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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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15話 特殊能力

 ここは、ウッドブロック大森林の迷いの森。

 一度入ったら二度と出られないと恐れられ、人々が近づく事さえしない森。

 そんな森の最深部にあるオンボロ小屋の周辺で、俺はナオと絶賛修行中だった。


「いっくにゃー! クロウズファイア“ランニング”!」


 ナオの装備している魔爪まそう触媒しょくばいとなり、勢いよく魔法が放たれる。

 それは、無数で駆ける炎の爪。

 地面や宙を引っ掻く様に突き進み、俺の許へとやって来る。


「マンティコアを倒した奴か!?」


 魔力を集中して、炎の爪を目で追って見極める。

 しかし、そのスピードや変則的な動き、そして数に翻弄ほんろうされ、左腕に一撃を食らってしまった。


「っつぅ……。いってぇ……」


 見れば、左腕がスパッと軽くだが斬れてしまっている。

 そしてそれだけでなく、傷口から炎が上がった。


「って、あっつぅ! 水っ水っ!」 


 燃える左腕に慌てていると、ナオがバケツで勢いよく俺に水をかけた。

 おかげで炎は治まったが、全身がびしょびしょになる。

 とは言え、とりあえず無事。

 それにこれは修行を始める前に話し合って俺が決めた事。

 水をかけてくれたナオに「ありがとな」と礼を言って、再開する。


 そんなわけで、今日はこの繰り返しだ。

 と言うのも、勿論もちろんこれには理由がある。


 魔人グラシャラボラスとの戦いを終えた俺達は傷を癒して、気が付けば一日が終わってた。

 そうして迎えた今日の朝。

 ピュネちゃんがベルに話しかけた事から始まった。


「ベルちゃん、森の外に出る方法を教えてあげますね~」


 どうやら、宝鐘ほうしょうの音を聞いてしまった俺達が森から出る為には、ベルの光の魔力が必要らしい。

 本当であれば昨日の内にそれを教える予定だったらしいが、グラシャラボラスとの戦いが起きた結果出来なくなった。

 それで、魔力が回復した今日になって、ピュネちゃんがベルに言ったわけだ。


 そう言うわけで、今はベルが森から出る方法を教えて貰っている。

 その間は俺とナオはとくにする事も無く、せっかくなので修行をしてもらう事にしたのだ。




 修行を始めて暫らく経つと、ピュネちゃんとベルについて行ったメレカさんがやって来た。

 そして、修行の様子を見て、俺に何かを言いたげな顔になる。

 俺は一旦休憩とナオに話して、メレカさんに駆け寄った。


「どうしたんだ?」


「……いえ。ヒロ様とグラシャラボラスの戦い、そして今の修行の風景を見ていて存じましたが、魔法にしては何か違和感があるなと……」


「違和感?」


「姉様()思ったにゃ?」


「“も”って事は、ナオも違和感を感じてたって事か?」


「だにゃー」


 メレカさんとナオが感じた俺の魔法の違和感。

 ピュネちゃんの話では【絆の魔法】と言うのが俺の魔法の正体らしい。

 それと何か関係のあるのかもしれないが、今の俺には分からなかった。


「ヒロ様、一つ試させて頂いてもよろしいですか?」


「構わないけど、何を試すんだ?」


 質問を返すと、メレカさんがナオの耳元でこそこそと内緒話を始めて、ナオが目を点にして首を傾げた。


「本当に大丈夫かにゃー?」


「ええ。構わないわ」


「何だ何だ?」


 顔をしかめて視線を向けると、メレカさんがいつものビシッとした美顔で淡々と説明を始める。


「これからヒロ様には、魔法を使うイメージを捨てて頂きます」


