6話 目に見える真実
「この世界が闇に覆われている?」
「はい。そうですよ~」
「にゃー? 明るいにゃ」
ナオが窓から外を見る。
霧も晴れていて、確かに明るい。
って、そうじゃなくて……。
「儀式が破られて封印が解かれる時に、世界が闇に覆われるって感じだったよな?」
「うん。いずれ儀式が破られ封印が解かれし時、再び世界が闇に覆われる。それが、王族と一部関係者にしか知らされていない予言だよ」
「今は世界のあちこちに魔族がいて、それが闇に覆われるって事なんじゃないのか?」
闇に覆われるってのが何なのか、正直よく分かっていなかった。
ただ、今言った様に、俺は漠然とそう考えていた。
「半分は正解で、半分はハズレですね~」
「え? そうなの? 私もそう言う意味だと思ってたよ」
「ニャーはその話は初めて聞いたにゃ」
「ナオは知らなくて当然よ。先程姫様が仰られた通り、王族と一部の者にしか知らない事なのだから」
「そうなのかにゃー」
「それより、半分正解で半分間違いと言う話を、詳しく聞かせて頂いても?」
「うふふ。君達にはこの世界がどう見えてるのかな~?」
メレカさんの質問には答えず、ピュネちゃんが楽しそうに質問した。
ただ、その質問が答えだとメレカさんは受け取ったようで、顎に手を当てて「成る程」と呟いて考える。
俺はと言うと、言われた意味が分からず「え?」と口をポカンと開けた。
「そうだね~。例えばですけど~、ウッドブロック大森林に初めて入った時の感想は~? ヒロさんどうぞ」
「俺? ん~……。凄く綺麗な場所だなって思ったけど?」
「うふふ。そうですよね~。私もそう思うわ~」
「は、はあ……?」
本気で質問の意図が分からず俺は困惑した。
ピュネちゃんが何を言いたいのかがサッパリ分からない。
そんな俺の困惑する様子を見て、ピュネちゃんは「あらあら」なんて言って微笑む。
ますます意味が分からない。
「ごめんなさいね~。私も本当に同じ様に思っていたんですよ~」
ピュネちゃんがのほほんとした笑みを見せ、そして、目を閉じて両手を広げた。
突然そんな事をしだしたので、さっきとは別の意味で困惑したが、直ぐに何かを始めるのだと分かった。
ピュネちゃんの広げた両手から黒紫色の魔法陣が浮かび上がり、それが淡い光を放ち出した。
「ヒロさん、ベルちゃん、メレカちゃん、ナオちゃん。……君達には世界の真実を見せてあげます~」
「世界の真実……?」
俺が言葉を繰り返すと、ピュネちゃんが別人の様にハッキリとした口調で話し出す。
「宝鐘の守り人が一人、我が名はデルピュネー、真実を継ぐ者なり。我が魔力を以って、彼の者達に真実を示す」
瞬間――小屋全体が黒紫色の閃光に包まれる。
その光は目を開けていられない程に眩しい光で、俺は腕で目を隠して目を閉じた。
そして、光が治まって目をゆっくり開き、目に映った異様な光景に俺は驚いた。
「ど、どうなってんだ? これ……」
目を開けて見た光景、それは、宙を漂う小さな黒い靄。
見た目はマリモ、大きさは雪の様で、それが黒く染まった感じの靄だ。
そしてそれが、小屋の中全体に浮かんでいる。
しかも、量が半端ない。
例えるなら、部屋の中を掃除をしている最中に、太陽の光で部屋の中の埃が舞っているのを見た時の様な感じだろうか?
