39話 ニャーはママも皆も助けるにゃ!
「蒼炎魔法……? ほ、本気ですか?」
「ニャーはいつでも本気にゃ」
沢山の操られた兵士に囲まれたニャーは、クンエイ爺ちゃんが言っていた事を信じて、全員まとめて火属性の上位【蒼炎魔法】で浄化しようと考えたのにゃ。
ランランはニャーに驚いていたけど、ニャーは本気だにゃ。
でも、そう簡単にいかない事はニャーだって理解してるにゃ。
とにかく今は、向かって来る兵士をどうにかしないといけないのにゃ。
ニャーとランランが話している間にも、兵士はニャー達を襲ってきているにゃ。
背中を斬られて動きが鈍いランランを庇いながら、ニャーは兵士達を次々と斬り捨てていくにゃ。
だけど、魔法はまだ使わないにゃ。
右手の爪だけで捌いて、魔力は左手の魔爪に全部籠めるにゃ。
「ナオ様! 私の事は気にせず踏みつけてこの場を脱出して下さい!」
「ランラン、ここはニャーを信じるにゃ! フウフウだってチワチワを護りながら頑張ってるにゃ。諦めたら駄目にゃ!」
「…………分かりましたよう。信じま――っすうう!」
ランランがニャーに返事をしている時に、ミナミナが近づいてランランに槍で攻撃してきたにゃ。
ちょっと不意打ちだったけど、ランランはなんとかそれを剣で防いだにゃ。
でも、背中の傷が痛むみたいで、歯を食いしばって顔を歪めたにゃ。
ランランも頑張ってるから、ニャーも兵士を相手にしながら頑張るにゃ。
「舞い踊るにゃ! フレイムダンス!」
周囲に火の玉を踊らせて、群がる兵士達を一網打尽にゃ。
と思ったけど、そうはいかなかったにゃ。
ニャーが火の玉を辺り一面に撒いたら、ママが風を纏わせた爪で、火の玉を次々に斬り裂いていったにゃ。
そのせいで火の玉は斬り裂かれた瞬間に爆発して、あっという間に全部無くなってしまったにゃ。
「にゃー。流石ママにゃ。でも、負けないにゃ!」
やっぱり先にママの動きを止めないと駄目だと思って、ニャーは近づいて来た兵士を爪で斬り捨てて、ママに向かって跳躍したにゃ。
そして、魔力を足に集中して、炎を足に纏ったにゃ。
「ローテーションキックバーニング!」
炎を纏った足での回転蹴りにゃ。
ママは両腕をばってんにして、それを防ごうとしたけど甘いにゃ。
ニャーの回転蹴りはママの腕を弾いて、そのまま胸に回転蹴りが当たって、ママは背後にいた兵士を巻き込んで吹っ飛んだにゃ。
「今度こそ、フレイムダンスにゃ!」
ママを蹴って直ぐに魔法を使って、無数の火の玉をバラ撒いて、更に魔爪に魔力を集中するにゃ。
そして、火の玉が宙を舞って兵士を攻撃している間に、変な馬のいる位置を確認したにゃ。
蒼炎魔法……火属性の上位で体内に秘めた属性が“光”だった時の魔法。
人は誰もが“光”と“闇”を抱えていて、その根本の色濃い方が、上位魔法に現れるとも聞いた事があるにゃ。
ニャーが本当にクンエイ爺ちゃんが言う通りに才能があるなら、それに、ベルっちの光の魔法を何度か見た今のニャーなら、きっと掴める筈にゃ。
深く息を吸って吐き出して、魔力を集中と同時に、魔力を感じて意識を潜らせたにゃ。
魔爪を纏っていた炎は大きくなって、それを見た馬が顔色を変えて走り出して、ニャーと馬の間にいた兵士を踏みつぶしながら向かって来たにゃ。
でも、ニャーは慌てずに続けたにゃ。
そして、そんなニャーに群がる兵士を、ランランがミナミナの相手をしながらも魔法で蹴散らしてくれてるにゃ。
そう言えば、ヒイロはよくイメージがどうって言ってたにゃ。
ニャーも蒼炎魔法を使う自分をイメージしてみるにゃ。
集中して、潜って、イメージをふくらます。
馬はニャーの側まで近づいて、ニャーを囲む様に魔法陣をいっぱい出したにゃ。
ランランも流石にそれはどうにも出来なくて、ミナミナと兵士を止めるのがやっとだったにゃ。
もしクンエイ爺ちゃんが言う通り、ニャーの魔法がベルっちみたいに闇を払う聖なる力を宿せるなら、ニャーはそれでママも皆も助けてあげたいにゃ。
