第2話 硬派な俺たち、セーラーでモテすぎる!
「来年も学ランだろ?」
十二月の夕方、学ラン寮の談話室。
前田隼人は、制服の希望調査票をテーブルに広げながら尋ねた。
向かいに座る西村慎也は、迷うことなくうなずいた。
「ああ。今ので十分だ」
「だよな。俺も学ラン!」
隼人は、学ラン組に丸をつけた。
黒い詰襟に、まっすぐなズボン。
入学以来ずっと着ている制服だ。
柔道部に所属する隼人は、肩幅が広く、背も高い。
短く刈った髪と少し鋭い目つきのせいで、初対面の相手には怖がられることもあった。
それでも、学ランが似合うと言われるのは嬉しかった。
向かいの慎也も、学ランが似合う男子だった。
剣道部所属。隼人より少し細身で、涼しげな顔立ちをしている。
背筋が伸びていて、制服の襟元はいつもきちんと整っていた。
二人は同じクラスで、寮の部屋も隣同士。
部活が終われば一緒に夕飯を食べ、休日には互いの試合を見に行く。
隼人が柔道の大会で負けたとき、真っ先に声をかけてくれたのも慎也だった。
あの日、隼人は悔しくて、ろくに口も利けなかった。
慎也は余計な慰めを言わず、黙って隣に座っていてくれた。
翌日には、自主練習に付き合い、試合の映像を一緒に見直してくれた。
「ここ、踏み込むのが早いんじゃないか」
柔道の専門家でもないくせに、そんなことを真面目な顔で言う。
隼人は、思わず笑ってしまった。
そういうところが、気に入っていた。
「そういや、学ラン希望が多いらしいな」
隼人が言うと、慎也は顔を上げた。
「去年より多いのか?」
「クラスの連中、ほとんど継続って言ってたぞ」
「なら、抽選になるかもしれないな」
隼人は鼻を鳴らした。
「まあ、何とかなるだろ」
「根拠は?」
「気合いだ!」
慎也が呆れたように息を吐いた。
「抽選に気合いが通じるなら苦労しない」
隼人は声を出して笑った。
そのとき、談話室のテレビに学校行事の写真が映った。
セーラー組の男子たちが、楽しそうに並んでいる。
濃紺のセーラー服に白い襟。
淡い青のリボンと、きれいに揺れるプリーツスカート。
隼人は、何となく画面を眺めた。
「……なあ、慎也」
「何だ?」
「お前、セーラー着てみたいとか思わねえの?」
慎也は画面を見た。
「別に。学ランが気に入ってる」
「だよな!」
隼人は自分の肩を叩いた。
「俺なんか、こんな体格だぞ。可愛い制服なんて似合わねえって」
慎也は、しばらく隼人を見つめた。
「……そうか?」
「何だよ」
「似合うかどうかは、着てみないとわからないだろ」
隼人は吹き出した。
「お前、俺のセーラー姿が見てえの?」
「少し興味はある」
「マジかよ!」
慎也は、涼しい顔で続けた。
「肩幅があるから、意外と格好よく着られるかもしれない」
「……格好いいセーラーって何だよ」
「お前なら、そうなりそうだってこと」
隼人は、一瞬返事に詰まった。
それから、にやっと笑う。
「じゃあ、お前も着ろよ!」
「俺は学ランでいい」
「何だよ、それ!」
二人は、顔を見合わせて笑った。
来年も、きっと同じ学ラン。
一緒に部活へ行って、飯を食って、くだらないことで笑う。
そんな一年になると思っていた。
****
一月。
二人は予定どおり、学ラン組への正式な希望を提出した。
ところが二月、学ラン組の希望者が定員を超えたため、抽選が行われることになった。
そして三月。
隼人のもとへ、結果通知が届いた。
封筒を開き、紙を取り出す。
『学ラン組の希望は不承認となりました。二年生ではセーラー組への所属となります』
「…………は?」
もう一度読む。
間違いではない。
「……マジかよ!」
来年はセーラー組。
あの白い襟に、リボン。
それから、スカート。
隼人は、自分の肩幅を見下ろした。
「……似合うのか、これ?」
すぐにスマホを取り出し、慎也へメッセージを送る。
『俺、落ちた。お前は?』
返事は短かった。
『俺も』
隼人は、思わず笑ってしまった。
すぐに電話をかける。
「おい! お前もかよ!」
『ああ』
「二人そろってセーラーって、どういう運だよ!」
『同じ抽選に外れたんだろ』
「そういう話じゃねえ!」
電話の向こうで、慎也が笑った。
隼人も、つられて笑う。
「……まあ、一人じゃなくてよかったわ」
『俺もだ』
少し間があった。
慎也が、落ち着いた声で言った。
『決まったなら、ちゃんと着よう』
「おう! 着るからには堂々とな!」
隼人は、にっと笑った。
「似合わなかったら、笑っていいぞ」
『似合ったら?』
「思いっきり褒めろ!」
慎也が笑った。
『わかった』
その返事が、妙に頼もしかった。
****
四月。
二年生の始業式。