「はあ……?」


「正確には、魔力を集中せずに“攻撃を止める”といったイメージのみで、ナオの攻撃を防いで頂きたいのです」


「おいおい、待て待て。こう言っちゃなんだが、そんな事をしだしたら俺は間違いなくナオに殺されるぞ?」


「ニャーもヒイロをバラバラにするのは嫌だにゃー」


「なら、少し切れる程度に留まる様に、貴女が注意をすれば良いでしょう?」


 メレカさんがナオに向かって話すと、ナオが成程と言いたげな顔で頷いた。


「おいおい」


 俺は冷や汗をかきながら、血の気が引くのを感じながら一歩後ずさる。

 生命の危機を感じる。


「物は試しです。試してみない事には、分からない事もあります。ナオ、始めなさい」


「わかったにゃ」


「覚悟を決めるしかないか」


 魔力を集中するイメージを持たずに、ナオの攻撃に備える。

 ナオは大きく右手を後ろに回し、まるで野球で言うピッチャーがボールを投げる時の様な動作で、腕を振って炎に包まれた爪の斬撃“クロウズファイア”を飛ばしてきた。


「――なっ!?」


 炎の爪から身を守る為に、両腕を前にして意識を集中する。

 そして――


「――いっでええええええっっ!」


 俺の腕は見事にスッパリと斬れて、大量に血を噴き出して骨が露出した。

 そして次の瞬間、恐ろしい程に引き裂かれる痛みが俺の腕を襲う。

 俺は激痛で大量に汗を流して、大量に血を流し続ける斬られた腕の部分を手で押さえる。

 叫びながら俺はうずくまると、メレカさんが俺に駆け寄って回復魔法を使ってくれた。


 次第に俺を襲う痛みも和らいでいき、俺は息を荒げながらメレカさんに視線を向ける。


「ありがとう、メレカさん。でも、マジで洒落にならないぞこれ」


「ヒロ様には申し訳ないですが、やはり、私の考えた通りの結果でした」


「は? どう言う事?」


「ヒイロ凄いにゃ~。今のニャーの攻撃は、普通だったら骨も一緒に斬れて、腕が真っ二つになってる予定だったにゃ」


「はあ!? どどど、どういう事だよ!?」


 俺はかなり動揺した。

 しかし、そんな俺に、メレカさんが相変わらずの整った美顔を崩さずに淡々と答える。


「ヒロ様の腕を真っ二つに出来るだけの威力をもつ斬撃を使ってほしいと、先程ナオに頼みました。ただ、ヒロ様にそれを知られてしまうと変に構えてしまわれると思いましたので、一芝居打たせて頂きました」


「……マジかよ」


 メレカさん怖すぎだろ。

 もし何かのミスで腕じゃなくて体が真っ二つになったら、どうするつもりだったんだ?

 って、もう俺はそれも経験済みだけどな。


「作戦は成功ですね。ヒロ様は魔法を使う際に、微量ですが魔力をしっかり集束していますが、今回はそれもありませんでした。つまり、ヒロ様のその強さは、魔法とは別の物から成り立っていると推測出来ます」


「魔法とは別か。つっても、その別ってのは分からないんだろ?」


「実は、思い当たる節があります」


「マジか?」


 メレカさんが真剣な面持ちで頷き、顎に手を当てる。


「実際にこの目で見た事は無いのですが、【特殊能力】というものがあります」


「特殊能力?」


 漫画とかにあるアレか?

 にしても……。


「魔法とは違うのか?」


「にゃ。それだったらニャーも知ってるにゃ。フロアタムの書物庫で見た事があるにゃ」


「そうだったの? 流石は長老ダムル様が治める知識の豊かな国の中心地、王都フロアタムね」


「その特殊能力ってのは、結局何なんだ?」


「魔族が使う魔法とは別のものだにゃ」


「魔族が使う?」


「はい。しかし、私も実際に目にしたわけではありません。ただ、それは魔族以外も使える様です。恐らくですが、何かの条件が必要なのではないかと考えていますが、残念ながら分かりません。ヒロ様に何か心当たりは?」


