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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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45話 メイドの話は長い

「邪神の魔力が消えた!?」


 回復を終えた直後、メレカさんの発言に大きな声を上げて驚いた俺に、この場にいる皆が注目した。

 皆と言うのは、メレカさんを始め、ナオとウルベとセイ、それからウルベの妹のチーワだ。


「はい。私が目覚めた直後、ヒロ様が魔人ベレトと戦っている最中に、突然邪神の魔力が消えました。それに、それが原因かは分かりませんが、魔人ベレト以外の魔族も王都から出て行ったようです」


「マジか……」


「はい。それにその証拠……と言うわけでは無いかもしれませんが、邪神を倒さずして、ヒロ様が魔人ベレトを倒した直後に害灰がいはいが消えました」


「――あっ、言われてみれば確かに無いな」


 メレカさんに言われて気がついたが、確かに害灰が消えていた。

 と言うか、今まで気にしない様にしていたが、実際にはずっと害灰が漂っていたのだ。

 だけど、今は本当に綺麗さっぱり無くなっている。

 ピュネちゃんの言う通り、魔人ベレトを倒した事で、この国が魔族達から解放されたのだ。


「害灰……? まさか、あの害灰なのか? それが今まであったのか?」


「あれ? ウルベは知ってたのか? 害灰の存在」


「ああ。すっかり焼け崩れてしまったが、王宮で保管していた書物に書いてあったよ」


「……ああ。成る程ね」


 俺は呟いて、王宮に視線を向ける。

 王宮はベレトが爆散した時の炎で燃えて、最早廃墟と化していた。

 まあ、突っ込んだ時に一部破壊した場所が、運悪く書庫だったのも書物が燃えてしまった原因だが。

 おかげで若干……いや、かなりの罪悪感がある。


「はは。気にする事は無いさ。おかげで、奴等がこの国に攻めて来る事は当分ないだろうしね」


「そう……だな」


 魔族達の狙いは長老ダムルの持つ知識だったらしい。

 だから、その知識の一部である書物が燃えた今、魔族にとってこの国の価値の大半が無くなったとも言える。

 しかし、やりきれない。


 ウルベの父親である長老ダムルは死んでしまい、ウルベはチーワ以外の家族を失ってしまった。

 それに、チーワから他の家族が何をされたのかを聞いた。


 話によると、捕らわれた王族だけが、何かを無理矢理飲まされたらしい。

 そして、飲まされた者は化け物に姿を変えたのだとか。

 チーワもそれを無理矢理飲まされそうになったのを、ブルドと言う名前の兄に助けられた。

 しかし、ブルドは殺され、そこで現れた魔従アムドゥスキアスの登場でチーワに何かを飲ませるのが中止になり牢屋に入れられた。

 そしてこの化け物になると言うのも、ベレトがそれっぽい事を言っていた様だ。


 それは、メレカさんとナオに対して言った言葉で、邪神に頼んで魔族にしてもらうという事。

 もしかしたら、その何かを飲ませて、化け物にするつもりだったのかもしれない。


 そして、その化け物だが、残念ながら既にフロアタムにはいない。

 邪神や他の魔族と一緒でいなくなってしまっていた。

 だから、今直ぐ助けてやる事も出来ないのだ。


「そう言えば、ナオの母親とミーナさんとフウラン姉妹は王都に行ってるんだよな?」


「にゃー。無事だった都の皆と一緒に、他に助かった人がいないか見て回って、救助活動をしてるのにゃ」


「王都にも操られた兵や、下級の魔族が徘徊していたからね。そんな中、みんなよく耐えてくれたよ」


「英雄様とここまで来る時に、王都の上空を通りましたが、王都も酷いありさまでした。少しでも多くの人が助かってほしいですね」


「はい。セイ様……。あの、セイ様はお体はもうよろしいのですか?」


「ご心配かけて申し訳ございません、チーワ。操られていた後遺症からか、未だに戦闘出来る程は万全ではありませんが、もう大丈夫です。ご心配には及びません」


「それなら良かったです」