隼人は、新しいセーラー服を着て、寮の鏡の前に立っていた。
「……おお」
思わず声が出た。
意外だった。
思っていたより、ずっと似合う。
濃紺の生地に白い襟が映え、肩のラインもすっきりして見える。
短い髪や精悍な顔立ちとも、案外相性がよかった。
スカートを少し揺らしてみる。
軽くひだが広がった。
「……へえ」
隼人は、鏡の中の自分を見て笑った。
「結構いいじゃん!」
ただ、リボンだけは苦戦した。
説明書を見ながら結んだものの、左右の長さが合わない。
何度かやり直して、ようやく形になった。
「……まあ、初日ならこんなもんだろ!」
鞄を持って部屋を出る。
隣の部屋をノックした。
「慎也! 準備できたか!」
扉が開いた。
「……ああ」
隼人は、思わず黙った。
目の前に慎也がいた。
もちろん、慎也だ。
見慣れた涼しげな顔。
きちんと整えられた髪。
背筋を伸ばした立ち姿。
ただ、今日はセーラー服を着ている。
白い襟がよく似合っていた。
淡い青のリボンは左右がきれいにそろい、スカートのひだも整っている。
いつもと同じ真面目な顔なのに、印象がまるで違った。
隼人は、思わず見つめてしまった。
「……隼人?」
慎也が首をかしげた。
隼人は、考えるより先に口を開いた。
「……お前、めちゃくちゃ可愛いじゃん」
慎也が、ぴたりと動きを止めた。
「……は?」
「いや、マジで! すげえ似合う!」
慎也は、自分の制服を見下ろした。
それから、少しだけ口元を緩めた。
「……そうか」
その頬が、ほんのり赤くなる。
隼人は、また驚いた。
(……おいおい)
試合前の険しい顔も、負けて悔しそうにしている顔も知っている。
剣道の稽古で、先輩に食らいついていく姿も見てきた。
でも、こんな照れ方は初めてだった。
慎也が、隼人を見た。
視線が顔から肩へ、そして制服全体へと移る。
「……お前も、似合うな」
「そうか?」
「ああ」
慎也は、少しだけ笑った。
「思ってたとおり、格好いい」
隼人は、得意げに胸を張った。
「だろ!」
すると慎也が続けた。
「……でも、可愛いな」
「……おい」
隼人は、思わず慎也を見た。
慎也は、いつもどおりの真面目な顔をしている。
からかっている様子はない。
「……何だよ」
「可愛いって、お前……」
言いかけて、やめた。
別に嫌ではなかった。
むしろ、嬉しい。
それが少し恥ずかしかった。
慎也は、隼人の胸元を見た。
「リボン、片方が長いぞ」
「あ? マジ?」
「ちょっと貸せ」
慎也が一歩近づいた。
隼人のリボンをほどき、手早く結び直していく。
「お前、慣れてんな」
「説明書を見て練習した」
「真面目かよ!」
慎也は、指先で形を整えた。
「これでいい」
隼人が鏡をのぞき込む。
「おお! 全然違う!」
慎也は、満足そうにうなずいた。
隼人は、自分のリボンを触った。
それから、慎也のほうを見る。
「……なあ」
「何だ?」
「明日も頼んでいいか?」
慎也は、呆れた顔をした。
「自分でも覚えろ」
「お前のほうがうまいんだって!」
「柔道の技は何度でも練習するくせに、リボンは覚えないのか」
「……それ言われると弱いな」
二人は、声を出して笑った。
そのまま並んで寮を出る。
同じセーラー服。
同じ寮。
予定外の新学期だった。
でも、隣の慎也が楽しそうなので、隼人も悪い気はしなかった。
****
始業式の日、二人は思いがけない人気者になった。
「前田!? お前、セーラーになったの!?」
去年の学ランクラスの男子が、廊下で声を上げた。
「見りゃわかるだろ!」
隼人が答えると、相手は目を輝かせた。
「いや、めっちゃ似合う! 何か可愛い!」
「……お前までそれ言うか」
「その体格でセーラーって、ずるくない? 格好いいのに可愛い!」
隼人は、思わず笑った。
「……そうかよ!」
最初は、学ランから変わることに少し抵抗があった。
でも、こうして褒められると嬉しい。
しかも、似合っていると言ってくれる男子が予想以上に多かった。
一方、少し離れたところでは、慎也が囲まれていた。
「西村、すげえ似合ってる!」
「リボンきれいだね!」
「今日、一緒に写真撮ってもいい?」
慎也は、少し困った顔をしている。
「……一枚だけなら」
男子たちが、嬉しそうにスマホを構えた。
撮影が終わると、慎也が小さく笑う。
「これでいいか?」
その瞬間、周囲がまた騒がしくなった。
「うわ、笑うとめっちゃ可愛い!」
隼人は、思わずそちらを見た。
慎也は、照れくさそうに笑っている。
(……へえ)
あいつ、あんな顔もするんだな。
そう思った直後、何となく胸がざわついた。
自分が知らなかった顔を、ほかの連中も見ている。
それが、少し面白くなかった。
「前田先輩!」