「分からん。ナオは見た事あるか?」


「ないにゃ。魔族が使う厄介な力って事しか知らないにゃ」


「しかし、私が兼ねてから感じていた違和感の正体も分かりましたし、ヒロ様がネビロスとの戦いの最中に、何故土壇場までそれが使えなかったのか理解出来ました」


「そうだよなあ。ずっと魔法を使うって感じでイメージしてたもんな、俺」


「じゃあ、ヒイロの魔法って結局なんなのにゃ?」


「俺の魔法……か」


 確かに謎だが……。


「実はさ、昨日ピュネちゃんから俺の魔法は“絆の魔法”だと教えて貰ったんだよ。それと、今まで俺が思っていた通りだとも言われた」


「絆の魔法……。思っていた通りと言いますと、“イメージ通りに敵にダメージを与える”と言う事ですか?」


「そうだな。それに、ピュネちゃんの話だと、俺の魔法は人と絆を深めるんだそうだ」


「にゃー? さっぱりだにゃ」


「だろ? 考えれば考えるだけ妙な話ではあるんだけど、実際にセイの呪いを剥がす時に、それをヒントにやったのも事実なんだよな」


「そうだったのですね。恐らくですが、ピュネ様の仰った“思っていた通り”という言葉は、ヒロ様の受け止めた考えとは、別の意味を持っている言葉かもしれませんね」


「別の意味? って事は、アンジャッシュしてたって事か?」


「アンジャッシュって何にゃ?」


「勘違いって事だな」


「なるほどにゃ」


「どちらにせよ、この件は今一度ピュネ様に確認をしましょう」


「そうだよなあ。戻って来たら聞いてみるか」


 と、丁度その時、ベルの「おーい」と言う声が聞こえてきた。

 噂をすれば何とやら。

 振り向けば、ベルが手を振って近づいて来ていて、その隣にはのほほん顔のピュネちゃんがいる。


「ヒロくーん。メレカー。ナオちゃーん」


 ……あれ?


 俺はピュネちゃんの顔が、思っていたよりものほほんとしていない事に気がついた。

 ベルは相変わらず元気だが、ピュネちゃんはのほほん顔が多少曇っていた。


「姫様、お帰りなさいませ。ご修得なされましたか?」


「実は出来なかったんだよね~。残念」


 そう言いながら、ちっとも残念な顔をしていないベル。

 しかし、それで納得した。


「それでピュネちゃんが元気ないのか? ってか、何でベルはそんなに元気なんだよ?」


「森から出る方法を修得出来ないのは、私が魔力の殆どを邪神に吸い取られてしまったからみたいなの。 だから、それは仕方がないでしょう? それよりも、ピュネちゃんが特別にヒロくんの事について教えてくれるみたいで、それが嬉しいの」


「俺の事……?」


 どう言う事だ? とクエスチョンマークを頭に浮かべると、ナオが俺の背中にとび乗って来た。

 そして、俺の肩の上に顎を乗せて、目を輝かせた。


「もしかして絆の魔法の事かにゃ?」


「その通りよ~。本当は私が教えるのは駄目だって、ティアお姉様に言われてるから、教えたら怒られちゃうの~」


「ティアお姉様ってのが誰だかは分からないけど、教えてくれるってんなら助かる。丁度そこら辺の事について、俺の方からも聞こうと思ってたんだ」


「聞きたい事ですか~?」


「俺の魔法ってのは、思った事を現実に変える力なのか?」


 俺がそう訊ねると、ピュネちゃんは首を傾げて「違いますよ~」と答えた。


「やっぱりか。今まで、俺自身か俺が触れる範囲でなら、思った事を現実に出来る魔法だと思ってたけど、そうじゃないんだな?」


「そうね~。どうせ今から説明をしないといけないし、話しちゃいましょうかね~」


 ピュネちゃんはそう言うと、俺の目を真っ直ぐと見つめた。


「ヒロさんの魔法は絆の魔法。その本質は“他者との魔力の調和や協調”、そして“同調”を可能とした魔法です」


「成る程。理解出来ました」


「え? メレカさんもう理解したのか? 俺、まだ分からんのだが? って言うか、調和だとか協調だとか同調だとか、そんなんでどうやってネビロスや他の魔族を倒せる威力の攻撃が出来る様になるんだ?」


