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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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44話 絆の魔法の可能性

 猫の姿をした魔人ベレトが頭に被るシルクハット。

 それが大口開けて牙を剥き、俺に向かって襲いかかって来る。

 俺はベレトに向けて走っていた足を急ブレーキし、魔力を見る目でそれを見た。

 そして、驚かされる。


 こいつ、魔法の類じゃないのか!?


 このシルクハット、どう言う原理で自我を持ってるのか知らないが、魔法では無く生物だった。

 浮いているのは恐らく魔法だが、シルクハット事態を覆う魔力は、生物に流れる魔力と同じ。

 とは言え、ビビってる場合じゃない。


 とにかく殴る!


 考えが完全に脳筋のそれだが、これ以外の方法が思いつかないのだから仕方が無い。

 しかし、これが意外にも効果的だった。


 いただきます。と口を開けたシルクハットに向かって、魔人ベレトの能力スキルによって燃え続ける右手の拳を振るうと、シルクハットは俺の拳にそのままガブリと噛みついた。

 一見すれば、完全に俺の作戦ミスなのだが、俺は振るった拳にも腕にも硬化のイメージをしている。

 それが幸いしてシルクハットの牙がバキッと折れて、シルクハットが「ぎゃあああああ!」と叫びながら、俺の拳から口を離してそのまま地面に落ちていった。

 そして、俺の右手にべっとりとした感触。

 何かと見てみれば、右手がべったりと濡れていて、俺の右手で燃え続けていた炎も消えていた。


「汚いけど助かったな。それに相性が良かったって事か――って、うぉ!」


 炎が消えて喜ぶ俺にベレトの前足が襲い、咄嗟にそれを避けて、俺はベレトとの距離をとる。

 そして、不意打ちを食らわない様にベレトに注目しながら、右手にべっとりついた液体を手を払って落とした。


 ベレトはシルクハットを拾い、再び頭に被る。

 すると、シルクハットは元の姿に戻った。


かわしたか」


「またその炎を食らってたまるかよ」


 とは言え、今のは結構危なかった。

 奇跡的に避けれたけど、下手すると当たっていた。

 それに、炎が消えたとはいえ、右手の痛みが尋常じゃない。

 さっきは相手がシルクハットだから、炎が燃え移らないかと考えて右手を振るったが、正直この尋常じゃない激痛のする右手は使いたくない。

 ホント思う事だが、こんな痛みに耐えられていられるのは、死にかけた経験があるおかげとしか思えない。

 そのくらい痛かった。


「その様子、無理をしている顔である。にゃっはっはっ! 流石にそろそろ限界か?」


「まだまだ余裕に決まってんだろ」


 もちろん嘘だが、こいつを相手に弱音を吐くよりマシだ。

 だが、バレバレなのだろう。

 ベレトがニヤリと笑みを浮かべて、上半身を低くして構える。


「今直ぐ楽にしてやろう」


 そう言った次の瞬間、いつの間に作ったのかベレトが重力の壁を蹴って跳躍し、とんでもない速度で俺の目の前に接近した。

 そして、俺はそのスピードに反応が遅れて、腹を思いっきりひっかかれてしまった。


「――っが」


 傷をつけられた腹から炎が上がり、服を一瞬で炭に変える。

 そして、俺の腹を中心に炎が全身を包み込んでしまった。


 ヤバいヤバいヤバい!


「にゃっはっはっ! 英雄、これで終わりである」


 ベレトが全身を燃やされて焦る俺に、更に追撃で蹴りを入れる。

 蹴りは俺の横腹に命中し、俺は勢いよく吹っ飛んだ。


 ヤベえ……。

 熱いしいてえ……。

 このままだと燃えながら死…………だけど、この腹の痛み、以前何処かで似たようなのを……っあ!


 吹っ飛ばされた先で倒れた俺は、こんな状態になりながらも、斬られ燃える腹の痛みで思い出す。

 それは、ウッドブロック大森林でナオに修行してもらっていた時の事。

 宙を走る炎の爪を腕に受けた時、この時と同じ様な目にあった。

 あの時はナオに水をかけてもらって大事には至らなかったけど、今がまさにアレの強化版を食らったような感覚だった。

 そしてあの時、メレカさんがナオにやらせたあのヤバい一撃。


 今思い返してみると、あの一撃だけは違っていた。

 あの一撃だけは血を噴き出させはしたが、炎は上がらなかったのだ。

 しかもあれは、魔力を集中するイメージを持たずに、ナオの攻撃を防ぐイメージで出した結果。


 そうか!

 あの時の俺は相手の魔力に同調する事なく炎を無効化したんだ!

 だったら!


 熱かろうが痛かろうが集中し、まずは左手で顔を払う。

 すると、俺の顔から炎が消えた。


 ナオ! メレカさん!