今度は、隼人が声をかけられた。
振り向くと、学ラン姿の一年生が立っていた。
「俺、柔道部の見学に行ったんですけど、先輩のこと覚えてます!」
「おう! ありがとな!」
一年生は、勢いよく続けた。
「セーラー姿もすごく好きです! よかったら、俺と公式ペア組んでもらえませんか!」
隼人は、目を丸くした。
新年度の公式ペア登録は、セーラー組と学ラン組の二人で行う。
確かに、自分も登録できる立場になった。
しかし、いきなり申し込まれるとは思わなかった。
「……悪い。まだ考えてねえんだ」
一年生は残念そうにしたが、すぐに笑った。
「わかりました! また柔道部の練習、見に行きます!」
「おう! 待ってるぞ!」
隼人は、手を振って見送った。
ふと顔を上げると、慎也がこちらを見ていた。
目が合う。
慎也は、なぜか少し気まずそうに視線をそらした。
「……慎也?」
呼ぶと、慎也はいつもの顔で近づいてきた。
「何だ?」
「いや、お前こそ。何見てた?」
「……別に」
隼人は、にやっと笑った。
「もしかして、俺がモテてんの気になる?」
慎也が、ぴたりと足を止めた。
「……調子に乗るな」
隼人は、声を出して笑った。
「はは! 冗談だって!」
慎也は何も言わず、先に歩き出した。
隼人は、その背中を追いかける。
(……何だよ、あいつ)
今日は、いつもより少し機嫌が悪そうだ。
そう思いながらも、なぜか嫌な気はしなかった。
****
五月。
隼人は、すっかりセーラー組の生活に慣れていた。
朝の身支度も早くなり、リボンも自分できれいに結べるようになった。
セーラー服を着ること自体も、楽しくなっていた。
それに、人気者になったのは最初の一日だけではなかった。
柔道部の練習が終わると、学ラン組の後輩が待っていることもある。
「前田先輩! 今日、一緒に帰りませんか!」
「おう! 途中までならな!」
休日に誘われることも増えた。
「前田、今度みんなで買い物行こうぜ!」
「いいぞ!」
もともと人付き合いが嫌いではない。
誘われるのは嬉しかった。
ただ、一つだけ困ったことがあった。
慎也が、同じくらい人気者になっていたのだ。
剣道部では、稽古中の真剣な姿が格好いいと評判だった。
それが終わり、セーラー服に着替えると、今度は可愛いと言われる。
最近は、学ラン組の男子から公式ペアに誘われることもあるらしい。
隼人は、その話を聞くたびに、何となく落ち着かなかった。
(……あいつ、そんなにモテる奴だったっけ)
いや、考えてみれば当然かもしれない。
慎也は、顔立ちが整っている。
剣道も強い。
成績もいい。
それに、真面目で面倒見もいい。
人気が出る理由はいくらでもある。
でも、隼人は少し面白くなかった。
そんなある日の放課後。
隼人は、柔道場で後輩の練習を見ていた。
「そこ、腕だけで投げようとすんな!」
畳の上で、後輩が技をかけようとしている。
隼人は、相手の前へ立った。
「一回、俺がやるから見てろ」
相手に組みつき、足の位置を確かめる。
腰を落とし、身体を回す。
動きに無駄がない。
そのまま、相手を畳へ投げた。
きれいに受け身を取った後輩が、勢いよく起き上がる。
「すげえ!」
隼人は、にっと笑った。
「力だけじゃねえんだって。相手の重心、ちゃんと見ろよ!」
「はい!」
「もう一回!」
隼人は、何度も付き合った。
うまくできない後輩がいても、怒鳴ることはしない。
ただし、手を抜くことは許さない。
「今のは違う! もう一回!」
後輩が息を切らしながら挑戦する。
三度目で、ようやく形になった。
「……よし!」
隼人は、大きくうなずいた。
「今のいいぞ!」
後輩が、嬉しそうに笑った。
そのとき、入口から声がした。
「……隼人」
顔を上げると、慎也が立っていた。
剣道部の練習を終えたらしく、竹刀袋を肩にかけている。
「慎也! 終わったのか!」
「ああ」
慎也は、畳の上を見た。
「……さっきの、見事だったな」
隼人は、少し驚いた。
「見てたのか?」
「最後のところだけ」
慎也は、静かに続けた。
「後輩に教えてるとき、お前、すごく頼もしいな」
隼人は、思わず笑った。
「……そうか?」
「ああ」
慎也は、まっすぐこちらを見た。
「格好よかった」
隼人は、何だか妙に嬉しくなった。
「……おう!」
その返事をすると、慎也が少し笑った。
隼人は、柔道着の袖を直しながら考えた。
最近、いろんな男子から褒められる。
セーラー服も似合うと言われる。
可愛いと声をかけられることも多い。
でも、慎也から格好いいと言われた今のほうが、ずっと嬉しかった。
(……何だよ、これ)
隼人は、何となく照れくさくなった。
****
数日後。
