますよ。

 そもそも納得していなければこの場にいません。

 マリッジブルーという事にしておきます。」


俺がカリンに弁解していると、

スレンダーラインのエルシャが口を挟んだ。


「私は別に良いと言ったのですけどね。」


吸血鬼領から帰ってガオトとメティスに報告したら、

カリンが着いて行っても無理か……

いや、カリンだからというわけではないな……と呆れられた後に、


“現地妻と浮気などと半端な真似をするな。

 惚れさせた男として責任を取れ。”


と一喝されたのだ。


カリンが投げやりにエルシャへ毒づく。


「エルシャさん、良いんですよ。どうせまだ増えますし。

 人間枠は私が取っているので、予定では天使と、妖精とか?」


俺は首を振る。


「いや、もう増えないよ?!」


エルシャ以外の新婦が一斉に細い目で俺を見る。


「良いではないですか。

 それだけ自分が選んだ男が魅力的だと思えば。」


エルシャが理解のある発言で未亡人の貫禄を出す。

いや、ありがたいけど微妙です。


「それにしても、一児の母、未亡人の身では流石に少し恥ずかしいですね。」


俺はエルシャに微笑みかける。


「いや、よく似合っているよ。

 正直……未だにあのアルベドの母と言われても信じられないという気持ちだし、

 アルベドの娘とか妹と言われた方がまだ説得力があるよ……」


エルシャが頬に手を当てて、はにかんだ。


「ふふ、リンドウ様、お上手ですね。

 頂いた指輪も素敵でした。」


俺はエルシャにエメラルドの婚約指輪を送っていた。

新たな始まり──吸血鬼領の「再生と調和」を引き続き担っていく彼女に似合うと思ったからだ。


「アルベドの相手はどうですか?」


俺は眉間に皺を寄せる。


「えぇ……まぁ相当に手加減してもらい、

 駄目出しを受けながら頑張っています。」


週に何度かアルベドと手合わせ──

いや、鍛錬の講師をしてもらっている。


やれ「体重移動が遅い」だとか、

「狙っている場所に視線をやるな」だとか、

「お前……正気か? 今までどうやって生きてこれた」などと、

自尊心を抉られながら頑張っている。


一企業の主任に武芸の心得は不要だったからね……。


しかし、そんな素人を相手にアルベドは意外と気長に見てくれるのだ。

これが“持てる男の包容力”というやつだろうか……。


「まさか、義父上になるとはな?

 確かに母上はいい女だが……

 お前、亜人族にゴーレムに人間に吸血鬼とは、

 俺以上に見境がないのではないか?」


などと、気が向いたらふらっと人間界でナンパして、

好みの女性から血を吸っていた男に言われた。


それをカリンに話したら──


「事実ですよね?」


と返された。


最近、カリンが俺にかける言葉が鋭い……。


四人の新婦と会話をしていると、いよいよ式の時間が訪れ──

俺たちはバージンロードを歩いていく。


参列者にはコウロウから、

ゴブリンのカイ、ワーウルフのライ、ワーベアのデイン、

猫人族のミア、翼人族のユーリ、蜘蛛人族のレイネ、

羊人族のガルガなど。


ミリルからは、

レティアさんやドゾム、ドワーフ族の長老など。


吸血鬼領からは、

エルシャの弟であるストリクスを初めに、

俺が人工血液で目覚めさせた古血級のヴェルダ翁、マハト婆、ダラム公など。


多種多様な種族が祝いに来てくれた。

自分が今までやってきた事で繋ぐ事の出来た縁に、胸が熱くなる。


参列者から祝福の声が飛び交う。


「ガオト様、美しいです!」


「ステュクス様、お幸せに!」


「カリンさん頑張れ!」


「魔性の女! 腹黒のエルシャ!」


「色男!」


「人たらし!」


「浮気者!」


……野次が混じってないか?!


ガオトは当然だという態度。

メティスは感慨深そうに。

カリンは「頑張れって何よ……」と呟き、

エルシャは「誰が言ったか把握しました」と笑っている。


そして、いよいよ誓いの言葉を神父が問いかける。


「タケオミ。

 あなたはガオト、メティス、カリン、エルシャを妻とし、

 健やかなるときも、病めるときも、

 喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、

 貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、

 これを助け、その命のある限り、

 真心を尽くすことを誓いますか?」


俺ははっきりと答える。


「はい、誓います。」


---


神父がガオトへ問いかける。


「当然だ。」


その短い言葉の後、ガオトが参列者の方を振り向く。


「私はこのコウロウを飢餓から救い、育むことに

 今もなお尽力してくれているタケオミに感謝し、

 何より愛している。」


そして俺の方を向く。


「お前が死ぬ時は、私が死ぬ時だ。」


俺はそれに答える。


「ああ。だが死ぬつもりはないし、死なせない。

 ガオトとどこまでも生きる事を誓おう。」


---


次にメティスが誓いの言葉に答え、俺を見つめる。


「私をミリルの食糧枯渇という恐怖と苦悩から救ってくださった

 タケオミ様に終生……いえ、生を終えたとしても変わらぬ愛を誓います。」


俺はその言葉に拙い言葉で返す。


「メティスの力になれたのなら、それは何よりも嬉しい。

 俺の方こそ君に会えてよかった。」


---


次にカリンが静かに話す。


「私はこの世界の住人ではなくて……だから、タケオミさんしか頼れません。

 ですが、あなたにも肩を預けてもらえる私でありたいと思っています。」


俺はカリンの手を握る。


「コウロウの改革に吸血鬼領の捜査……

 カリンには頼らせてもらってばかりだよ。

 いつも、ありがとう。本当に感謝している。」


---


最後にエルシャが参列者へ挨拶する。


「吸血鬼領で政治を任されているエルシャと申します。

 他種族の方々、これからよろしくお願いしますね。」


顔の動きだけで参列者の視線を集める。

結婚式でも政治家らしい話し方なのは流石と言うか何というか。


「リンドウ様には吸血鬼領のとある悩みと、

 そして思いがけぬ感動を賜りました。」


そして俺の方を振り向く。


「私は他の三人と比べると、愛と呼べる感情ではないかもしれません。

 ですが……賜った物以上に貴方に与えたいと思っています。

 この気持ちは間違ってはいないのでしょう。」


俺は少しだけ苦笑いをする。


「与えて、与えられて……

 それはきっと幸せだけじゃないだろうけど。

 神父に誓った通り、これからはエルシャが悩む時は

 俺も一緒に背負うよ。」

 

そして、誓いのキスをした後──

四束のブーケトスが行われた。


多分、一つはレティアさんが取っただろうか。

次はドゾムさんとの式かな。


神様から思わぬ褒美をもらい、

異世界で善行を積み、身に余る妻達と結ばれた。


正直、今まで行った善行などでは

お釣りがくるくらい幸せな日々を送れている。


さあ……今度はどこで善行を積めるだろうか。

願わくばそれは独りよがりじゃなくて、

誰かの幸せな未来に繋がる結果なら言う事はない。


少し離れた場所から笑顔を向けてくれる妻達へ、

俺は小走りで駆け寄った。

【第一部完結のお礼と、今後について】


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


魔界での善行と結婚式をもちまして、

お人好しの物語はここで一旦区切りを迎えたいと思います。


「続きが読みたい」と思っていただけましたら、

ブックマークや【評価(★)】、感想などいただけると嬉しいです。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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