そう思った次の瞬間に、魔爪が……ニャーが蒼い炎に包まれていたにゃ。
「勿体無いけど猫ちゃんはここでさよならだ! アシッドウォーターとホーンポイズンだ!」
ニャーを囲む魔法陣から酸性の水が飛び出して、周囲にいた兵士達を巻き込んで溶かしていったにゃ。
そして、馬の額から生えていた角が紫色に変わって、その角をニャーに向けて馬が突っ込んで来たにゃ。
今なら、あの魔法を簡単に使えそうにゃ。
降り注ぐ酸性の雨はニャーを包む蒼い炎が蒸発させて、ニャーは左手を前に出したにゃ。
「イクスプロウシヴフレイム!」
次の瞬間、蒼い炎の粉塵が馬を中心に引き寄せられて、一気に爆発したにゃ。
馬はニャーの直ぐ直前まで迫ってきていたけど、その爆発で吹き飛んだにゃ。
それに、その爆発が出した結果はそれだけじゃないにゃ。
爆発の炎は蒼の炎で、その威力はニャーが迷いの森で伝道師のブールノ様に使った爆発より大きなものだったにゃ。
周囲にいた兵士だけじゃなくて、近くにいたランランとミナミナさえも呑み込んだにゃ。
爆風は宮殿の壁を破壊して、蒼い炎で包み込んで、辺り一面が蒼い炎で包まれたのにゃ。
「あ、あれ? 私、生きてる……?」
「ランラン、大丈夫にゃ?」
「あ、はい。それよりナオ様、この蒼い炎って……」
「闇属性特化の蒼い炎。浄化の力を持った光属性を含んだ蒼炎魔法にゃ」
「これが……っあ! 見て下さい、ナオ様! 全員動かなくなってます! ミーナさんも!」
ランランの言う通り、さっきまでニャー達を襲っていた兵士とミナミナが皆その場に倒れていたにゃ。
それに、少し遠くでチワチワを護っていたフウフウの周りにいた兵士も、皆倒れて動かなくなっていたにゃ。
フウフウは少し傷を負っていたみたいだけど、フウフウもチワチワも無事だったにゃ。
「よくもやってくれたな、メスガキ!」
「――っぁ!」
不意に声が聞こえて振り向いた瞬間に、ニャーはお腹を馬の前足の蹄で蹴られていたにゃ。
ニャーは突然の不意打ちに反応出来ずに、地面を数十メートル転がされてしまったにゃ。
「――ナオ様!」
「オラは純粋な体の少女には温厚で有名なユニコーンの血筋を持つ魔族なんだ。だから今まで優しくしてやったのに調子に乗りやがって! よくもオラの奴隷共を全部駄目にしてくれたな!」
「この!」
「お前は後だ!」
ランランが馬に斬りかかったけど、蹄で受け流されて、ランランも蹴り飛ばされてしまったにゃ。
でも、運良くランランはフウフウがいる所に蹴り飛ばされたから、ランランが転がる前にフウフウがを受け止めて、少しはダメージが防げたにゃ。
「たっぷりおしおきして分からせてあげるよ、メスガキ! 体で覚えるまでたっぷりとねえ!」
馬がニャーを睨んで駆け出したにゃ。
ニャーは直ぐに立ち上がろうとして、さっき蹴り飛ばされた時に受け身をとれなくて、左手の骨が折れて動かなくなっている事に気づいたにゃ。
結構ヤバい事になったと思ったにゃ。
唯一魔爪を装備してる左手の感覚が無くて、魔力を魔爪に集中出来ないし、出来たとしても腕が上がらないから意味が無いにゃ。
右手も右肩をドロドロの魔法にやられたせいで、動かせるけど痛みで本気が出せなくなってるにゃ。
それに、多分お腹を蹴られたせいで内臓も損傷してるにゃ。
ニャーは口から血を吐き出して、そのせいで足にも力が入り辛くなっている事に気づいたにゃ。
でも、まだ戦えるにゃ。
向かって来る馬を返り討ちにする為に、魔力を集中。
次の一撃で止めを刺す為に、ありったけの魔力を集中するのにゃ。
「ディスターバンスカット!」
ニャーに向かって来る馬に向かって、フウフウが攻撃をしたにゃ。
沢山の風の刃が馬を襲って、馬の走る速度を緩めたにゃ。
「邪魔だ! ブラックポイズン!」
「――っぐ……っぅ!」
ドロドロの毒がフウフウの顔に向かって飛び出して、フウフウがその毒を避けきれず左足に受けてしまったにゃ。