今度は、隼人が剣道場の前で慎也を待っていた。
中から、竹刀の打ち合う音が響いてくる。
「面!」
鋭い声。
隼人は、思わず足を止めた。
防具をつけた慎也が、先輩と稽古をしている。
普段は静かな男だ。
教室でも、必要以上に声を張ることはない。
でも、剣道をしているときは違う。
相手の動きをじっと見ている。
一歩踏み込み、打ち込む。
先輩が応じる。
慎也は、すぐに構えを戻した。
しばらく互いに間合いを測る。
そして。
「面!」
慎也の竹刀が、鮮やかに決まった。
隼人は、思わず声を上げた。
「……おお!」
慎也は、打ち終わったあとも気を抜かなかった。
間合いを取り、姿勢を整える。
その一連の動作が、隼人にはひどく格好よく見えた。
(……やっぱ、強えな)
慎也が剣道をしている姿は、何度も見ている。
でも、今日は目を離せなかった。
稽古が終わると、慎也が入口へやってきた。
面を外し、汗を拭っている。
「……隼人?」
「おう! 待ってた!」
慎也は、少し驚いた顔をした。
「どうした?」
「いや、ちょっと見てた」
隼人は、にっと笑った。
「お前、今日すげえ格好よかったぞ!」
慎也は、ぴたりと動きを止めた。
「……そうか」
「ああ! 最後の面、きれいに決まったな!」
慎也は、少しだけ目を伏せた。
「……ありがとう」
隼人は、その顔を見て笑った。
「何だよ、照れてんの?」
「……うるさい」
慎也は、タオルで顔を拭った。
隼人は、ますます楽しくなった。
いつも落ち着いている慎也が、自分に褒められると照れる。
そのことが、何だか嬉しかった。
****
五月の終わり。
セーラー組の身だしなみ講習が行われた。
リボンの結び方や制服の手入れを学ぶ時間だ。
隼人は、鏡の前でいくつかの形を試していた。
「……へえ」
結び目を小さくすると、すっきりした印象になる。
少し大きくすると、雰囲気が柔らかくなる。
最初は面倒だと思っていたが、やってみると案外面白い。
隣へ、慎也が来た。
「隼人、どうだ?」
振り向く。
そして、隼人は思わず黙った。
慎也のリボンは、いつもより少し柔らかな形になっていた。
白い襟との組み合わせがよく似合う。
涼しげな顔立ちも、普段より優しく見えた。
ほんの数日前、剣道場で鋭い面を決めていた男と同じ人物だ。
隼人は、じっと見つめた。
「……どうした?」
慎也が首をかしげる。
隼人は、にやっと笑った。
「……いや、お前さ」
「何だ?」
「剣道やってるとき、あんなに格好いいのにな」
慎也が、少し眉を上げた。
「……何が言いたい?」
隼人は、まっすぐ慎也を見た。
「セーラー着ると、すげえ可愛いんだよな!」
慎也が、ぴたりと動きを止めた。
それから、ゆっくり顔を赤くした。
「……お前な」
「褒めてんだぞ?」
「わかってる」
慎也は、少しだけ視線を落とした。
「……だから困るんだよ」
隼人は、目を丸くした。
「何で?」
慎也は、少し迷ってから答えた。
「……お前に言われると、照れる」
隼人は、思わず黙った。
慎也も、こちらを見ている。
何だか、急に距離が近くなった気がした。
「……そ、そうかよ」
隼人が返すと、慎也は小さくうなずいた。
「ああ」
それから、隼人の制服を見た。
「お前のも、似合ってる」
隼人は、思わず胸を張った。
「だろ!」
慎也は、ふっと笑った。
「……でも、その得意げな顔はちょっと可愛いな」
「おい! そこ褒めるところかよ!」
慎也が笑う。
隼人も、とうとう笑ってしまった。
そのとき、入口から学ラン姿の男子が声をかけてきた。
「西村!」
慎也が振り向く。
去年、同じクラスだった男子だった。
「今度の日曜、時間ある? 二人で出かけない?」
隼人の笑いが止まった。
慎也は、少し考えた。
「……何か用か?」
「いや、せっかくだし。ゆっくり話したいなって」
相手は、にこにこしている。
慎也は、困ったように眉を寄せた。
「……少し考えさせてくれ」
「うん! 返事待ってる!」
男子は、手を振って去っていった。
隼人は、黙ってその背中を見送った。
(……何だよ)
慎也が誰と出かけようと、本人の自由だ。
そんなことは、わかっている。
今までだって、友人たちと出かけることはあった。
でも、二人きりで休日を過ごすところを想像すると、どうにも面白くない。
隼人は、何となく自分のリボンを直した。
慎也が、こちらを見た。
「……隼人」
「何だよ」
「日曜、お前は?」
隼人が顔を上げる。
「……は?」
「予定、あるのか?」
隼人は、少し考えた。
「……午後なら空いてるけど」
慎也は、静かにうなずいた。
「じゃあ、一緒に飯でも食わないか」
隼人の胸が、急に軽くなった。
「……おう!」