それが際限なく小屋の中全体に広がっていたのだ。
「あらあら。急に説明も無しだったから、驚かせちゃったかしら~?」
ピュネちゃんの口調は元に戻っていた。
しかし、表情は真剣味を帯びている。
「黒いのがいっぱいにゃ」
「う、うん。なんか、凄く嫌な感じがする」
「ピュネ様、これはいったい?」
この黒い靄を見て、俺以外の全員も驚いていた。
「これが、今まで君達が見えていなかった世界の真実だよ~」
「世界の真実……」
その時、この得体の知れない黒い靄に耐えられなかったのか、ナオが勢いよく扉を開けた。
そして、扉を開けて直ぐに、驚いた顔して叫ぶ。
「何にゃこれ!? お外も黒いのがいっぱいだにゃー!」
扉の外に視線を向けると、小屋の外も同じ様に、黒い靄がそこ等中に漂っていた。
窓から外を見てもそれは同じで、黒い靄はどこまでも漂っている。
「当然ですよ~。これは【害灰】と言って、今は世界中の何処へ行っても存在するんです~」
「害灰……。あのさ、ピュネちゃん。この世界の真実が、この黒い靄……害灰が漂う世界だったとして、何で今まで俺達には見えなかったんだ?」
「それはね、魔力が足りていないからなの。上位魔法が使えるくらいに魔力が高い人なら、普通に見えていますよ~。もし、ベルちゃんが魔力を奪われていなかったら、この害灰が見えていたと思います」
「世界が闇で覆われる。こういう意味だったんだね。私、封印の巫女なのに全然知らなかった……」
「姫様……」
「あらあら。知らなくても当然ですよ~? だって、この事は邪神を封印した時に人々が混乱しないようにって、当時の英雄と皆で話し合って伏せる事にしたんですもの~」
「そっか……。こんな目に見える恐怖を皆が知っちゃったら、世界中が混乱しちゃうもん。そんな事になったら、今より酷い事になっちゃう。気を使ってくれてありがとう、ピュネちゃん」
「いいえ~。本当の事ですから~」
ベルとピュネちゃんが微笑み合う。
しかし、これには参った。
まさかこんなにハッキリと、本当に闇に覆われていたなんて思いもしなかった。
俺はてっきり言葉の綾みたいなもんだと思っていた。
だからさっきも言った様に、魔族が世界に出て来たのが、闇に覆われるって事だと思っていたのだ。
「この害灰ってさ、いかにも人体に影響与えそうな名前だし色をしてるけど、実際にはどう言うものなんだ?」
「浴び続ければ、遅くても一年で死んでしまう毒ですね~」
「――っはあ!? 遅くて一年で死ぬ!? かなりヤバいんじゃないかそれ!?」
「そうですよ~。だからこそ、英雄のヒロさんには頑張ってもらわないといけませんね~」
「何を呑気な! いや、それよりも、早くてどのくらいで死に至るんだ? まさか一ヶ月とかじゃないよな?」
「どの位だったかしら~。……確か十ヶ月くらい?」
「って事は、死ぬとしたらだいたい同じ時期って事か」
それにしたって洒落にならない。
この害灰ってやつは避けて生活出来るって感じのものでもない。
このままだと、一年後にはこの世界の人類が滅びちまうって事だ。
「お願いピュネちゃん、教えて? この害灰を消すには、やっぱり邪神を倒すしかないの?」
「そんな事ないですよ~」
「本当!?」
「邪神を倒す以外の方法があるのか!?」
俺とベルがピュネちゃんに詰め寄る。
あるなら本気で教えてほしい。
それはベルも同じ気持ちだった。
「あらあら。うふふ。そんなに焦らなくても大丈夫よ~」
ピュネちゃんは俺とベルの顔を交互に見て微笑む。
「害灰を取り除く方法は簡単なんです。各国を支配する魔族のトップ……つまり、邪神に命令されて各国を任された魔人の幹部を、倒せばいいんです。そうすれば、その国の害灰が綺麗になくなっちゃいます」
「成る程な。分かり易いっちゃ分かり易い方法だ」
「うん。魔族を倒せば、皆を助けられるのは今までと一緒だね」
しかし、一筋縄ではいかないのも事実だ。
あの滅茶苦茶強かったネビロスですら、その任された魔人の幹部ってのじゃ無い。
あれより強いのと戦って勝たなきゃならない。
「ピュネ様、私からも一つ確認よろしいですか?」
「どうぞ~」
「害灰が見える地域は、既に支配されているという事でしょうか?」
「うん、正解。メレカちゃんの言う通りだよ~」
「あっ! もしかして――」
そこでベルが何かを思い出したように、再びピュネちゃんに詰め寄った。
「――ヒロくんがいない時に言っていた宝鐘を渡す条件って、この国から害灰を無くす事!?」
「ベルちゃん大正解。よくできました~」
ピュネちゃんがおっとりした笑みを見せながら拍手する。
「やっぱりそうなんだ!」
「宝鐘を渡す条件? そんな話になってたのか?」
「はい。直ぐには手に入らないとご説明した通りです」
「そう言えばそんな事言ってましたね。って、あれ? 結局この小屋のどこに宝鐘があるんだ?」
これもすっかり忘れていた。
だが、改めて小屋の中を見回しても、それっぽい物は一つも無い。
すると、俺が宝鐘を探しているのに気付いたのか、ピュネちゃんが俺に視線を向けて微笑んで話す。
「宝鐘は屋根の上にありますよ~」
「屋根の上?」
「私も最初見た時は驚きましたが、間違いなく屋根の上にありました」
「あんな所に堂々と置いてあるから、逆に分からなかったよね」
確かに、流石に俺もそんな所は見て無い。
オンボロ小屋なんてじっくり見ないからな。
しかも屋根の上なんて余計に……。
「ニャーは直ぐに気付いたにゃ。それより、ニャーも聞きたいにゃ」
「どうぞ~」
「この黒いのには、闇の魔力が混ざって無いのかにゃ? 宝鐘が反応しないにゃ」
「害灰は魔法じゃないの。“魔族から発生する自然への干渉”といった物かしら~? だからそこに、魔力が関与していないの。分かる人には分かる説明をすると、加護の様なものかしら~」
魔族から発生する自然への干渉……?