 何だか良い雰囲気の二人、セイとチーワ。

 確かに、婚約者同士ってのは間違いないようだ。

 なんて事を考えていると、メレカさんにジト目を向けられる。


「ヒロ様」


「あ、はい。ごめんなさい」


「……? 何故謝罪を? いえ、それより」


 つい怒られると思って条件反射的な感覚で謝ると、メレカさんのジト目が更に強まる。


「疲れている所に申し訳ありませんが、今直ぐ姫様を迎えに行って頂けませんか?」


「……はい?」


「では、よろしくお願い致します」


「いやいやいや。ちょっと待ってくれ。今直ぐ?」


「嫌なのですか?」


「え? 何で俺今睨まれてるの? 変な事言った? って言うか、嫌なんて言って無いけど?」


「でしたら問題無いでしょう」


「問題はあるくない?」


「どのあたりが問題あるのですか?」


「今直ぐって所でしょうよ」


 俺がそう答えると、メレカさんが大きなため息を吐き出した。

 そして、もの凄いジト目を俺に向ける。


「良いですか? ヒロ様」


「はい?」


「今、こうしてヒロ様がマヌケな顔でのんびりしている間にも、姫様は無事に帰って来るのをお一人で待っておられるのです」


 俺の妹も一緒にいるよ。


 とも言えずに、俺は黙って聞き続ける。

 何故ならメレカさんにはそこ等辺の事情をまだ話していないし、何より今のメレカさんにそれを言ったら、更に話が長くなりそうだからだ!


「姫様の繊細なお心を想えば、今直ぐに迎えに行くのは当たり前なのです。ましてや、ヒロ様は英雄です。本来であれば、英雄ならば、巫女である姫様を自らの意思で迎えに行って然るべきなのです」


「はい……」


「そもそも、英雄と言う立場は――――」


「「只今戻りましたんだぜい!」」


 おお、神よ!


 メレカさんの言葉をさえぎって、グッドなタイミングで現れたフウラン姉妹を俺は崇めたくなる気持ちになり、一応心に留めるだけにしてやめておいた。


「あら? ヒロ様に行ってもらおうと考えていましたが、貴女方から来てくれたのですね」


「へ……?」


「「勿論だぜ、メレカさん。巫女様をお迎えに行くナイトくんを連れて行くなんて大役を頼まれちゃあ、我等フウラン姉妹も超特急で迎えに来るってもんよお」」


「あれ? 俺、セイに連れてってもらうんじゃないの?」


「セイはここに来る時に魔力の殆どを消耗しているので、もう飛べないかと」


「マ?」


 メレカさんの説明を受けてセイに視線を向けると、セイは苦笑しながら申し訳なさそうに頷いた。

 まあ、そりゃそうだよなって感じではあるが、やはり結構無理をさせてしまったようだ。


「「そこで我等が出番ってことでっさあ!」」


 フウラン姉妹が左右対称にポーズを決めて、ドヤ顔になる。

 なんと言うか、まだ傷も言う程に癒えてないのに元気だ。


 フウラン姉妹は俺がメレカさんに回復をしてもらってる間に、チーワに応急手当程度ではあるが、回復をしてもらっていた。

 どうやら、チーワも水の属性の魔法が使える様で、メレカさん程ではないけど回復の魔法が使えるようだ。

 そのおかげで、俺が回復魔法を使ってもらっている間にも、他の皆が回復してもらえたってわけだ。

 因みに俺の傷はマジでヤバかったみたいで、俺が回復している間にナオの母親と自己紹介を済まし、あの時にはいなかったランやミーナさんとも再会の挨拶を交わしている。

 と言うか、ミーナさんが操られていたと言うのもその時に聞いて、かなり驚いた。


「「それじゃあ、早速ひとっ飛びしやしょうぜ、旦那~!」」


「は? って、うお!」


 流石はフウラン姉妹。

 その相変わらずな左右対称のマイペースで、俺を挟んで腕を絡める。

 そして、俺の返事を聞かずに空を舞った。


「ヒイロー! いってらっしゃいにゃー!」


「お、おーうわああああああああっっ!」


 俺に手を振るナオに返事をする事もままならず、俺は超スピードで飛翔しだしたフウラン姉妹によって、来た時よりも滅茶苦茶速い速度でタンバリンへと向かう空の旅に連れ出された。

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