返事が、思ったより大きくなった。
慎也が、少し驚いた顔をする。
隼人は、慌てて続けた。
「……まあ、いいぜ! 何食う?」
慎也は、少しだけ笑った。
「お前の好きなものでいい」
隼人は、何だか嬉しくなった。
(……何だよ、もう)
慎也と一緒に飯を食うなんて、今まで何度もあった。
なのに、今日は妙に楽しみだった。
****
六月。
体育祭が近づいた。
隼人と慎也は、クラス対抗の綱引きに出場することになった。
柔道部と剣道部。
二人とも体力には自信がある。
しかし、練習初日。
隼人は勢いよく綱を引き、隣の男子とタイミングがずれてしまった。
「うおっ!」
隣の男子がよろける。
慎也が、すぐに声を上げた。
「隼人! 一人で引くな!」
「わかってる!」
「わかってないだろ。今、完全に早かったぞ」
慎也は、真面目な顔だった。
隼人は少しむっとしたが、言い返せなかった。
確かに、自分だけ先に力を入れていた。
慎也が、綱を持ち直した。
「全員でタイミングを合わせよう。俺が声を出す」
隼人は、にやっと笑った。
「任せろ!」
次の練習。
慎也の声が響く。
「せーの!」
全員で、一斉に力を込めた。
綱が大きく動く。
「よっしゃ!」
隼人が叫ぶと、クラスの男子たちも歓声を上げた。
慎也は、満足そうにうなずいた。
「今のはよかった」
隼人は笑った。
「お前、やっぱ頼りになるな!」
慎也も笑う。
「お前の力があってこそだろ」
二人は拳を合わせた。
隼人は、ふと思った。
柔道の試合では、自分の判断で身体を動かす。
相手を見て、技をかける。
でも、綱引きでは違う。
自分がどれだけ力を出しても、仲間と合わなければ勝てない。
慎也は、そのタイミングを作るのがうまかった。
「……なあ、慎也」
「何だ?」
「やっぱ、お前と組むと調子いいわ!」
慎也は、少し驚いた顔をした。
それから、嬉しそうに笑った。
「……俺もだよ」
その返事が、妙に胸に残った。
練習が終わり、二人で体育館を出る。
「隼人」
慎也が声をかけた。
「ん?」
「手、見せろ」
隼人は首をかしげた。
「何だよ」
慎也が、隼人の右手を取った。
手のひらに、綱との摩擦でできた赤い跡があった。
「……やっぱり」
慎也は、少し眉を寄せた。
「お前、力入れすぎだ」
「これくらい平気だって!」
「ひどくなる前に手当てしろ」
慎也は、鞄から保護テープを取り出した。
隼人の手を支え、丁寧に貼ってくれる。
その手つきは、いつもの慎也だった。
静かで、無駄がない。
隼人は、ふと笑った。
「……お前、ほんと世話焼きだな」
慎也は顔を上げた。
「嫌ならやめるけど」
「嫌なわけねえだろ」
隼人は、即答した。
慎也が、少し驚いた顔をする。
隼人も、自分の声の大きさに驚いた。
「……あー、助かるってこと!」
慎也は、静かに笑った。
「ならよかった」
そして、もう一度隼人の手を確認する。
「……これでいい」
慎也の指が離れた。
隼人は、テープの貼られた手のひらを見つめた。
考えてみれば、慎也には何度も助けられている。
柔道の試合で負けたときも。
勉強でわからないところがあったときも。
今日の綱引きでも。
慎也は、いつも隣にいた。
しかも、自分も慎也に頼られるのが好きだった。
剣道の大会では、真っ先に応援に行きたい。
勝ったら、一番に褒めてやりたい。
負けたら、一緒に悔しがってやりたい。
(……ああ)
隼人は、ようやく気づいた。
俺、こいつのこと好きなんだ。
慎也がセーラー装になって、可愛いと思った。
ほかの男子に誘われているのを見て、面白くなかった。
自分まで可愛いと言われるようになって、何だか嬉しかった。
でも、それだけではない。
柔道場で褒めてくれたときも。
剣道場で真剣に稽古をしている姿を見たときも。
今、こうして手当てをしてくれているときも。
ずっと、好きだったのだと思う。
慎也が、隼人の顔をのぞき込んだ。
「……どうした?」
隼人は、慌てて顔を上げた。
「……いや!」
それから、思わず笑った。
「……お前、ほんといい奴だな!」
慎也は、少し眉を上げた。
「急に何だよ」
隼人は、答えられなかった。
代わりに、テープの貼られた手を軽く握った。
慎也が自分のためにしてくれたことが、無性に嬉しかった。
****
体育祭当日。
クラス対抗綱引きの決勝。
隼人は、綱を握り、深く腰を落とした。
隣には慎也がいる。
「隼人、準備は?」
「いつでも!」
慎也が、うなずいた。
周囲にはクラスメイトたちが並んでいる。
みんな緊張していた。
隼人は、大きく息を吸った。
「おい! 絶対勝つぞ!」
クラスの男子たちが声を上げた。
「おう!」
慎也が、隣で笑った。