 マジでありがとう!


 心の中であの時の修行をしてくれた二人に感謝し、俺は全ての炎を払って取り除いた。

 しかし、ダメージもデカい。

 炎に包まれたせいで肺をやられたのか呼吸も上手に出来ないし、全身が焼けたせいで激痛が走り、足の裏もそれがあるので、地面に足の裏をつけただけで滅茶苦茶痛い。

 腹の周りは特に酷く、傷を受けた所なんて焼けてただれている部分すらある。

 自分で言うのも何だが、結構えぐい事になっている。

 こんな状態で、よく意識を保っていられるなと自分を褒めてやりたいくらいだ。


 そんな状態でも俺は立ち上がろうとして、そしてその時、俺が炎に包まれた事で地面に落ちた物を視界に入れた。


 ――あれは。


「ば、馬鹿な!? 吾輩の炎帝の炎が消された……だと?」


 ベレトが驚きの声を上げ、そして、俺を鋭く睨みつける。


「まさか、ここまでやるとは思わなかった。だが、今度こそ次で最後である」


 ベレトはそう告げると、みるみると姿を変えていき、猫から人へと姿を変えた。

 人の姿になったと言っても全身は毛むくじゃら。

 人の顔に猫の耳、腰から燃え続ける尻尾がある姿。

 しかし、さっきよりも魔力が高上していた。


「これが本来の吾輩の姿である。そして、先程の姿と比べ、魔法に長けた姿。お前に勝ち目など無い事を知るのである」


「へえ。そりゃあ、勘弁してほしいね」


 正直な話、今の俺の状態じゃ、本当にそう思わずにはいられなかった。

 万全の状態であれば、パワーアップした本当の姿なんて、逆にこっちが勝利した様なもんだと思ってしまう所だ。

 何故なら、みゆにつきあってプレイするゲームや、一緒に見るアニメや漫画なんかだと、真の姿を現した敵は基本倒せる。

 おかげで真の姿を現した敵のイメージは勝ちフラグなのだ。

 それこそ勝利宣言してやっても良いくらいだったりする。

 だけど、今の俺は違う。


 こうして立ってみたけど、マジで足の裏が痛い。

 ただでさえ全身が大火傷ってレベルじゃないくらいに激痛が走っていて、息だってし辛いのに、本当の姿だとかふざけんなって話だ。

 しかも、呼吸するとたまに変な音まで鳴りやがるし、このまま死ぬんじゃないかと思えてくる。

 だけど、それでも俺は諦めてはいなかった。


 ベル……俺に力を貸してくれ。


 俺は心でそう呟いて、立ち上がる時に掴み取った地面に落ちた物……ベルの魔力が宿った魔石を、左手で握りしめた。

 そして、激痛を耐えて紛らわす為に叫びながら、ベレトに向かって走り出した。


「ああああああああああっっ!」


「これで止めである。グラビティバースト!」


 俺の目の前に魔法陣が浮かび上がり、それを中心に一瞬で空間の歪みを生み出して爆発した。

 だが、俺は歯を食いしばって、根性で駆け抜けて爆発が怒る前に僅差で魔法陣を通り過ぎた。

 その結果、俺の背中が爆発の直撃を受け、俺はその爆風に呑み込まれる。

 そしてそれはベレトにとっては皮肉に、俺にとっては幸運に状況が左右した。


 ベレトの放った魔法の爆風に乗って、俺の走る速度は加速する。

 勿論背中には尋常を通り越して、意識がぶっ飛ぶ程の痛みを感じていた。

 だけどこれは、絆の魔法でベレトの魔法の魔力に同調し、威力を出来るだけ無効化なんて事をしなかったのも原因だ。

 何故なら、俺はたった一つの事だけに、魔力を集中していたからだ。


「これがああああああ!」


 それは、絆の魔法の可能性。

 俺は“絆”の魔法とは何なのかを、ずっと考えていた。

 魔族と戦い、魔力に同調して、魔法を無効化。

 でも、それって“絆”と言えるのだろうか? と。

 俺にとっての“絆”ってのは、もっとこう、仲間と深めるもんだ。

 そりゃあ、俺が思う“絆”が全てじゃないとは思ってる。

 でも、それでも俺は思い、願い、信じたい。

 “絆”の魔法の可能性……仲間と繋ぐ、その可能性の力を。


 だから、だからこそ俺は魔石に宿るベルの魔力と同調し、その可能性の力を引き出す事に全力を注いだのだ。

 そして……。


「とおどおおっめだああああああああああっっっ!!」


 瞬間――俺の左手の拳を中心にして白く輝く光が周囲を照らし、俺はその拳でベレトの胸元を狙って振るい、殴り飛ばした。

 俺が放った拳は、光の属性を宿した一撃。

 ベルしか許されない純粋な光の属性。

