18話 前代未聞の大事件
「水の都フルートにいる!?」
「でぷね。巫女の姿を見たって連絡がきたでぷ。でも、おかしいでぷ。シャーン海賊団の根城は旧王城のバセットホルン城だった筈でぷ」
「旧王城のバセットホルン城……? って、うお。これ本当に大丈夫か?」
「心配いらないでぷ。それでは出発ぷー」
水の精霊メールはそう言うと、俺達を連れて海に入って行く。
さて、今の状況を説明しよう。
俺達はメールの魔法で水の都に向かう事になった……らしい。
らしいと言うのは、そこに行くと決まったのが今聞いた事だからだ。
実は湖から出た俺達は、直ぐには出発しなかった。
理由は、メールが各地にいる仲間に連絡をして、それぞれに巫女を捜してもらって、見つけ次第直ぐにメールに連絡すると言う方法をとったからだ。
最初はシャーン海賊団の船を探した方がとも話したが、俺が思っていた以上にこの海賊団の規模が大きくてカルクの仲間が各地にいるらしく、海賊船を見つけてもそれが当たりとは限らない様なのだ。
だけど、運が良いと言うべきか、ベルは有名な“封印の巫女”だ。
水の精霊達もベルの姿は知っていて、姿を見れば直ぐに分かるらしく、ベルを見つけ次第メールに連絡となっていた。
その為、それまで俺達は孤島の海岸で待機していて、今さっき連絡が入ったばかりと言うわけだ。
因みに、連絡が入ったと言っても、それは携帯とか魔道具とかを使ったわけでは無い。
精霊達のみが自由に使える“加護通信”と言う自然界の加護を使った方法で、世界各地の何所へでも仲間内で連絡が取れる手段だ。
これの凄い所は、脳で直接会話が出来て、携帯の様にその場でやり取り出来る所だ。
おかげで、ベルの居場所を見つけて直ぐに教えて貰えた。
さて、これからの海での移動方法だが、それは驚きの手段だった。
メールの魔法によって俺達の体に膜が張られて、その効果で水中での呼吸や会話が可能になり、更には水圧に耐えられる状態になった。
そして、海の中で溺れる事の無くなった俺達は、メールが魔法で生み出した泡の波に乗って進みだしたのだ。
メールの「出発ぷー」の合図で海の中に潜ると、俺は海の中で泡の波に座ると言う不思議な感覚を味わい、かなり緊張する事になってしまった。
別に海の中じゃなくてもとも思ったが、メールに「水の魔法は水中でこそ輝くでぷ」と言われて頷くしかなかった。
だが、頷いたものの、やはりこの感覚は若干の恐怖を感じる。
海の中で泡の波の上に乗ると言うのは、普通ではありえないとんでも現象で、立たずに座っていたとしても想像以上に恐ろしいのだ。
緊張と恐怖で顔を引きつらせていると、隣で座るフウがニヤニヤした顔で俺の顔を覗き込んできた。
「ヒロ様~ん。もしかして、怖いんですか~?」
「当たり前だろ。泡だぞ? 泡。こんなん怖いに決まってんだろ」
とくに隠す必要も感じないので素直に答えると、フウが少しだけ驚いた顔をした。
「ありゃりゃ。思いの外素直な感想じゃないですか~。ヒロ様もかわいい所がありますねん」
「可愛いって、あのなあ。俺は男だぞ? 可愛いはないだろ。どんな感覚だよそれ……」
もちろん人によるだろうが、俺個人としては、可愛いと言われるのは嬉しくない。
やっぱり、男としては可愛いより“かっこいい”に憧れるものだ。
だが、フウ的にはそうでもないらしい。
俺が答えると、ちょっとだけ俺にジト目を向けて言い返す。
「何を仰いますか。男の子だって可愛い時はあるんですよ~」
「にゃー? ヒイロかわいいにゃ? 考えた事も無かったにゃ」
「おやや。ナオ様には分からない感覚でしたか~。この気持ちが共有出来ないのは残念です。でも、ランは分かってくれるよねん?」
「ごめんなさい、姉さん。男の子にもかわいい時があるのは分かるけど、ヒロ様がかわいいは私も分からない」
「ひょえ~。それは姉さんショックなんだぜ」
妹のランからも同意を得られなかったフウは、本当にショックを受けた様で、ふざけた口調のわりにはしょんぼりとした顔で肩を落とした。
すると、俺達の話を聞いていたメールが口を開く。
「姉ウサさんの気持ちは、あたちにはよく分かるでぷ」
「おお、流石はメール様。年の功と言うやつですな」
「皆さんとは年季が違うでぷ」
年季が違うと言われても、この中で一番幼く見えるんだが……。
まあ、実際にメールは五千年前から生きてるみたいだし、それは言わなくて良い事だろうな。
それに、そんな事よりも気になる事があった。
「メールに聞きたいんだけどさ。シャーン海賊団もベルと一緒に水の都にいるって事だよな?」
「えーっと…………そうでぷね。海賊の人達もいるみたいでぷ」
「やっぱりそうか。でも、シャーン海賊団は国に追われてる筈だろ? それなのに水の都にいるって事は、海賊が捕まって、ベルはバセットホルンに……魚人達に助け出されたって事なんだよな?」