「力みすぎるなよ」
隼人も笑う。
「お前の声、ちゃんと聞いてるって!」
合図の笛が鳴った。
綱が、一気に張る。
相手のクラスも強い。
少し引いたと思ったら、すぐに戻される。
隼人は、歯を食いしばった。
ここで一人だけ強く引いても意味がない。
何度も練習した。
慎也の合図を聞く。
全員の力を一つにする。
「せーの!」
慎也の声が響いた。
全員で引く。
綱が少し動く。
「もう一回!」
隼人は、足を踏ん張った。
慎也の声に合わせて力を込める。
「せーの!」
綱が、大きく動いた。
隣の男子が叫ぶ。
「いける!」
隼人も声を上げた。
「おう! あと少し!」
慎也が、最後の合図を出す。
「せーの!」
全員で、力いっぱい引いた。
綱が、一気に動く。
審判の笛が鳴った。
「勝者、二年セーラー二組!」
歓声が上がった。
「よっしゃあ!」
隼人は、思わず慎也へ飛びついた。
「勝ったぞ! 慎也!」
慎也も、珍しく大きな声で笑った。
「ああ! 勝った!」
二人は、思いきり抱き合った。
慎也の腕が、隼人の背中にしっかり回る。
隼人も、力いっぱい抱きしめ返した。
「お前、最高だな!」
慎也は笑った。
「隼人もな!」
周囲のクラスメイトたちが、二人を囲む。
「前田、強すぎ!」
「西村の合図、すげえよかった!」
「二人とも、めっちゃ格好よかった!」
隼人は、得意げに笑った。
「だろ!」
慎也も、嬉しそうに笑っている。
すると、誰かが言った。
「お前ら、普段はセーラーで可愛いのに、競技になると本当に格好いいな!」
隼人は、声を出して笑った。
「おう! どっちも俺らだ!」
クラスメイトたちも笑う。
慎也が、隣で少し照れたように笑った。
隼人は、その顔を見た。
稽古中は、あんなに鋭い目をしている男だ。
でも、今は嬉しそうに笑っている。
何だか、どうしようもなく可愛かった。
(……やべえな)
隼人は、また抱きしめたくなった。
相手は、ずっと一緒にいた親友だ。
今まで何度も肩を組んだ。
試合に勝てば、抱き合うこともあった。
なのに今日は、いつもと少し違う。
慎也が、こちらを見た。
「……隼人?」
隼人は、にっと笑った。
「……何でもねえ!」
そう答えながら、もう一度慎也の肩を叩いた。
早く二人きりになりたかった。
****
体育祭が終わった夕方。
隼人は用具の片づけを終え、体育館の横で慎也を待っていた。
慎也が、向こうから歩いてくる。
二人とも制服に着替えていた。
「隼人、お疲れ」
「おう! お前もな!」
慎也は、隼人の右手を見た。
「手、大丈夫か?」
隼人は、にっと笑った。
「平気! お前が貼ってくれたところも、もう大丈夫だ」
手のひらを見せると、慎也は安心したようにうなずいた。
「ならよかった」
二人は並んで歩き出した。
校舎の外では、まだ片づけが続いている。
しばらくして、慎也が口を開いた。
「……なあ、隼人」
「ん?」
「今日、学ラン組の男子から誘われたんだ」
隼人は、足を止めた。
「……何に?」
慎也は、少し迷った。
「今度の休みに、二人で出かけないかって」
隼人の胸が、ぎゅっとした。
「……へえ」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
慎也は、隼人を見た。
「断ったけどな」
隼人は、思わず息を吐いた。
「……そっか」
慎也が、少し眉を寄せた。
「……隼人」
「何だよ」
「お前も、最近よく誘われてるだろ」
隼人は顔を上げた。
「……まあな」
「昨日も、柔道部の後輩と食事に行く話してた」
隼人は、少し考えた。
「ああ。あれは部の連中と一緒の話だぞ」
慎也の表情が、わずかに変わった。
「……そうなのか」
「おう。二人きりじゃねえよ」
慎也は、小さくうなずいた。
隼人は、その顔をじっと見た。
慎也も、自分と同じことを気にしていたのだろうか。
「……なあ、慎也」
「何だ?」
「お前、何でそんなの気にしてんの?」
慎也は、黙った。
隼人は、一歩近づいた。
「……俺は、気になるぞ」
慎也が顔を上げる。
隼人は、まっすぐ見つめた。
「お前がほかの奴に誘われてんの、正直面白くねえ」
慎也の目が、大きくなった。
隼人は、もうごまかさなかった。
「……好きだから」
口にした瞬間、胸がどきりとした。
でも、後悔はなかった。
慎也は、しばらく動かなかった。
隼人は、少し照れながら続けた。
「最初はさ、お前のセーラー姿見て、めちゃくちゃ可愛いって思ったんだよ」
慎也の頬が、少し赤くなった。
「……うん」
「でも、剣道やってるときも格好いいし。俺が柔道やってると、ちゃんと見に来てくれるし」
隼人は、思わず笑った。
「何かもう、全部好きなんだよな」