加護ってのが何なのかは分からないが、確かにそれなら魔力は関係ないな。
「あの、よろしいでしょうか?」
「他にも聞きたい事があったの~? うふふ。どうぞ~」
「話を戻すようですが、この国から害灰を無くす。という事は、既にこの国が……王都フロアタムが魔族の手に落ちていると言う事になります。それは、いつ頃からなのでしょうか?」
「私が知る限りでは、君達がネビロスちゃんを倒す前からよ~」
「――っ!」
倒す前から?
じゃあ、フロアタムに戻ったミーナさんの身が危ない!
「あらあら。どうしたの?」
俺達四人の顔に焦りが出ていたのか、ピュネちゃんが心配そうに眉根を下げた。
「ネビロスと戦う前に、フロアタムからミーナさんって騎士がタンバリンに来たんだ。それで、ネビロスを倒した後に、フロアタムへ戻って行ったんだよ。フロアタムが支配されている事を知らなかったとは言え、一人で行かせるべきじゃなかったな……」
「なるほど~。でも、一先ずは大丈夫ですよ~」
「大丈夫……?」
「なんでにゃ?」
「この害灰が世界中に広がったのは、正確には封印の儀式が失敗してから直ぐの話なのよ~」
「直ぐ? そんな早い段階で国が滅んでたって事なのか?」
そんな事がありえるのか? と疑問をぶつけると、ピュネちゃんは首を横に振って答える。
「いいえ~、違います。さっきも言った通り、この害灰は魔族から発生する自然への干渉。だから、封印の儀式が失敗して魔族が世に出た時点で、その地を中心に広がっていくんですよ~」
「でもそれだと、何でこの国を支配している魔族を倒せばって話になるんだ?」
「ネビロスちゃんの魔法を知っていますか?」
「魂を操る魔法だろ? ここに来る前にメレオンって魔従から聞いた。……あれ? って事は、元々フロアタムの人が皆操られている?」
正直言って信じられないが、そうとしか思えない。
例えば、無意識に操られているって前提であれば、今もまだ普通に日常生活を送っていてもおかしくない。
「ちょっと待って下さい、ヒロ様。そんな事があり得るのですか? それに、ネビロスはもう倒したのですよ?」
「私はヒロくんの考えがあたりだと思う。魔人ネビロスは邪神から魔力を奪われてたんだもん。それが何か関係して、ヒロくんの言う通り操られてるのかも」
「だな。ネビロスの魔力がグラシャ=ラボラスって魔人に移ったって、メレオンから聞いた。あれってつまりは、その力を引き継いだって事なんだろうな」
「――っ!?」
「よくわかんないけど、面倒な事になってるにゃー」
ナオの言いたい事も分かる。
実際そうなるとかなり面倒で厄介極まりない。
「流石は英雄のヒロさん。情報通ね~。ただ、フロアタム全員が操られていたかは、私には分からないですよ~。操られていた可能性があるとしか言えません」
「にゃー? 結局どっちなんだにゃ?」
「そうですね~。ハッキリとは分かりませんけど、邪神が復活したにもかかわらず、宝鐘が置かれたこの地にフロアタムの騎士が宝鐘を護りに誰も来ない。これってどうしてなんでしょうね~?」
ピュネちゃんが含みのある言い方をしながら笑みを浮かべた。
と言っても、相変わらずののほほん顔。
すると、メレカさんが顎に手を当てて真剣な面持ちで口を開く。
「確かに、おかしな話ですね。宝鐘は各国が最優先で護るべき対象。それだと言うのに、何故ここに騎士が派遣されないのでしょう? マンティコアがいるにしても、それこそ長老ダムル様の近衛騎士団であれば、どうとでもなるでしょう」
「最優先なのかにゃ? そんなのニャーは知らなかったにゃ」
「ナオは知らなくて当然です。これは重要な事ではありますが、それと同じ様に、この事は機密事項の最たるものでしたから」
「つまり、魔族に操られちまったのが宝鐘の事を知っていた人物で、メレオンがここに来た。そして、俺達を迎える為にミーナさんをタンバリンに向かわせたのが、まだ操られていない人物って事か」