自分達を追っている国の中心にわざわざ行く馬鹿はいないだろう。
そう考えると、シャーン海賊団に捕まっているベルが水の都にいると言う事は、既にベルや一緒にいるみゆ達も助けてもらえたって事だ。
急ぐ必要なんて無かったって言うわけだ。
何だか安心したなと、俺はホッとする。
だが、それも束の間の事だった。
「そう言う感じでは無いみたいぷね~」
「感じでは無いって、どう言う事だ? もしかして、ナオみたいに島流しにあいそうなのか?」
「にゃー。だったら戻った方が良いにゃ」
「「ですねん。それか……げっへっへっ。ベル様達を乗せた船を襲っちゃいますかい?」」
「あのな。流石にそれは不味いだろ。まあ、迎えに行くのはありかもだけどな」
「みなさん何勘違いしてるでぷ。巫女は女の子と二人だけで、シャーン海賊団に追われているみたいでぷよ」
「――っ追われてる!?」
「女の子が誰かは流石に分からないでぷが、追ってるのは多分シャーン海賊団の船長ではないでぷ。船長の特徴を教えたけど、違うって言ってまぷ」
「助けてもらったんじゃなかったのか!? 女の子ってのは多分みゆだ! 俺の妹なんだよ! 頼むメール、先を急いでくれ!」
何がどうなっているかは分からないが、こうしてはいられない。
少しでも早く二人の許に駆けつけたくて、俺は焦ってメールに頼んだ。
だが、メールは首を横に振るう。
「今最速で向かってるのでこれ以上は無理でぷ。到着は一週間後でぷ」
「い、一週間!? どうにかならないのか!?」
「どうにもならないでぷよ」
「どうにもならないって、それを――」
「ヒイロやめるにゃ!」
「ヒロ様、一週間でもかなり早いです。あの孤島は海賊に襲われた場所から、そんなに離れてない場所にあったんですよ。本来なら二週間かかるのが一週間なので、この速度は凄く速いんですよ」
「そうですよ、ヒロ様。姉さんの言う通りです。少し落ち着いて下さい」
「……落ち着いてられ――――っいや、悪い。そうだよな。メール、無理言ってすまなかった」
追われていると聞いて焦った俺は、居ても立っても居られなくなってしまい、勝手な事を言ってしまった。
ナオもフウもランも心配そうに顔を曇らせていたけど、俺よりずっと冷静で、三人の顔を見たら落ち着く事が出来た。
そして、何も出来ない自分を棚に上げて、今一番頑張ってくれているメールに当たり散らす様な言い方はするべきじゃ無かったと、俺は反省した。
フウとランが言う通りで、メールは十分速いスピードで向かってくれている。
それに、光速で移動出来る船でもない限り、一瞬で水の都に移動するなんて無理な話なのだ。
「気にしなくていいでぷ。それより、変でぷね~」
「変……?」
メールが首を傾げて何か考え事を始める。
その様子を見ていると、暫らくしてメールが俺と目を合わせた。
「シャーン海賊団の根城は旧王城のバセットホルン城ぷー。だから、念の為にバセットホルン城に仲間に行ってもらったでぷが、やっぱり海賊達はバセットホルン城にいるみたいでぷ。そこに多分船長のカルクらしき人物がいるみたいなんでぷ。巫女はカルクに狙われていたって言ってたでぷよね?」
「あ、ああ。ベルがカルクに狙われたのがきっかけで、俺達は奴に追われて、ベルだけでなくみゆやドンナさん達も捕まったんだ。でも、それが何か関係してるのか?」
「簡単な話でぷ。バセットホルン城にある海賊船は、カルクがそこにいるなら光速で移動出来る船でぷ。それがそこにあるのに、何で巫女は水の都にいるのか不思議なんでぷ。それにカルクが巫女を追わずに、バセットホルン城にいるのも変でぷ」
「確かに変かもしれないが、そのバセットホルン城ってのは、水の都にあるんじゃないのか? 名前からして王様とかがいそうな名前だし、水の都にありそうな感じなんだが?」
「ヒロ様、それは違いますよん」
「え?」
水の都にある王城は“フルート城”と言われている。
しかし、バセットホルン城は旧王城なのだから、もちろん国の首都である水の都の何処かにあると思ったが、それはメールでは無くフウに否定された。
「水の都は五千年前の英雄様と邪神の戦いの後に出来たんですよ。ですので、バセットホルン城はそれ以前のお城で、水の都からは遠く離れた場所にあるんです」
「成る程……。それでベルとみゆが水の都にいるのが不思議なのか」
「そうでぷね」
「一度ベルっちとみゆみゆを水の都に連れて行って、そこで逃げられただけだと思うにゃ」
「まあ、そう考えるのが妥当だよな。でも、なんで連れて行ったんだろうな? カルク本人だけじゃなく、あの海賊は全員追われてる身なんだぞ?」
確かにナオの言う通りだとは思うが、国に追われている海賊が、わざわざ自分達を追っている国の中心に行くだろうか?