慎也は、じっと隼人を見ていた。
隼人は、少しだけ息を吸った。
「……だから、お前がほかの奴と二人で出かけるとか、嫌だ」
慎也の目が、大きくなった。
隼人は、勢いよく続けた。
「俺と出かけろよ!」
言ってしまった。
隼人は、顔が熱くなるのを感じた。
慎也は、しばらく何も言わなかった。
それから、ゆっくり笑った。
「……お前な」
「何だよ!」
慎也は、少しだけ首を振った。
「順番が違うだろ」
隼人は、目を丸くした。
「……は?」
慎也は、まっすぐこちらを見ていた。
「まず、付き合おうって言えよ」
隼人は、完全に固まった。
「…………え?」
慎也は、少し照れたように笑った。
「俺だって、お前が好きなんだから」
隼人の胸が、大きく跳ねた。
「……マジ?」
「ああ」
慎也は、ゆっくり続けた。
「お前が初めて俺のセーラー姿を見たとき、可愛いって言っただろ」
隼人は、うなずいた。
「……おう」
「あれ、すごく嬉しかった」
慎也は、少しだけ目を伏せた。
「それから、お前にまた褒められたいって思うようになった」
隼人は、何も言えなかった。
慎也は続けた。
「でも、それだけじゃない。剣道の試合で勝ったときも、お前が一番に褒めてくれると嬉しかった」
隼人は、思い出した。
慎也が試合に勝って、嬉しそうに笑っていた日。
真っ先に肩を抱いて、「やったな!」と声をかけた。
「負けたときも、黙って練習に付き合ってくれただろ」
慎也は、少し笑った。
「……あのときも、嬉しかった」
隼人の胸が、いっぱいになった。
「……慎也」
慎也は、まっすぐこちらを見た。
「お前がセーラーになって、可愛いって言われてるのを見ると、俺も嬉しかった」
隼人は、目を丸くした。
「……そうなのか?」
「ああ」
慎也は、少しだけ眉を寄せた。
「……でも、ほかの奴がお前を誘うと、面白くなかった」
隼人は、思わず笑ってしまった。
「何だよ、それ!」
慎也も笑った。
「お前と同じだろ」
隼人は、胸がいっぱいになった。
ずっと隣にいた親友。
一緒に笑って、練習して、試合に勝ったり負けたりしてきた相手。
そいつが、自分を好きだと言ってくれている。
しかも、同じように嫉妬していた。
隼人は、もう我慢できなくなった。
「……慎也!」
慎也が顔を上げる。
隼人は、にっと笑った。
「俺と付き合え!」
慎也は、少しも迷わなかった。
「……ああ」
そして、嬉しそうに笑った。
「付き合いたい」
隼人は、満面の笑みになった。
「……よっしゃ!」
勢いよく慎也を抱き寄せる。
慎也も、迷わず腕を回してきた。
いつもの抱擁だった。
なのに、今日は妙に落ち着かない。
隼人は、少しだけ顔を離した。
慎也が、こちらを見ている。
近い。
普段から距離の近い二人だった。
でも、今は恋人同士だ。
そう思ったら、急に意識してしまった。
慎也が、少し笑った。
「……隼人」
「何だよ」
「そんなに見んな」
「お前も見てんじゃねえか!」
慎也が、吹き出した。
隼人も笑う。
それから、二人とも少し黙った。
隼人は、慎也の肩に置いた手を握り直した。
「……なあ」
「ん?」
「キスしていいか?」
慎也は、少しだけ目を丸くした。
それから、照れくさそうにうなずいた。
「……ああ」
隼人は、顔を近づけた。
慎也も、少し身を寄せる。
唇が触れた。
本当に一瞬だった。
離れた途端、隼人は思わず吹き出した。
「……っ、はは!」
慎也も笑った。
「……何だよ」
「いや、俺ら何やってんだって!」
慎也は、笑いながら隼人の肩を軽く叩いた。
「お前がしたいって言ったんだろ」
「お前だって、いいって言ったじゃねえか!」
「……そうだな」
二人は、また笑った。
今まで何度も肩を組んだ。
試合に勝てば抱き合った。
でも、キスをしたのは初めてだった。
しかも、二人そろって笑ってしまうほど不器用なキス。
隼人は、何だか嬉しくなった。
慎也も、楽しそうに笑っている。
隼人は、その顔を見て、また胸が高鳴った。
「……なあ、慎也」
「何だ?」
「俺ら、恋人になったんだよな」
慎也は、少しだけ笑った。
「ああ」
隼人は、にっと笑った。
「……何か、すげえな!」
慎也が吹き出した。
「何がだよ」
「わかんねえ!」
隼人が笑うと、慎也も笑った。
それから、慎也が手を差し出した。
「……帰るか」
隼人は、その手を見た。
いつもなら、肩を組んで歩くところだ。
でも、今日は少し違う。
隼人は、にっと笑った。
「おう!」
その手を、しっかり握った。
慎也も、力強く握り返してくれた。
二人は、並んで歩き出した。
****
翌週の放課後。
隼人は、柔道場で後輩の練習を見ていた。
「よし! 今のいいぞ!」
