12話 お人好しとドミノ倒し的改革
俺は真剣な面持ちで問いかけた。
「ガオト様……お聞きしたい事があります。」
ガオト様が喉を鳴らす。
「な、何だ? そのように改まって……。」
「実は……」
「実は……?」
「宮殿とお城では、どちらが望ましいでしょう?」
ガオト様の肩から力が抜けた。
「は?」
「……はい。
私はすっかり重要な確認を忘れておりました。
、
この村を訪れた時、カイとライは門番をしていました。
それに人間と対立しているということは
防衛機能が必要ということになりますよね。」
宮殿だと拠点としては少し心許ない。
“魔王城”はよく聞くが、“魔王宮殿”はあまり耳なじみがない。
ガオト様が笑い出した。
「ふ……ふ……ははは……。
リンドウ、ちょっとこっちに来い。」
「はい、何でございましょう。」
近づいた瞬間、ガオト様が俺の手を握り、呟いた。
「紅狼の爪。」
「痛っ?! 何故?!」
手の甲を軽く引っかかれた。
鉄壁が発動しなかったのは、命に関わらない攻撃だからだろうか?
「ふん……この阿呆。
それで、城と宮殿だったか?
今の村に比べればどう変わってもありがたいが……
そうだな、外部の侵攻を妨げる造りが良いだろうな。」
俺は手の甲を撫でながら返事する。
「承知しました。
それでは外壁と堀を作り、城下町となる形で発展させていきましょう。
ガオト様のご住居は、予定通り宮殿で進めます。」
ガオト様が肩をすくめる。
「そうだな。
結局のところ、私やリンドウのような者が攻めてきた場合、
多少の防衛機能など無視できてしまうのが現実だ。」
◇
俺は次の質問に移る。
「ありがとうございます。
それで、食と住の次に着手を検討している“衣”についてなのですが……
普段皆さまが着ているものはどうしているのでしょう?
見たところ、服飾工房なども見当たりませんでしたが……。」
ガオト様が目を見開いた。
「あぁ、そういえば記憶がないのだったな。
亜人族に限らず、魔力ある者は身にまとう物を
物質化できるのだ。
魔力を込めれば硬質化して鎧のようにもなる。
ライがお前に振り下ろした棍棒も、そうやって作ったものだ。」
……ペットスライムといい、本当に便利だ。
この辺は元の世界より優れている。
「ということは、服飾や武具を作る工房は不要でしょうか?」
「いや、そうとも限らん。
自分の魔力より優れた物は物質化できないという欠点もある。
実際、魔界の住人でも、編み上げた服や鍛冶で鍛えられた
武具・防具を所持する者は大勢いる。」
そう言ってガオト様が魔力を込めた。
「私くらいになると、この通りだがな。」
洗練されたスタイリッシュ・アーマーに錫杖を持った姿へと変わる。
「凄く似合いますね。」
「当然だ。ほら、肩当に触ってみろ。」
「……失礼いたします。
流石ガオト様の魔力で出来ただけあって、凄く硬いですね。」
そう思って握っていると、突然、感触が変わった。
「……むにっ?」
いつの間にか、ガオト様は普段の服装に戻っていた。
「魔王の二の腕の感触はどうだ?」
「えっと……凄く柔らかかったです。
って、何してるんですか。驚きましたよ……。」
ガオト様が笑みを零す。
「ふん。真面目な顔ばかりしているから、からかいたくなっただけだ。
それで──次の方針は決まったのか?」
俺は距離を取り、元の位置に戻る。
「はい。需要はあるとわかりましたので、
服飾工房を立ち上げたいと思います。」
ガオト様が顎に指をあて、少し考え込む。
「確か、カイとライは建設に従事させていたのだったな。
わかった。それでは何人か新たに紹介してやろう。
とはいえ、今日はもう遅いから明日だな。」
「はい、ありがとうございます。
成果を楽しみにしてください。」
「うむ。それではこの話はしまいで良いだろう。
……いつものを頼む。」
前に焼き鳥とビールを提供してから、
晩酌の酒や肴を出すのが、いつの間にか日課になっていた。
……恐らく、聡明なガオト様のことだ。
俺の“記憶喪失”という嘘にも気付いているだろう。
だが、そのことを追及されることはなかった。
笑顔を向けてくるガオト様と酒を酌み交わしながら、
そろそろ真実を打ち明ける時期なのかもしれない──
そんな考えが、ふと頭をよぎった。




