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12話 お人好しとドミノ倒し的改革

俺は真剣な面持ちで問いかけた。


「ガオト様……お聞きしたい事があります。」


ガオト様が喉を鳴らす。


「な、何だ? そのように改まって……。」


「実は……」


「実は……?」


「宮殿とお城では、どちらが望ましいでしょう?」


ガオト様の肩から力が抜けた。


「は?」


「……はい。

 私はすっかり重要な確認を忘れておりました。

 この村を訪れた時、カイとライは門番をしていました。

 それに人間と対立しているということは

 防衛機能が必要ということになりますよね。」


宮殿だと拠点としては少し心許ない。

“魔王城”はよく聞くが、“魔王宮殿”はあまり耳なじみがない。


ガオト様が笑い出した。


「ふ……ふ……ははは……。

 リンドウ、ちょっとこっちに来い。」


「はい、何でございましょう。」


近づいた瞬間、ガオト様が俺の手を握り、呟いた。


「紅狼の爪。」


「痛っ?! 何故?!」


手の甲を軽く引っかかれた。

鉄壁が発動しなかったのは、命に関わらない攻撃だからだろうか?


「ふん……この阿呆。

 それで、城と宮殿だったか?

 今の村に比べればどう変わってもありがたいが……

 そうだな、外部の侵攻を妨げる造りが良いだろうな。」


俺は手の甲を撫でながら返事する。


「承知しました。

 それでは外壁と堀を作り、城下町となる形で発展させていきましょう。

 ガオト様のご住居は、予定通り宮殿で進めます。」


ガオト様が肩をすくめる。


「そうだな。

 結局のところ、私やリンドウのような者が攻めてきた場合、

 多少の防衛機能など無視できてしまうのが現実だ。」

 


俺は次の質問に移る。


「ありがとうございます。

 それで、食と住の次に着手を検討している“衣”についてなのですが……

 普段皆さまが着ているものはどうしているのでしょう?

 見たところ、服飾工房なども見当たりませんでしたが……。」


ガオト様が目を見開いた。


「あぁ、そういえば記憶がないのだったな。

 亜人族に限らず、魔力ある者は身にまとう物を

 物質化できるのだ。

 魔力を込めれば硬質化して鎧のようにもなる。

 ライがお前に振り下ろした棍棒も、そうやって作ったものだ。」


……ペットスライムといい、本当に便利だ。

この辺は元の世界より優れている。


「ということは、服飾や武具を作る工房は不要でしょうか?」


「いや、そうとも限らん。

 自分の魔力より優れた物は物質化できないという欠点もある。

 実際、魔界の住人でも、編み上げた服や鍛冶で鍛えられた

 武具・防具を所持する者は大勢いる。」


そう言ってガオト様が魔力を込めた。


「私くらいになると、この通りだがな。」


洗練されたスタイリッシュ・アーマーに錫杖を持った姿へと変わる。


「凄く似合いますね。」


「当然だ。ほら、肩当に触ってみろ。」


「……失礼いたします。

 流石ガオト様の魔力で出来ただけあって、凄く硬いですね。」


そう思って握っていると、突然、感触が変わった。


「……むにっ?」


いつの間にか、ガオト様は普段の服装に戻っていた。


「魔王の二の腕の感触はどうだ?」


「えっと……凄く柔らかかったです。

 って、何してるんですか。驚きましたよ……。」


ガオト様が笑みを零す。


「ふん。真面目な顔ばかりしているから、からかいたくなっただけだ。

 それで──次の方針は決まったのか?」


俺は距離を取り、元の位置に戻る。


「はい。需要はあるとわかりましたので、

 服飾工房を立ち上げたいと思います。」

 

ガオト様が顎に指をあて、少し考え込む。


「確か、カイとライは建設に従事させていたのだったな。

 わかった。それでは何人か新たに紹介してやろう。

 とはいえ、今日はもう遅いから明日だな。」


「はい、ありがとうございます。

 成果を楽しみにしてください。」


「うむ。それではこの話はしまいで良いだろう。

 ……いつものを頼む。」


前に焼き鳥とビールを提供してから、

晩酌の酒や肴を出すのが、いつの間にか日課になっていた。


……恐らく、聡明なガオト様のことだ。

俺の“記憶喪失”という嘘にも気付いているだろう。

だが、そのことを追及されることはなかった。


笑顔を向けてくるガオト様と酒を酌み交わしながら、

そろそろ真実を打ち明ける時期なのかもしれない──

そんな考えが、ふと頭をよぎった。

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