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筋トレ否定ーガチ戦闘肯定派

マリーに筋トレを指導し始めて三か月。

筋肉もずいぶんついてきた。

マリーは小さい冒険者パーティの後衛としてスカウトされた。


「マリー。何を躊躇している。念願のパーティスカウトだろ。行って来いよ」

俺は皿を拭きながら言った。


「でも……、

私がいけばアルフレッドさん大変じゃないですか?」


たしかに大変だ。

しかし俺がハードだからと、

マリーの夢を引き留める事はできない。


「平気だ。マリーが来るまでは、ワンオペで回していた。

気にするな」


「でも……。私、アルフレッドさんのまかないを食べるのが楽しみなんです」

マリーは顔を赤らめ、そう言った。


そうか……、

俺のまかないはそんなに美味いのか。


「じゃあ。パーティが暇な時に来るか?」

俺は言った。


「はい」

マリーは嬉しそうに答えた。


冒険者と手伝いの兼務は大変だろう。

そう思いながら、俺はマリーが来るという事がたまらなくうれしかった。


……

ある日のこと、俺は食堂で新人冒険者に筋トレの方法を伝授していた。


「あなたのように筋肉がつく方法を教えてください」

と頼まれたからだ。


むろんタダで教える気などない。

だから俺は、

「筋肉に重要なのは、トレーニングと栄養だ。

栄養をしっかり摂らない奴は強くなれない。

幸いうちの食事は栄養がしっかり摂れる。

うちの常連になら教えてやってもいい」


そう言ったら、その冒険者はうちの常連になった。


「違う。スクワットはもっとお尻を突き出すようにするんだ。そうしないと故障するぞ」

激を飛ばす。


「はい師匠」

新人冒険者はおぼつかない姿勢でスクワットを繰り返す。


(はっはははははは)

大きな笑い声が聞こえる。

何だ?


そこには体中傷だらけのごつい男がいた。

美しい筋肉ではないが、実戦で鍛えられたことがわかる筋肉だった。


「筋トレなんぞ。冒険者には不要。戦いこそが最強。ワシはずっとそうやってやってきた」

男は言った。


俺は目を細める。

「なるほどな。そう言いたい気持ちはわかる。

しかしな……。

最弱モンスターにさえ、勝てない奴はどうする?

そいつらは筋トレで鍛えてから戦いに参加するのも悪くはない」

俺はそう言った。


「ははは。それはそうだ。弱い奴は筋トレで鍛えればいい」

男はさげすむような眼で新人冒険者を睨みつける。


「そうだ。弱い奴は鍛えればいい。それはお前もだ」

俺は男を指さした。


辺りがざわつく。


「なに? ワシが弱いだと」

男は腰の剣に手をかける。


殺気?

いや違う。

様子見をしているようだ。

単純な猪突猛進男というわけでもなさそうだ。


「お前はふくらはぎの筋肉が全体に比べ脆弱だ。だから長距離の移動が難しくなる」

俺はふくらはぎを指さした。


「なぜそんなことがわかる」

男は微動だにしないが、少しの動揺が伝わってくる。


「筋肉を見れば、おおよその見当はつく。お前は筋トレをすれば、もっと強くなる。ふくらはぎの筋肉は戦いで得るより、筋トレのほうが早い」

俺は言い切った。


男は視線を足元に落とし、

己のふくらはぎを触る。

「どうすればいい」

ぽつりと言った。


「筋トレは不要ではなかったのか」

俺は少し冷たく言った。


「試してないのに、不要だというのは大人気ない。ちゃんとやってから……不要だと罵ってやるよ」

男は言う。


「常連以外に教える気はない。人を小馬鹿にするような奴に教える道理はない」


「わかった。常連になるよ」

男はそう言い、あれこれ注文しだした。


それから一週間、男は毎日のように通い。

俺はようやく、ふくらはぎの鍛え方を教えた。


「こうやるんだ。やってみろ」


「こんな簡単なもので、ふっ。笑わせやがる」

男は俺に合わせて筋トレをはじめる。

10回20回30回

回を重ねるごとに、男の顔は少しずつ歪む。

50回を過ぎたとき、

男の動きは止まった。


「もうムリだ」


俺はそこからさらに回数を重ね、

200回でやめた。


「まだ余力はあるが、仕事中だからやめておこう」

俺は言った。


「お前すごいな。なぜ冒険者をしない。お前ならトップにいける。ワシはそう思う」


「俺は戦う事に興味はない。育てるほうが楽しいんだ」

そう言った。


それからも男は毎日のように通い、

ふくらはぎを鍛えた。


―――――――――――――1か月後


男はこう言った。

「師匠―――筋トレ最高でした」


筋トレ否定ーガチ戦闘肯定派に、

俺は勝利をした。


ボディビル時代。

見せ筋、

使えない筋肉と散々揶揄された。


日本人出身のメジャーリーガーが筋トレを重視した事で、

筋トレ否定論者はずいぶん減ったが、

筋トレで鍛えた筋肉は使えない。

と思っている指導者は今だ多い。


しかし、

よくよく考えてみると、

筋トレで鍛えた筋肉が使えない、使えるという論は、

そもそも、前提が正しくない。


筋トレでも、

競技に関係のない筋肉や、競技の目的と反する筋肉を鍛えれば、

それはムダになる。


しかし競技に関係のある筋肉を鍛えれば、それは大きな武器になる。


たとえば大胸筋。

大胸筋を鍛えると押す力が強くなる。

しかし大きすぎる大胸筋は腕の稼働範囲を狭くする。


例えばゴルフなどであれば、大胸筋の極端な発達は、競技のさまたげになる。


またボート競技。

これは足の筋肉と広背筋などの力が必要となってくる。

ただ広背筋の力が必要だからと言って、広背筋ばかり鍛えると、

上半身に頼り漕ぐ形になるため都合が悪い。

ボートの最大出力は足の筋肉であるから、足を中心に鍛えるほうが理に適っている。


大切なのは、その競技を全力で行った時に、どこに負担が最も来るか?

これを確かめ、

その部位を中心に鍛えることだ。


たとえば、ふくらはぎの痛みを訴えるものが多い競技なら、

ふくらはぎの筋トレを積極的に取り入れろ。


つまりその筋肉がその競技者にとっての弱点となり、

筋トレはその弱点を補うものなのだ。


あの男の場合は、

それがふくらはぎだった。

だから男は強くなったのだ。


筋トレが競技に使えないのではない。

ただ知識と分析不足で、

筋トレを使いこなせない者達が多いだけなのだ。



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