「うん。だから、ミーナは私達に協力して、ネビロスとの戦いを手伝ってくれたんだと思う。それに攫った人に宝鐘を探させてた理由にも説明が付くよ」
少しややこしい話ではあるが、つまりはそう言う事なのだろう。
まず、フロアタムの重要人物をネビロスが操る。
それによって、宝鐘の在り処を知る。
タンバリンの住人を誘拐し、操って宝鐘を探させる。
重要人物が操られている事を知らないフロアタムの偉い人が、ミーナさんを俺達を迎えに行かせる。
んで、俺達と合流したミーナさんが、一緒にネビロスと戦った。
流れとしては、こんなとこだろうか。
となると、マリンバでも何か重要なものがあったって事になる。
まあ、それは今は話しても分からないだろうが。
それから、わざわざタンバリンの住人に捜索させるって事は、魔族の奴等はフロアタムを現状維持させようとしてるって事だ。
何を企んでるのかは知らないけど、つまりはそう言う事なのだろう。
俺なりに内容を整理していると、メレカさんが俺に顔を向けて「ヒロ様」と質問を始める。
「ネビロス亡き今は、そのグラシャ=ラボラスという魔人が、フロアタムを操っているという事でしょうか?」
「いや、それはない。ネビロスと違って、グラシャラボラスは死んだ魂が肉体を持ってないと操れないらしい。それに、ハッキリと聞いたわけじゃないけど、生きた人間は操れないって感じの事も言っていた」
「ネビロスちゃんの魔法は高度な魔法だから、ネビロスちゃんクラスの強い魔人じゃないと、完璧には使いこなせないのよ~。心配なのはネビロスちゃんが倒された今、操るといった方法ではなく、実力行使で国を乗っ取りに出ている可能性がある事かしら~?」
「そう言えば、あのカメレオン野郎がグラシャラボラスが多忙だと言っていたな。それってもしかしたら、フロアタムを襲っているって事なのか?」
「可能性はありますね~」
「でも、それならフロアタムはまだ魔族の手に落ちていないって事にもなるにゃ?」
「だったら、早くフロアタムに私達も向かおうよ!」
ベルが意気込んで、小屋を出ようと急ぎ足で出入り口に向かう。
「まあまあ。ベルちゃん落ち着いて? 今日はもう遅いし、皆ここに泊っていったら~?」
窓の外を見ると、いつの間にか外はすっかり暗くなっていた。
「でも……」
「心配なのは分かるけど、焦っていたって何も良い事が無いものですよ~。それに私、久しぶりに人とお話が出来て嬉しいの。お姉さんの我が儘につきあってもらえると、とっても嬉しいわ~」
ピュネちゃんがベルに微笑み、ベルはそれを見て頷いた。
「しっかし魂を操れるって、ホントに厄介だよな? 情報まで聞き出せちまうんだからさ」
「うふふ。半分正解で半分ハズレです。魂を操る魔法は、同時に操った魂の記憶を読み取る事が出来るのよ~。だから、聞き出す必要はありません」
「マジかよ。聞き出すまでもないって、本気で嫌な魔法だな」
「しかしそうなると、フロアタムを狙われたのは非常に不味いですね」
「フロアタムを? 他の国でも宝鐘を扱ってるんだし、フロアタムに限った話じゃないんじゃないか?」
「あのね、フロアタムの長老ダムル様は、ピュネちゃんと同じで何千年と生きているお方なの。そして、今この世界で生きる誰よりも、この世界の事を知ってる。だから、もし記憶を覗かれているとしたら――」
「――それってかなり不味いんじゃないか!」
「うん……」
事態は思っていたより深刻な様だ。
だと言うのに、うちの猫様はお気楽だ。
「考えてても仕方ないし、今日はとにかく休んで明日に備えるにゃ~♪」
難しい話が続いて飽きたのか、ナオが元気に笑顔で締めくくった。
まあ、十一歳にする話じゃ無いよなってのは感じる。
それに、そのお気楽な感じには救われる思いだ。
「うん。そうだよね」
「うふふ。お姉さんもナオちゃんに賛成~」
ベルとピュネちゃんがナオに微笑む。
「まったく……。ナオは気楽で良いわね」