後輩が、嬉しそうに頭を下げる。
「ありがとうございます!」
隼人は、にっと笑った。
「次もその調子な!」
そのとき、入口から聞き慣れた声がした。
「……隼人」
振り向く。
慎也が、竹刀袋を肩にかけて立っていた。
「おう! 終わったのか!」
「ああ」
慎也は、畳の上を見た。
「今日も後輩の面倒見てたのか」
「おう! だいぶ上達したぞ!」
慎也は、少し笑った。
「……お前、やっぱり頼もしいな」
隼人は、得意げに胸を張った。
「だろ!」
慎也が笑った。
隼人も笑う。
少しして、二人はそれぞれの更衣室で制服に着替えた。
廊下へ出ると、慎也が待っていた。
いつものセーラー装。
白い襟に、淡い青のリボン。
短い髪が、少し汗で乱れている。
隼人は、思わず笑った。
「……なあ、慎也」
「何だ?」
「今日も可愛いな!」
慎也が、少しだけ頬を赤くした。
「……お前な」
隼人は、にっと笑った。
「本当のことだろ!」
慎也は、少し考えた。
それから、隼人を見た。
「……お前もな」
隼人は、思わず口元を緩めた。
「おう!」
慎也が、ふっと笑う。
「……その顔、嬉しそうだな」
「嬉しいに決まってんだろ!」
隼人は、少しだけ顔を近づけた。
「……お前に言われるのが一番嬉しいんだから」
慎也は、ぴたりと動きを止めた。
それから、ゆっくり顔を赤くした。
隼人は、思わず笑った。
「……お! 照れた!」
慎也が、少し眉を寄せる。
「……うるさい」
「いいじゃん! 恋人なんだし!」
慎也は、とうとう笑ってしまった。
二人で廊下を歩き出す。
すると、向こうから学ラン組の男子たちがやってきた。
「前田! 西村!」
去年のクラスメイトだった。
「今日も二人とも可愛いな!」
隼人は、笑って答えた。
「おう! ありがとな!」
慎也も、軽く会釈する。
相手は、二人の顔を見比べた。
「そういや、お前ら、公式ペアはどうしたんだ?」
隼人は、少しだけ考えた。
それから、にやっと笑う。
「俺ら、好きな奴ができたからさ!」
相手が、目を丸くした。
「……マジ!?」
慎也は、隼人の横顔を見た。
隼人は、楽しそうに笑っている。
「マジ!」
そして、慎也の肩を抱いた。
「こいつ!」
相手は、しばらく固まった。
それから、大きな声を上げた。
「……はあ!? お前ら!?」
隼人は、声を出して笑った。
慎也も、少し照れながら笑う。
「……そういうことだ」
相手は、二人の顔を見比べた。
そして、とうとう笑い出した。
「何だよ! めっちゃお似合いじゃん!」
隼人は、得意げに胸を張った。
「だろ!」
慎也が、隣で笑っている。
クラスメイトたちと別れたあと、二人は寮へ向かって歩き出した。
隼人は、ふと隣を見た。
慎也は、いつもどおり背筋を伸ばして歩いている。
その横顔は、やっぱり格好いい。
でも、セーラー服もよく似合っている。
隼人は、何だか嬉しくなった。
「……なあ、慎也」
「何だ?」
「俺ら、結局公式ペアにはならなかったな」
慎也は、少し笑った。
「そうだな。二人ともセーラーだし」
「でも、恋人にはなった!」
「ああ」
隼人は、にっと笑った。
「……こっちのほうが、ずっといいな!」
慎也が、少しだけ頬を赤くした。
それから、静かに笑った。
「……俺も、そう思う」
隼人は、慎也の肩を抱いた。
慎也も、自然に隼人の腰へ腕を回す。
いつものように、二人で歩く。
同じセーラー服。
同じ寮。
そして、今は恋人同士。
隼人は、少しだけ考えた。
「……なあ、慎也」
「何だ?」
「俺らさ、セーラーになって、めちゃくちゃモテるようになったじゃん!」
慎也は、少し笑った。
「……そうだな」
「でも、結局お互いが一番だったな!」
慎也は、一瞬黙った。
それから、声を出して笑った。
「……お前、ほんとそういうこと平気で言うな」
隼人は、にっと笑った。
「本当のことだろ!」
慎也は、少し照れながらうなずいた。
「……ああ」
そして、隼人の肩を抱く腕に力を込める。
隼人も、しっかり抱き返した。
柔道では、負けたくない。
剣道でも、強くなりたい。
二人とも、その気持ちは変わらない。
でも、好きな相手に可愛いと思われるのも、案外悪くない。
隼人は、隣の慎也を見た。
「……慎也!」
「何だ?」
「次の大会も、絶対応援行くからな!」
慎也は、少し驚いた顔をした。
それから、嬉しそうに笑った。
「……ああ。俺も、お前の試合を見に行く」
隼人は、満面の笑みになった。
「よっしゃ!」
二人は、肩を組んだまま寮へ向かった。
歩くたび、二人のセーラー服のスカートが軽く揺れる。
格好よくて、可愛くて。
そして、誰よりも大好きな親友が、今は恋人だった。