「恐らく、それがヒロ様の特殊な能力の効果なのでしょう」


 メレカさんが俺の質問に答えると、ピュネちゃんが嬉しそうに微笑んだ。


「そこまで分かっているのなら、私もティアお姉様に叱られる事なく、能力についても教えてあげられますね~」


「やっぱり、ピュネちゃんは特殊能力ってのも知ってたのか!?」


「勿論ですよ~」


「流石は宝鐘の守り人ですね。それでは、ヒロ様の持つ特殊能力について、ご教授お願いします?」


 ピュネちゃんが頷いて、俺の目を真っ直ぐと見つめる。


「ヒロさんの持つ特殊能力とくしゅのうりょく……通称能力(スキル)は、知っての通り異世界の人間が、この世界に来る事で得られる能力です。でも、その事実はこの世界でも一部の人しか知らないものです」


 この世界に来る事で得られる!?

 初耳だぞ!?

 って、やっぱりな。

 ベルとメレカさんも驚いてる。

 ナオの表情は俺からは見えないけど、多分驚いてるなこれは。


「だから、まさかヒロさん達が知っているとは思いませんでした~」


「そうだったんだ。私知らな――」


「――よし! で!? 続きを頼む!」


 ベルが口を滑らせる前に、ベルの口を手で塞いで、ピュネちゃんに話の続きを催促する。

 知っているからと言う前提で話してくれている以上、知らないと分かった途端にだんまりされても困るからだ。


 ピュネちゃんは俺とベルを見て首を傾げたが、話を再開してくれた。


「はい~。それで、ヒロさんの能力スキルなんですけど、【想像の体現化】と言った所でしょうか~」


「想像の体現化?」


「己の思った通りの動きや相手に与える為のダメージ。それ等をイメージ通りに実現する。それがヒロさんの能力です。ただ、これはヒロさん自身か、触れた物にしか効果が無いんですよ~」


「そうか。俺が魔法だと思っていたものこそが、能力スキルだったってわけか」


「でも、だったら絆の魔法って何の役に立っていたのにゃ?」


「うふふ。ヒロさんの絆の魔法と想像の体現化の能力スキルは、凄く相性が良いのよ~」


「そうなのかにゃ?」


「はい~。絆の魔法は、どんな相手であろうと、魔力の波長を合わせる事が出来るのよ~。つまり、上手くコントロールすれば、ヒロさんに魔法は効かないわ。実際に、ヒロさんは無意識に魔法を何度も使ってるみたいですしね~」


「マジ……か?」


 何となく分かってきたぞ。

 要するに、今まで俺が魔人や魔従まじゅうの魔法を受けてダメージが少なかったのは、これのおかげだって事か。

 それに、攻撃をする時もそうだ。

 奴等が魔力を使って防御をしても、それを無効化してるんだから意味が無い。

 しかも、そこに俺の能力スキルの想像の体現化で出した攻撃を与えてるんだ。

 奴等にとっては、防御無視のでたらめな威力の攻撃が襲ってくるみたいなもんだよな。


「わかったにゃ! あの騎士の呪いも、ヒイロが魔法と能力スキルを理解していれば、気絶させなくても済んだんだにゃ!」


「ぐっ……。おい、ナオ。痛い所をつかないでくれ」


「にゃ?」


 あの時の事、俺としては少しくらいはかっこよく出来たと思っていた。

 しかし、実際に蓋を開ければなんて事は無い。

 あの時の事は、能力スキルと魔法を使いこなせない馬鹿が滅茶苦茶やって何とか出来ただけの、凄くかっこ悪い出来事だった様だ。

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