メレカさんは口ではきつい言い方をしているが、表情を見るかぎり、ナオに場を助けられたって感じの顔をしていた。
俺もそんな風に思っていたので、ナオの頭を撫でてやった。
すると、ナオは「にゃー」とそれを嬉しそうに目を細める。
そうして、今夜はこの小屋で一泊する事になった。
◇
夜も深まり、皆が眠りにつく頃。
俺は小屋の外に出て、草の上で横になって星空を眺めていた。
「うーん……。害灰のせいで星空がちゃんと見れないな」
ピュネちゃんのおかげで、今この世界で起こっている危機が目で見えるようになったのはいいけど、これじゃあ写真を撮る気にもなれない。
「手で払おうにも誇りみたいに舞うだけだし、マジで言葉通りに害灰だな。しかも息するだけで体内に入ってくるし、慣れるまで大変だぞこれ。って、慣れたくねえ……」
「あらあら。うふふ。ヒロさんは中で眠らないのかしら?」
不意に話しかけられて顔を向けると、ピュネちゃんが近づいて来ていた。
相変わらずの柔らかな微笑みを俺に向けながら、側まで来ると隣に座った。
「……そんなとこ」
俺は苦笑して答えて、言葉を続ける。
「それにしても、何て言うかびっくりしたな。俺の住んでた星とこの世界に、あんな繋がりがあったなんてさ。改めて考えると、色々と本当に納得だけどさ。俺の予想だけど、魔族って俺の住んでいた星で知られている悪魔の類とかだったりだろ?」
「正解~。よくできました」
「やっぱりそうなんだな。って、これは教えてくれて良い事だったんだ?」
「そうね~。でも、この世界にいる魔族の全てが、君の星で知られているってわけではないんですよ」
「ふーん。まあ、そりゃそうだわな」
今日戦ったメレオンなんかは、実際いなさそうだもんな。
見た目カメレオンでメレオンとか、名前が安直すぎるし。
「それで、ピュネちゃんはどうして外に出て来たんだ? 皆と一緒に寝たいって言ってたのに」
「うふふ。そうね~」
ピュネちゃんは微笑むと、星空を眺めた。
それが答えなのか、それとも別に何かがあったのか分からず、俺は一緒に星空を眺める。
そうして、少し時間が流れた頃に、ピュネちゃんが口を開いた。
「一つ大事な事を言い忘れていたんです」
「大事な事?」
なんだろう? と、俺は少し緊張して唾を飲み込んだ。
でも、ピュネちゃんは相変わらずののほほん顔。
「はい。ヒロさん、君の魔法の正体です」
「ああ、その事か。とんでもない事を聞かされるんじゃって身構えちゃったよ。そう言えば、メレカさんがそんな事を言っていたな」
「うふふ。実は私の昔の知り合いに、君と同じ魔法を使える人がいたの」
「マ!? やっぱ他にもいたんだな!」
上体を起こしてピュネちゃんに顔を向ける。
すると、ピュネちゃんはおっとりした微笑みを俺に向けた。
「あらあら」
「それで、それで俺の魔法って、俺が思っている通りの魔法なのか!?」
「うふふ。ヒロさんが自分の魔法をどんな風に見ているのかは、ベルちゃん達から聞きました。だから、一応知っているつもりなので答えます。思っている通りの魔法で、ほぼ間違いないと思いますよ~。でも~」
「でも?」
ピュネちゃんは空を見上げる。
そして、目を閉じて少しだけ時間が過ぎた。
俺はピュネちゃんの答えを静かに待った。
そうして、少しの間だけ時が過ぎると、ピュネちゃんはゆっくりと目を開く。
そして、何かを懐かしむような顔をして、俺に優しく微笑んだ。
「君の魔法の本来の力は、人と絆を深める【絆の魔法】。それは、この世界の誰もが夢見て、誰もが成しえれない素敵な魔法よ~」
「絆の魔法…………?」
「うふふ。そろそろお暇しますね~」
ピュネちゃんは微笑んで、小屋の中に戻っていった。
俺はピュネちゃんの背中を見送りながら、魔法の事を考える。
「絆の魔法……か。はあ。どこら辺がほぼ間違いないんだよ?」
そんな事を呟いて、星空を眺めながら考えた。
だけど、今の俺には結局それがどう言う魔法なのか、まったくこれっぽっちも分からなかった。
 