更にフウフウの剣にも毒が当たって、剣が溶けてしまったにゃ。
フウフウは剣を溶かす程の毒を左足に浴びてしまったせいで、その場で倒れて動けなくなったにゃ。
ニャーと違ってフウフウの場合は魔法が風の属性だから、炎で毒を燃やす事が出来なくて受ける傷も大きくなったのにゃ。
「ホーンポイズン!」
馬がニャーに向かって毒を纏わせた角を向けて突っ込んで来たにゃ。
でも、ニャーはそれを避けようとはしなかったにゃ。
それは、足に力があまり入らないと言う理由もあったけど、もう一つの理由があったにゃ。
「おしおきだあ!」
「それは親である私の勤めよ!」
次の瞬間に、ママがニャーの後ろから前に飛び出して、馬の角を風で纏った爪で真っ二つにしたにゃ。
流石ママにゃ。
ママの爪も馬の角の毒で溶けてしまったけど、しっかり真っ二つに斬り裂いたのにゃ。
そして、これがニャーが避けようとしなかったもう一つの理由にゃ。
ママが蒼い炎で元に戻って、直ぐにニャーの許に駆け付けてくれてたのにゃ。
だから、ニャーはママを信じて、一撃で馬を倒す為に魔力を集中する事だけを考えたのにゃ。
ママが馬の角を真っ二つにすると、ニャーもマントにしていた布を脱ぎ捨てて、そのまま体を回転させたにゃ。
「ニャーの尻尾を食らうにゃ! テイルフレイム!」
体を回転させた勢いで尻尾を馬の顔にぶつけて、馬が勢いよく吹っ飛んだにゃ。
尻尾を顔にぶつけたと言っても、ただの尻尾じゃないにゃ。
ニャーの体は、マントみたいに首から巻いていた布で、殆ど見えない状態だったにゃ。
だから、外からは見えない尻尾に魔力を溜めていたのにゃ。
そして、ニャーが使った魔法は、ニャーの尻尾を軸にして作った大きな蒼い炎の尻尾にゃ。
ニャーの尻尾の動きに合わせて動く蒼い炎で、それを体を回転させた勢いで食らわせてやったのにゃ。
「ぐっほおおおおおおおおおおっっっ!」
馬は変な叫び声を上げて吹っ飛んでいって、最後には転がって血を吐いたにゃ。
「さ、最後がかわいこちゃんの尻尾ビンタなら……ほ…………ん望……ぐふっ」
そう言うと、馬は骨だけを残して溶けていったにゃ。
「「最後まで気持ち悪いゴミクズだったぜ。でも……」」
「ママー!」
「こらっ。ナオは十一歳の成人した立派な大人なんだから、ちゃんと服を着なさい!」
「っにゃふ! にゃー!? せっかく会えたのに、本当におしおきされたにゃ!? なんで怒られるにゃー!?」
理不尽にゃ。
ママが生きてて、元に戻ってくれて嬉しかったから、抱き付こうとしたらげんこつを食らったにゃ!
「「とりあえず、ナオ様のお母様……ルシャ様も無事で良かったですなあ」」
「フウ、ラン! ミーナが目を覚ましたわ!」
「「あっちもお目覚めですか~」」
ミナミナも目を覚ましたみたいにゃ。
フウフウとランランが飛んでチワチワとミナミナの所に向かって行ったにゃ。
それを見て、ニャーもママと一緒に二人の所に向かったにゃ。
「ナオ」
「にゃ?」
二人の許に向かっている最中にママに呼ばれて顔を上げると、ママがニャーに優しく微笑んだにゃ。
「あなたのおかげで助かったのは私だけじゃない。死んでからも魔族に操られ苦しめられていた兵達の呪縛も、あなたのおかげで消えたわ。本当にありがとう。立派になったわね、ナオ。あなたはお母さんの誇りよ」
「にゃあ♪」
【魔族紹介】
アムドゥスキアス
種族 : 魔族『魔従』
部類 : ユニコーン
魔法 : 闇属性上位『毒』
サブ : 水属性
能力 : 乙女探知
乙女と言うか、処女をこよなく愛する変態な魔従。
とくに幼女など幼い子供を好むロリコン。
魔人ベレトの愛馬でもあり、普段は一緒に行動している。
同じ魔従であるストラスと仲が良く、可愛い女の子を見かけたら誘拐して連れて来てくれと頼んでいた。
牢屋の番をしていたのも、王女のチーワが可愛いからで、命令されたからでは無かったりする。
身に着けていたトランペットは、本当は魔人ベレトの私物で勝手に使っていた。