表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

巨漢の恋

食堂に毎晩現れ、

五人前を一人で平らげる巨漢がいる。

名をアザラシ。

別にアザラシに似ているから、そう名づけられたのではない。

元からアザラシという名前だったのだ。


一人で五人前食うのだから、うちにとっては太客だ。

ここでいう太客とは、金を使ってくれる客のことだ。

太いお客ではない。


中堅の冒険者パーティでタンク役という、

盾を使い囮になる役をしているという。


ただ最近なんだか元気がない。

五人前食べていたのが、四人前しか食っていない。

少し心配だ。


「おう。どうした。最近元気がねぇみたいに見えるが……」

俺は尋ねた。


「あぁ店主。俺、あんまり自信がなくって」


「なんで自信がない? お前はタンクとして十分役に立っているだろう」


「タンク役としては役に立っていると思う。でもモテないんだ」

元気がなさそうに言った。


「モテないか……」

モテない。

嫌な言葉だ。


ボディビルを始めたきっかけがモテたいから。

そう語るものは多い。


しかし、ボディビルをやってモテるようになることは少ない。

そもそも需要と供給の関係だ。


ボディビルダーのような体形の男がモテる国。

細マッチョがモテる国。

極端に細い男がモテる国。

太った男がモテる国。


世界には色んな国がある。


日本の場合は、細マッチョ、極端に細い男がモテやすい。

治安の悪い国では、ボディビルダーのような体形の男がモテやすい。


そして同じ国内でも、

東京など都会では細マッチョ、極端に細い男がモテやすく、

地方に行くと、ボディビルダーのような体形の男がモテやすい。

俺の分析によると、

都会では知能労働が多く、体形と収入は関係がない。

むしろ体格の良い男=肉体労働者のイメージになり、

肉体労働=知的労働と比べ低賃金というイメージから、人気が落ちる傾向にある。

そう思う。


逆に地方では肉体労働が多く、

体の大きな男のほうが高収入というイメージがある。


つまり体形でのモテ・非モテは治安、経済や産業構造なども影響しており、

都会に住んでいるという文脈上、

ボディビルをするというのは、モテには直結しにくい。

ただこれは極端にボディビルをする場合のみであり、

細マッチョを目指す分には、たしかにモテやすくなる。


要はボディビルがモテるモテないではなく、

需要のある体形になる、もしくは維持する為にボディビルを使うなら良いが、

コンテストや、

そのジムでの承認欲求に方向性が偏ると、

モテとは逆のベクトルに進む。

そういう事だ。


そして一番大切なのは、

自分が好きになった相手が好む体形が、

どんな体形かということだ。


「なぁアザラシ。お前は自分の体形の事を否定しているのか?」


アザラシは目をそらす。

「そりゃ、こんな体形。好きになってくれる女の子なんかいない」

そう呟く。


「なぐさめになってないかもしれないがな。

世界には太った男がモテる国もあれば、細い男がモテる国もある。

俺みたいな筋肉の男がモテる国もある」


「本当か」


「あぁ。それに同じ国の中ですら、都会は細い男がモテやすい。逆に地方では筋肉が多い男がモテやすいというのがある」


「好きな子にモテるにはどうすれば良い?」


俺は頭をかきながら、

「俺に質問するような話でもない気がするが、頼りになる男なら、嫌われはしないだろう」

そう言った。


「でも、俺、少し痩せようと思うんだ。でも食わないと元気が出ないし」

アザラシは悲しそうにうつむいた。


「じゃあ今度からお前……、夜に食う分を全部朝に食っちまえ」


「朝に? なんでだ」


「あくまで傾向なんだが、夜に食うと脂肪になりやすい。でも朝に食うと、脂肪になりにくいんだ」


「じゃあ太りにくいって事か」


「あぁそうだ。お前、朝も昼も食わずに、夜たらふく食うだろ」


「あぁ仕事帰りにたらふく食う」


「それを逆転させるんだ」


「しかし朝は食えない。胃が気持ち悪いんだ」


「それは前日の晩に食いすぎるからだ」


「今日はもうこれだけでやめにして、明日の朝からうちに来い」


「あぁわかった。試しにやってみる」


「そうだな。一週間試しにやってみろ。それで調子がいいとか、身体が軽いなら続ければいい」


「わかった」

アザラシはそう言い、

さらにあった食べものを平らげ、帰っていった。


……

それからアザラシは、

毎朝来ては五人前食い、

仕事に出かけた。


始めは気持ちが悪いと言っていたが、

三日ほどすると慣れたようだ。


心なしか、

肌つやもよくなり、気持ち身体が引き締まったように見える。


「どうだ。アザラシ。調子は」


「それがグッスリ眠れるんだ。そして朝はスッキリと目が覚める。こんな経験は初めてだ」


「そうか。お前に合っていたんだな。どうだ身体は軽いか?」


「あぁとっても軽い。タンク役も前よりスムーズにできる」


「困ったことはないか?」


「そうだな。若干体重が軽くなったのか。盾で攻撃を受ける時、若干後ろにブレる」


なるほど。

そういう事か。


俺はアザラシの身体を触らせてもらう。

筋肉はあるが、量は少ない。


こいつはどうすると良い……。

足腰の踏ん張りを鍛えるために。


俺はお相撲さんのトレーニング、ぶつかり稽古を思い出していた。


一人のお相撲さんに向かって、他のお相撲さんがぶつかっていく。

その衝撃をただひたすら受け止めるトレーニングだ。


このトレーニングの良い所は、

ぶつかる側、ぶつかられる側。

両方のトレーニングになることだ。


俺はアザラシに、

ほかのタンクとの仲を聞いてみた。

すると遊んだりはしないが、

情報交換などはするらしい。

そして、

うちの店の常連にもタンクが他にいるということがわかった。


俺は他のタンクにも声をかけ、

ぶつかり稽古を教えた。

はじめは半信半疑だったが、

俺の筋肉を見て参加を決めた。


ぶつかり稽古は公園で行った。

わざわざ道場を構えるコストがなかったからだ。

そして始めは俺が指導をしたが、途中からは皆に任せた。


そして三か月後。

冒険者ギルドのタンク役は、

皆……、

ぶつかり稽古に参加するようになった。


嬉しい誤算だったのは、

大半のタンクが、俺の食堂の常連になってくれたことだ。

しかも皆朝の時間に来てくれる。

お陰で朝と夜の分散ができるようになった。


アザラシの言っていた盾がブレる問題は消えた。

そしてケガが多かったタンク役のケガも大幅に減ったそうだ。


俺は手ごたえを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