運命の出撃
プロローグ
ヴーン、ヴーン。と、耳に入るのはやかましい警報音と怒鳴るような指示の声。
『オリオン01は1番ハッチへ、オリオン02は3番、オリオン03は4番ハッチへ移動。パイロットは搭乗機にて待機をお願いします』
その指示に従い、待機室にいた俺は手に持っていた雑誌を戻し、ヘルメットを掴んだ。
「はあ?3番?!ここからめちゃくちゃ遠いじゃない!」
横で1人の少女が不満を隠そうともせず舌打ちした。
「シュカ、女の子なんだからもっとおしとやかにね。ほら、急ぎなさい」
と、そんな少女を見かねたのか別の女子が彼女をなだめる。
「分かってるわよ。ていうかシイナ、香水きつすぎ‥‥」
「あら、そう?」
後ろの方でそんな会話が聞こえる。緊張感のない人達だな、と何回目になるのか分からない感想が心に残った。
「あ、そうだ。ハル!言ったと思うけど今日、艦長の誕生パーティだからね。差し入れ忘れないでよ!」
「はあ?!聞いてない!ていうか、艦長の誕生日は再来月だろ!」
「細かいことはいいのよ」
「ただでさえ艦長はもう30近いんだから、ちょっとは気を使ってだな‥‥!」
そこまで言ったところで、これ以上何か口にすると戦闘が無事に終わっても命はないような気がしたので、口にチャックを閉めた。
そんな中、彼女は舌を出して3番ハッチへ逃げるように走って行った。
「あらあら、楽しみね〜」
「シイナさん、笑うところじゃないんですけど‥‥」
この人も大分ズレてるなと、またも何回目になるのか分からない感想。
「そうね〜。まずは戦闘を頑張りましょう。ハルカ君も、急いでね」
「‥‥‥了解しました」
ヘルメットを持ち直して、1番ハッチへ全力疾走。
少しの間走り、目的地へ到着した。
「お、坊主。やっと来たな?」
「すみません、遅くなりました」
やたらと主張の激しい胸を作業服で押さえ込んだ整備士があるモノを見上げた。
巨大なヒトの様な形のソレは、全身真っ白の機械だ。
「まあ、言うことはいつもと同じさ。私だと思って大事に乗りな」
「はい、分かりました。行ってきます」
「はは、素直なこった」
背中をバシバシ叩かれ、咳き込みそうになりながら搭乗口まで上がるエレベーターに乗る。
ソレに沿うようにエレベーターは上がっていき、ソレの頭の位置で止まった。
搭乗口は頭だ。細い道が、エレベーターから頭へと続いている。
そこを早足に歩き、ソレの頭の中へと体を入れた。
人1人が座るように設計された内部。座席の周りには様々なスイッチやレバーが所狭しと並んでいる。
『オリオン02から発進します。続いて03、最後に01の順番です』
ややこしいなあ。そう思いつつ、ヘルメットを装着し、ソレの主電源のボタンを強く押した。
『ねえ、ハル?』
通信が入った。右上の小さなモニターにシュカの顔が映る。
「シュカ?」
シュカはしばらくの間、何も話さなかった。カメラ越しに、見つめ合っているみたいに。
『死なないで、生きて帰るのよ。約束しなさい』
戦闘の度、彼女はこう言う。いつもと少し違う真剣な表情で。
「了解」
一言そう返す。それだけの会話。
『続いてオリオン01、全システムオールグリーン。装備異常無し。発進準備完了』
「了解。コクピット内部も異常無し。何時でも行けます!」
『1番ハッチ、発出口にカラーフィールド展開』
目の前には機体が通る通路が長く続いている。
その先、出口付近に赤い色の透明なガラスの様なものが出口全体をふさいでいた。
『展開完了。オリオン01、発進』
‥‥‥生きて、帰る。
「ハルカ ウィークレット。オリオン01.コード〈紅姫〉、GO!」
強烈なGが体を貫く。奥歯を噛み締めてそれに耐える。
ヒト型の機体が、赤色のガラスの様な物に衝突した。が、衝撃などは一切無い。そこにそんな物なかったかの様に、滑走し、飛び立つ。
全身真っ白だったソレは、真っ白な色が嘘に見える程、鮮やかな赤い色を身に纏っていた。