 その光の一撃を、俺はベルの魔力と同調させた“絆の魔法”の力の可能性を、能力スキル“想像の体現化”で引き出したのだ。


「――――ごがっっっっ……っぁ!」


 ベレトは凄まじいスピードで吹っ飛んで、更には吹っ飛びながら胸元を中心に肉体が白く輝きながら零れ落ちる。

 そして、胸元を中心にして全身にヒビを作っていき、黒紫色の光が飛び出していく。

 最後にはここから少し離れた王宮の壁にぶつかって、その衝撃がきっかけになったのか、ぶつかった直後にベレトは肉体を爆発させた。


 ベレトの爆発で王宮の一部がごっそりと吹き飛び、そして、ベレトが爆散した箇所から王宮に紫色の炎が上がる。


「はあ、はあ……。ベルの所に戻ったら、ありがとうって言わないとな」


 息を切らしながら呟いて魔石を見ると、ベルの魔力が全て消え去ってしまっていた。

 どうやら、加減が出来なくて使いきってしまったらしい。


「はは……。ごめんなさいも追加だな、こりゃ」


 何とも情けない話である。

 絆の魔法の可能性を引き出したが、その代償はあまりにも大きかった。

 どう考えてもやり過ぎだ。

 どうりで思っていた以上の威力が出て、ベレトが吹っ飛びながら、肉体を崩壊させていたわけだ。

 いや、そんな事より……。


 頼まれていた物を駄目にするとか、俺、かっこ悪すぎだろ。

 ホントに情けねえ。


 そう思った途端に何だか気が抜けて、それがきっかけで立っていられなくなって、俺は仰向けに倒れ――る事は無かった。


「ヒロ様、お疲れ様です」


 そう言って、メレカさんが俺を背後から支えてくれたのだ。


「メレカさん! 良かった。足の傷、結構深そうに見えたけど、大丈夫なのか? それに、腹の傷も」


「ヒロ様と比べれば大した傷ではありません。それに、ヒロ様が魔人ベレトと戦っていてくれたおかげで、回復も出来ました。それより、直ぐに回復をしますね」


 メレカさんは言いながらも、既に回復の魔法を俺に使ってくれていた。

 おかげで痛みも少しづつ和らいできて、大分楽になってきた。


「助かるよ」


「いえ。こんな事しか出来なくて、申し訳ないです。それと……」


 メレカさんが言葉を詰まらせた。

 そうしたのだろうかと思うと、その直後にメレカさんの目から涙が零れ落ちて、俺の頬を伝った。

 メレカさんの目からは涙はどんどんと溢れ出して、俺は驚かずにはいられなかった。

 いや、最早驚きを通り越して慌て焦ってた。


「め、メレカさん……? あ、あの、その」


 メレカさんが泣いた所なんて、見た事が無いって言いたくなるくらいには本気で無い。

 いつもこれでもかってくらいにしっかりしていて、絵に描いた様な美しい女性。

 弱みを滅多に他人に見せず、いつも毅然きぜんとした振る舞いを見せ、世が世なら憧れる少女もいっぱい出そうな程だ。

 そんな常に完璧みたいなメレカさんが、言葉を詰まらせて涙を流し、流し続けているのだ。

 それを見て、慌てるな焦るなと言う方が無理な話である。

 俺はオロオロして、何て声をかけていいのか分からなくなっていた。


 やはり女性に対しての経験値が足りなさ過ぎる。

 って、そんなふざけた事を言っている場合でも無い。

 しかし、そんな時だ。

 情けなくもメレカさんの涙にオロオロしていると、メレカさんが指で自分の涙を拭ってから、柔らかく俺に微笑んだ。


「ヒロ様が帰って来て下さって、本当に良かったです。もう、本当に駄目だと思ってしまったのですよ?」


「メレカさん……。えっと…………ただいま」


「はい。おかえりなさいませ、ヒロ様」


 そう言ったメレカさんの顔は、今まで見た事が無い程に一番綺麗で、魅力的な笑顔だった。


【魔族紹介】


 ベレト

 種族 : 魔族『魔人』

 部類 : 猫

 魔法 : 闇属性上位『重力』

 サブ : 土属性

 能力 : 炎帝


 王都フロアタムを邪神に任されていた猫の姿をしている魔人。

 猫の姿は魔従化をしているだけで、本当は人型。

 頭に被っているシルクハットは分身だが、ベレトの意思で動かしているわけでは無く、自我を持って動いている。

 ヒロとの戦いでは、ヒロの魔法と能力スキルを理解していなかったが為に、負けてしまった部分が大きい。

 同族である魔族にはそこそこ優しく付き合いも良く、日向ぼっこが趣味。

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