俺だったらいかない。
そんなの自分から捕まりに行くようなものだ。
理由は分からないが、ベルとみゆを水の都に連れ出さなければならない理由があったとしか考えられない。
だが、そう思っていた俺に、メールがとんでもない事を言いだした。
「既に召し上がられた後かもしれないでぷね」
「――っ!」
メールの無責任な発言に俺は苛立ちを覚えて、それを抑える為に歯を食いしばった。
だけど、メールの言葉は止まらない。
「巫女も災難でぷね~。満足したら捨てられたんでぷよ。まるであの時の前代未聞の大事件のようでぷ」
「おい、それはどう言う意味だ……よ? って、今、あの時のって言ったか?」
「言ったでぷね」
「にゃー? そのカルクって海賊は、人を食べるのにゃ? 共食いとか偏食すぎるにゃ」
「「ナオ様、そう言う意味じゃないですよ。と言うか、今のは精霊様の冗談です。本当にそうなってたら、ベル様を追いかけてるわけないじゃないですか」」
「にゃー? それもそうにゃ」
何やら変な勘違いをしたナオと、フウラン姉妹の説明のおかげで、苛立った心が落ち着いた。
そしてそれと同時に、メールの“あの時の前代未聞の大事件”と言う言葉が気になった。
湖の底では聞き損ねた話で、きっとメレカさんに大きく関わってくる事だと、俺は予想している。
だが、正直言って想像もつかなかった。
だからこそ気になって、今度こそ聞こうと俺は真剣に考えた。
「なあ? その前代未聞の大事件って、いったいなんなんだ?」
真剣な面持ちでメールに尋ねると、メールは俺に視線を向けて目をかち合わせる。
そして、首を傾げて「言って無かったでぷ?」と疑問を呟いた。
俺はそれに頷き「教えてくれ」と頭を下げた。
すると、メールはとくに躊躇う素振りも見せず、口角を上げて「いいでぷよ」と頷いてから言葉を続ける。
「今の女王ルカが海賊に誘拐されて、カルクに強姦された事件でぷ」
「――――っ!?」
あまりにも呆気なく、あまりにもなんとも無いような顔で出されたメールの言葉に、俺は……俺達は驚愕して言葉を失った。
さっきまで首を傾げていたナオですらその言葉の意味を理解し、そして、その言葉の意味に恐怖して俺の側に寄って腕に抱き付いてきた。
フウとランもいつものふざけた調子で話す事なんて出来なかった。
当然だ。
メールが話したのは、まぎれもない前代未聞の大事件で、身の毛もよだつ様な内容だったのだ。
そんなものを聞かされて、平気な顔をしていられるわけがない。
そしてこの時、俺はとんでもなく嫌な予感がした。
俺はその嫌な予感を消し去りたくて、答えを聞く為に口を開く。
だが、極度の緊張で喉が渇き、暑くも無いのに汗が流れ出て、聞きたい言葉を声に出す事が出来ない。
メールはそんな情けない俺の顔を見て、首を傾げてから、簡単にその答えを口にする。
「その時に出来た子供が、今の第一王女のアマンダ=M=シーでぷ」
アマンダ=M=シー……メレカさんは、女王ルカと海賊カルクの間に産まれた子供だった。




